小児感染症科医のお勉強ノート

群馬県立小児医療センターで感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

COVID-19に対するレムデシビルの効果(ACTT-1とSolidarity studyの2つのRCTが明らかにする事実)

 2020年10月17日に、世界保健機関(WHO)はレムデシビルをはじめとする4種類の抗ウイルス薬がCOVID-19に対して無効であると発表しました。(レムデシビルなど4薬効果なし コロナ入院患者にーWHO
 これは、WHOが30カ国で実施したランダム化比較試験(Solidarity study)の結果を受けたものです。現在、査読前の論文を読むことができます。
 
 レムデシビルが有用であると示されたACTT-1 studyの最終報告がNEJMに出ましたので、2つの研究の結果がどうして異なるのかを、考察してみました。
 
要点は
・ACTT-1 studyによると、レムデシビルは、酸素投与が必要なCovid-19患者の回復を早める可能性がある。
・酸素投与不要の軽症例や、人工呼吸器管理が必要な重症例では、レムデシビルによる効果は期待しにくい。
・レムデシビルの有効性が認められる前提条件として、十分な支持療法ができる優れた医療環境が整っている必要があると推測される。 
 
まとめの表
 
 
ACTT-1 study
Solidarity study
実施国
先進国のみ
先進国と途上国
症例数
1,062例
11,330例
重症の割合
27%(多い)
8%(少ない)
全体の死亡率
約13%
約11%
重症者の死亡率
約20% (少ない)
約39% (多い)
主要な結果
レムデシビルは回復
を早める
死亡率も低い傾向
レムデシビルで
死亡率は低下
しない
 
ACTT-1参加国:米国、デンマーク、英国、ギリシア、ドイツ、韓国、メキシコ、スペイン、日本、シンガポール
 
Solidarity study参加国:アルバニア、アルゼンチン、オーストリア、ベルギー、ブラジル、カナダ、エジプト、フィンランド、フランス、ホンジュラス、インド、インドネシア、イラン、アイルランド、イタリア、クウェートレバノンルクセンブルクリトアニア、マレーシア、マケドニアノルウェーパキスタン、ペルー、フィリピン、サウジアラビア南アフリカ、スペイン、スイス
 
 
まずは、ACTT-1 studyの最終報告です。
 
Remdesivir for the Treatment of Covid-19
— Final Report
N Engl J Med. 2020 Oct 8.
 
背景:
新型コロナウイルス感染症(Covid-19)に対していくつかの治療薬が評価されているが、有効性が示された抗ウイルス薬はまだない。
 
方法:
 Covid-19のために入院し、下気道感染を合併した成人患者を対象に、レムデシビル静注の二重盲検無作為化プラセボ対照試験を実施した。レムデシビル(1日目に200mgを投与、その後100mgを1日1回を最大9日間投与)またはプラセボを10日間投与する群に無作為に割り付けた。主要アウトカムは、回復までの期間とし、退院または感染制御のみを目的とした入院に切り替えるまでの時間と定義した。
 
結果:
 合計1062例の患者が無作為化された(541人がレムデシビル、521人がプラセボに割り付けられた)。レムデシビル群の回復までの期間の中央値は10日(95%信頼区間[CI]、9ー11日)であり、プラセボ群では15日(95%CI, 13ー18日)であった(回復率の比、1.29;95%CI, 1.12ー1.49;P<0.001)。8項目の尺度による比例オッズモデルを用いた解析では、レムデシビル群は、プラセボ群よりも15日目に臨床的改善を示す確率が高かった(オッズ比 1.5; 95%CI, 1.2ー1.9)。死亡率は、15日時点でレムデシビル群で6.7%、プラセボ群で11.9%、29日時点でレムデシビル群で11.4%、プラセボ群で15.2%であった(ハザード比, 0.73; 95%CI, 0.52-1.03)。重篤な有害事象は、レムデシビル群532例中131例(24.6%)、プラセボ群516例中163例(31.6%)で報告された。
 
結論:
 Covid-19で入院し下気道感染を認めた成人患者において、レムでシビルはプラセボと比較し、回復までの時間を短縮する。(ACTT-1 ClinicalTrials.gov number, NCT04280705)
 

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追加の解説
・参加施設は、米国45、デンマーク8、英国5、ギリシア4、ドイツ3、韓国2、メキシコ2、スペイン2、日本1、シンガポール1施設です。先進国で高い医療レベルがある環境で実施された試験になります。
・発症から試験に参加するまでの中央値は9日 (IQR 6-12)でした。それほど早期投与されていないことが分かります。
・重症度は、酸素不要 13%、酸素投与のみ 41%、非侵襲的人工呼吸や高流量酸素 18.2%、侵襲的人工呼吸またはECMO 26.8%と、重症例がかなり多いです。
・重症度別に、回復までの時間を見ると、軽症(酸素不要)例と重症(高流量酸素・人工呼吸・ECMO)では有意差がないことが分かります。レムデシビルの効果が最も高いのは、酸素が必要だけど、そこまで重症ではない患者層であることが分かります。
・死亡率に関しては、レムデシビル群で低い傾向がありますが、95%CIが 0.52-1.03となり、有意差があるとまで言えない結果です。
 
