しかし、それでも菌血症が持続する場合には、「ダプトマイシン+セフタロリン(MRSAにも効果がある第5世代セフェム)」などが、米国では次の治療戦略 (salvage therapy)になります。
日本には、セフタロリンが無いので、他の方法を考えるしか無いのですが、なかなか確立したものは無いと思っています。(ハベカシンとか、リネゾリドとか…)
ご存知のように、MRSAは、βラクタム系抗菌薬に対し耐性を示します。しかし、バンコマイシンやダプトマイシンとβラクタムを併用すると、MRSA菌株のバンコマイシンやダプトマイシンに対するMICが低下し、菌体が消失する時間が短くなる現象があることが知られています。βラクタム単独では耐性ですが、併用することで治療効果が高まるのではないかと、理論上考えることができます。小規模な研究でも有効性を示唆する報告があります。
今回の研究は、このような現象を参考に、実際の臨床でMRSA菌血症の成人患者に、バンコマイシン(またはダプトマイシン)+βラクタム系抗菌薬(抗ブドウ球菌活性のあるセファゾリンなど)を使用すると、死亡率や持続菌血症の期間に影響を与えるのかという、ランダム化比較試験です。
要点
・本研究は、併用療法での急性腎障害の増加という安全上の懸念から早期に終了された。
・両群間で死亡率に有意差なし。
・5日目の菌血症持続は、併用療法で少ない傾向があった(11% vs. 20%)。
Effect of Vancomycin or Daptomycin With vs Without an Antistaphylococcal β-Lactam on Mortality, Bacteremia, Relapse, or Treatment Failure in Patients With MRSA Bacteremia: A Randomized Clinical Trial
Tong SYC, et al. JAMA. 2020 Feb 11;323(6):527-537.
意義:
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)菌血症の死亡率は20%を超える。標準治療とβ-ラクタム系抗菌薬の併用療法は死亡率を低下する可能性が示唆されているが、この仮設を証明する強力な無作為化臨床試験は実施されていない。
目的:
方法:
MRSA菌血症と診断された成人の入院患者352例を対象とした。2015年8月から2018年7月まで、4カ国(オーストラリア、ニュージーランド、シンガポール、イスラエル)27施設で、オープンラベル無作為化臨床試験を実施した。2018年10月23日にフォローアップが完了した。対象患者は、標準治療(バンコマイシンまたはダプトマイシン)+抗ブドウ球菌β-ラクタム系抗菌薬(フルクロキサシリン、クロキサシリンまたはセファゾリン)(n = 174)と標準治療(n = 178)に無作為に割り付けられた。治療期間は治療する臨床医によって決定され、β-ラクタムは7日間投与された。
一次エンドポイントは、90日目の死亡率、5日目の菌血症持続の有無、菌血症の再発、微生物学的治療の失敗を複合したものである。2次エンドポイントは、14日目、42日目、90日目の死亡率、2日目と5日目の菌血症持続の有無、急性腎障害(AKI)、菌血症の再発、微生物学的治療の失敗、および静注での治療期間が含まれた。
結果
安全性モニタリング委員会は、440人の患者の登録前に、試験の早期終了を推奨した。無作為化された352人の患者(平均年齢62.2[SD 17.7]歳;女性121人[34.4%])のうち、345人(98%)が研究を完遂した。主要エンドポイントは、併用療法で59例(35%)、標準療法で68例(39%)が達成した(-4.2%、95%CI; -14.3%-6.0%)。事前に設定した9つの2次エンドポイントのうち7つは、有意差を示さなかった。併用療法群と標準療法群で比較したところ、90日目の全死亡率は35例(21%)対28例(16%)(+4.5%、95%CI; -3.7%-12.7%);5日目の菌血症持続は19/166例(11%)対35/172例(20%)(-8.9%、95%CI; -16.0%- -1.2%)、試験参加前から透析を受けている患者を除くと、AKIは34/145例(23%)対9/145例(6%)で発生した(+17.2%、95%CI; 9.3%~25.2%)。
結論:
MRSA 菌血症患者において、バンコマイシンまたはダプトマイシンによる標準治療にβ-ラクタムを追加しても、死亡、菌血症の持続、再発、治療失敗において、有意な改善は得られなかった。安全性の懸念と、臨床的効果を検出することが十分できない可能性を考慮して、試験の早期終了を決定した。
5日目の菌血症持続は、併用群で少ない可能性があるが、AKIの頻度が併用群で高い。理論的に効果があると思われても、実臨床での差異はなかなか出ないものです。