小児感染症科医のお勉強ノート

群馬県立小児医療センターで感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

黄色ブドウ球菌菌血症においてリネゾリドへの早期oral switchは悪くない

 黄色ブドウ球菌菌血症(SAB)は、「最低でも2週間の抗菌薬投与」が必要な重症感染症です。成人では、IEが否定できない場合には4週間の静注を行うことも多く、入院日数がかなり長期になっていました。OPATなどが普及すれば、解決できるのですが、そもそも経口抗菌薬に変更できないかという検討です。
 今回、紹介するのは、成人のSAB(複雑性SABを除く)を早期にリネゾリドに変更した場合に、治療効果はどうか検討した研究(傾向スコアマッチング)です。
 日本では、リネゾリドは高価で、入院費用は安いため、医療経済的なメリットが有るのかは難しいですが、治療効果が同じで、早期退院ができるのであれば、良い選択肢かなと思います。 
 
要点
・成人のSABの一部では、2週間の静注抗菌薬治療とリネゾリドへの早期oral switchは治療効果が変わらない。
・30日死亡は、リネゾリド群で低い傾向がある。
・入院期間は、(当然ですが)リネゾリド群で短い
 
Early Oral Switch to Linezolid for Low-risk Patients With Staphylococcus aureus Bloodstream Infections: A Propensity-matched Cohort Study
Clin Infect Dis. 2019;69(3):381-387.
 
 
背景:
 黄色ブドウ球菌菌血症(SAB)における標準的な静注抗菌薬療法(SPT)の代替として、リネゾリド経口投与への早期変更(early oral switch)が有望視されている。
 
方法:
 スペインの大学病院で2013年から2017年の間に発症したSABの全成人症例を対象に前方視的コホート研究を実施した。治療開始から3日目-9日目までの間にSPTをリネゾリド経口に切り替えた患者と、SPTを受けた患者について、有効性、安全性、入院期間を比較した。複雑型SABおよび骨関節感染症を除外した。傾向スコアのマッチングにはk-nearest neighborアルゴリズムを使用した。
 
結果:
 傾向スコアマッチング後、リネゾリド群45例、SPT群90例を対象として解析した。主なSABの原因は、カテーテル関連(49.6%)、感染巣原因(20.0%)、皮膚および軟部組織(17.0%)であった。90日以内の再発は、リネゾリド群とSPT群で差は認められなかった(2.2% vs 4.4%;P = 0.87)。30 日間の全死因死亡率は、リネゾリド群と SPT 群で統計学的に有意な差は認められなかった(2.2% vs 13.3%;P = 0.08)。発症後の入院期間の中央値は、リネゾリド群で8日、SPT群で19日であった(P < 0.01)。リネゾリド群で、治療中止に至る薬物関連の副作用は認められなかった。
 
結論:
 特定の低リスクSAB患者を対象に、治療開始から3日目-9日目までの間にリネゾリドへoral switchを行ったSABの治療は、SPTとほぼ同じ治療成績を示し、早期の退院を可能にした。
 
 
追加のポイント
・今回の対象患者は、比較的シンプルなSAB患者のみを対象としている
 以下を除く成人(18歳以上)の黄色ブドウ球菌菌血症患者
 ・血液培養陽性から7日以内の死亡
 ・複雑型SAB
   適切な治療にも関わらず3日以上血液培養陽性が持続
   化膿性血栓性静脈炎
   感染性心内膜炎
   感染性動脈瘤
   血管内グラフト感染
   治療前に播種性病変あり
   デバイス除去できないデバイス感染症
 ・骨・関節感染症
 ・リネゾリド以外の経口抗菌薬に変更
 ・治療開始3−9日目以外の期間に変更
 ・フォローアップ不可能症例
 
・合計治療期間は、両群とも中央値15日間。リネゾリド群の方が約1週間早く退院できた。
 
・90日以内の再発率に差はなかった。
 再発に関連した因子は、好中球減少、人工弁、適切な治療期間までの日数であった。
・30日死亡は、交絡因子を調整すると、リネゾリド群で低い(OR, 0.1 [95% CI, .0-.9]; p=.04)。
 30日死亡に関連していた因子は、Charlson comorbidity indexと肝硬変であった。
 
 リネゾリドは菌血症には使わ無いほうが良いという認識から、状況に応じて適切にoral switchの選択肢としても考慮することが大事だと思いました。でも、費用がなあ…。