小児感染症科医のお勉強ノート

小児感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

小児科の末梢ラインは、エコーよりも職人芸を磨くべし

 小児救急において、スムーズに静脈路を確保できることは、非常に重要です。点滴が上手だと、看護師からも信頼されます(多分)。
 外来には、トランスイルミネーターという写真のような赤い光を放つ道具があり、これを使って静脈を透見して、点滴を入れます。
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 それでも、どうしても、点滴が難しい人は、他の医師に変わってもらったりするわけですが、最悪、骨髄針か中心静脈確保という選択肢もあります。エコーガイド下の静脈路確保は成人ではPICCカテーテル確保などで、役に立ちますが、今回の研究は小児でエコーガイド下で末梢静脈路を確保した方が、成功率が高いかを検討した研究です。都立小児から報告です。
 
 
Ultrasound-guided peripheral intravenous access placement for children in the emergency department
Otani T, et al. Eur J Pediatr. 2018; 177: 1443.
 
 小児において、末梢静脈路確保における超音波ガイドの有用性はまだ確立されていない。この前向き比較研究では、小児救急で超音波ガイドを用いた静脈路確保の成功率を調査した。従来の手技で1回目を失敗した後、2回目と3回目は、超音波ガイド(リアルタイム二人法)と従来の手技のいずれかを用いて行われた。2回目と3回目の静脈路確保の成功率を比較した。合計712人の参加者のうち、1回目の静脈路確保が失敗した患者は、超音波ガイド(n = 99)と従来手技(n = 100)のグループに割り振られました。成功率は、超音波ガイド群(65%)が従来手技群(84%)よりも有意に低かった(p = 0.002)。これは多重ロジスティック回帰分析で交絡因子を調整した後も有意であった(オッズ比 2.60、95%信頼区間1.26-5.37、p = 0.001)。
 結論:従来法で静脈路確保を1回失敗した小児において、リアルタイム二人法を用いた超音波ガイド下での静脈路確保は、従来の方法に比べて成功率が有意に低かった。
 

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  静脈路確保を行ったのは、卒後3年目以降の医師で、健康ボランティで最低20回は練習を行い、手技を習得したとのことです。エコー法で65%、従来法で84%成功しており、従来のトランスイルミネーターを用いた方法が成功率が高いようです。医師3年目と(老眼が始まる前の)15−25年目くらいの成功率を知りたい気もしますが、いずれにしても、エコーよりも従来法が良い。
 しかし、従来法は、小児科医なら、毎日のようにやっている手技ですし、20回練習したと言っても、従来法のほうが有利な気もします。
 
 
 そう思っていると、オランダから熱いLetterが返ってきていました。いやー、江戸時代に日本とオランダが出島で貿易をしていた歴史を彷彿とさせます。
 
 針を入れるとエコーの画像が乱れるし小児なので動きやすいし(特に二人でやると動きやすい)、エコーでの事前練習がそもそも足りん!、という熱い指摘がありました。
 昔は、「手袋したら、血管触れなくなるし、手袋なんてしない!」「安全装置付きのサーフロは頭の部分が重くて繊細な動きができん!」と言って、拒否した先生も多かったです。エコーも100回くらいやって、慣れたら意外と成功率が良いのかもしれませんね。 

link.springer.com

 

 つまり、何が言いたいかと言うと、

「小児科医は末梢ライン確保に、理解不能なくらい熱い想いがあるんです!」ということです。