 
 
 
続いて、Solidarity studyです。
Repurposed antiviral drugs for COVID-19
–interim WHO SOLIDARITY trial results
 これは、medRXivに掲載された査読前論文です。
 
背景:
  WHO専門家グループは、COVID-19の入院患者を対象に、4種類の抗ウイルス薬の死亡率に関する臨床試験を推奨した。
 
方法:
 治療薬はレムデシビル、ヒドロキシクロロキン、ロピナビル(リトナビル合剤)、インターフェロン-β1aである。COVID-19の入院患者は、地域により入手可能な治療薬とコントロール(5つの選択肢:4つの治療薬と標準治療)の間で等しく無作為に割り付けられた。ITT一次解析は、各治療薬とコントロールの4つのペアで院内死亡率を比較した。RRは、年齢と入室時の人工呼吸の有無で層別化した。
 
結果:
 30カ国405病院で11,266人の成人患者が無作為に割り付けられ、2750人がレムデシビル、954人がヒドロキシクロロキン、1411人がロピナビル、651人がインターフェロン+ロピナビル、1412人がインターフェロンのみ、4088人が治療薬無しに割り付けられた。プロトコル遵守率は治療途中で94ー96%であった。1253例が死亡した(中央値8日目、IQR 4ー14)。28日目時点の死亡率は12%(登録時に人工呼吸器管理を行っている場合は39%、そうでない場合は10%)であった。死亡率比 (death rate ratio)(95%CI、死亡者数/割付られた患者数)は以下の通りであった。レムデシビル RR=0.95(0.81-1.11、p=0.50、301/2743 vs. 303/2708)、ヒドロキシクロロキン RR=1.19(0.89~1.59、p=0.23、104/947 vs. 84/947)であった。 23;104/947 vs 84/906),ロピナビル RR=1.00(0.79-1.25,p=0.97;148/1399 vs 146/1372),インターフェロン RR=1.16(0.96-1.39,p=0.11;243/2050 vs 216/2050)であった。どの治療薬も、死亡率・人工呼吸器管理の開始・入院期間を有意に減少させなかった。
 
結論:
 レムデシビル、ヒドロキシクロロキン、ロピナビル、インターフェロンは、全死亡率、人工呼吸器管理の開始、入院期間に全くあるいはほとんど影響を与えないように見える。(資金提供:WHO、登録:ISRCTN83971151、NCT04315948)
 
 追加の解説
 ・入院時の状態は、酸素不要28%、酸素投与63%、人工呼吸器管理8%です。
 重症例の割合は、ACTT-1 studyと比較して少ないです。
・一方、28日死亡は、酸素不要2.5%、酸素投与12.8%、人工呼吸器管理39%で全体では11.8%になります。ACTT-1 studyでは、29日死亡率が、レムデシビル群で11.4%、対照群で15.2%になります。つまり、
 ACTT-1 studyの方が重症例が多いが、全体の死亡率はあまり変わらない」ということです。
・ACTT-1 studyでは、重症例の死亡率は、レムデシビル群で21.9%、対照群で19.3%です。つまり、ACTT-1 studyの方が、重症例で特に死亡率が低いのです。
 
 ACTT-1 studyは先進国主体の研究ですが、Solidarity studyは30カ国の共同研究です。30カ国にはフランス、イタリア、スイスなどの先進国も入っていますが、南米のブラジル・ペルー、他にエジプト、インド、インドネシア、イラン、パキスタンなど、医療提供体制が十分とは言えない国も多く入っており、死亡率の高さには、提供できる医療レベルの差があった可能性があります。
 
 ACTT-1 studyでは、レムデシビル開始までの中央値は発症から9日でした。Solidarity studyでは、発症後何日目から投与されたかの記載はなく、入院後2日以上経過してから研究に参加した患者が38%います。発症後日数が経過した症例が多い可能性があります。
 
まとめです。
・ACTT-1 studyによると、レムデシビルは、酸素投与が必要なCovid-19患者の回復を早める可能性がある。
・酸素投与不要の軽症例や、人工呼吸器管理が必要な重症例では、レムデシビルによる効果は期待しにくい。
・レムデシビルの有効性が認められる前提条件として、十分な支持療法ができる優れた医療環境が整っている必要があると推測される。 
 
 
ACTT-1(NIAID)
Solidarity study(WHO)
対象患者
1062例
11330例
レムデシビル
投与患者数
541例
2750例
実施国
10カ国
 
30カ国
 
患者背景
 
 
 低流量酸素投与
41%
63%
 高流量酸素
18%
 人工呼吸器管理
27%
8%
Primary endpoint
回復までの日数
死亡率
死亡率
レムデシビル 6.7%
対照群 11.9%
HR, 0.73; 95% CI, 0.52-1.03
レムデシビル 10.9%
対照群 11.2%
Rate ratio, 0.95; 95% CI, 0.81