小児感染症科医のお勉強ノート

小児感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

β-D-グルカンの偽陽性の原因

 β-D-グルカンは、侵襲性真菌感染症の検査として、頻用されています。検査方法やカットオフ値により、感度・特異度が変わってきますが、侵襲性真菌感染症では、感度が78−95%、特異度は85.7−98%程度です。

 しかし、偽陽性がそれなりに見られる検査で、「上昇=真菌感染」とはならないので注意が必要です。β-D-グルカンが、上昇する要因に関して調べました。
 
Specificity Influences in (1→3)-beta-d-Glucan-Supported Diagnosis of Invasive Fungal Disease. Finkelman MA. J Fungi (Basel). 2020 Dec 29;7(1):14.
 
 β-D-グルカン(BDG)は、真菌の主な細胞壁構成成分で、カブトガニ血漿の凝固反応のうち、G因子を介した経路のみを特異的に活性化する。この反応を利用し、血中のβ-D-グルカンを特異的に検出定量できる。
 BDGは、侵襲性真菌感染症(IFD)の診断に補助的に使用されている。BDGは陰性的中率が非常に高いが、偽陽性が発生する可能性があり、特異度と陽性予的中率は高くない。診断としては偽陽性であっても、血液中にBDGが実際に高値になることもある。本レビューでは、血液中のBDG上昇の原因となるIFD以外のものを検索した。
 BDG上昇の原因は主に、BDGを含む医療材料・薬剤や、粘膜バリア障害による腸管のBDGが血中に入った場合などである。
 Nocardia sp.の感染も、BDG の上昇に寄与する可能性がある。IFD以外の理由でBDGが上昇する可能性のあることを知ることにより、患者ケアを改善し、BDGが減少する経過をフォローするような戦略を取れるようになる。
 注意:IFDでもムーコル感染症ではBDGは上昇しないので注意が必要。
 
 
BDGが上昇する可能性のある医薬品・医療材料
・ガーゼ
・外科手術で使用するスポンジ
・汚染された製造機器で製造された薬品
セルロースのフィルター
セルロース膜を使用した血液透析
・静注用免疫グロブリン製剤
・抗菌薬
 
BDGが上昇する可能性のある患者の状態
・広範囲の熱傷
・腸管の虚血状態(からのトランスロケーション)
・慢性腎臓病
・嚢胞線維症
・腸球菌菌血症
HIV関連
・侵襲的人工呼吸管理
・ループスエリテマトーデス
・敗血症、敗血症性ショック
・腹部手術後
(追記)
・侵襲性真菌感染症の既往(感染後6ヶ月〜1年程度BDGの高値が持続する例があるとご指摘を頂き、追加しました。)
 
侵襲性真菌感染症以外のBDG上昇の診断プロセス
・静注免疫グロブリン(IVIG)を行ったか?
アルブミン製剤を投与したか?
・完全静脈栄養か?
・侵襲の高い手術を4日以内に実施したか?
・ガーゼを埋め込んだり、外科的にスポンジでパッキングを行っていないか?
・その他に、セルロースを使用した医療材料を使用していないか?
・重度の粘膜炎や腸炎がないか?
血液透析をしていないか?
・侵襲性のノカルジア感染症はないか?
・腸管の虚血や低酸素の可能性はないか?
・ニューモシスチス肺炎は除外されているか?
 
 
 セルロースを使ったモノには、BDGが含まれているので、薬品であり医療材料であれ、これらが、身体に入ると血液中のBDGは上昇します。また、腸管内には真菌もいますし、きのこ類を摂取すると、腸管粘膜の破綻があれば、BDGが血中に入り上昇します。これに加えて、日本では、海藻の大量摂取や、民間療法としてアガリクスなどのきのこを多く摂取した場合に、BDG上昇が報告されています。

f:id:PedsID:20210207171836p:plain