小児感染症科医のお勉強ノート

小児感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

小児敗血症の起炎菌に関する大規模データ(米国)の解析

Bacterial and Fungal Etiology of Sepsis in Children in the United States: Reconsidering Empiric Therapy
 Crit Care Med. 2019 Nov 27. doi: 10.1097/CCM.0000000000004140. [Epub ahead of print]
 
 小児のsepsisのの原因微生物の頻度をい明らかにするために実施された後方視的コホート研究です。米国の入院データベース(米国内の入退院患者のほぼ半数をカバーするデータ)を用いて、19歳未満の小児を対象としました。Sepsisの原因となった診断名および原因微生物を検討しています。
19,113名の小児患者が含まれます。基礎疾患のない児が6300名(33%)で慢性疾患を有する児が12,813名(67%)でした。31%が人工呼吸器管理を受け、19%がショックを呈しました。588名(3.1%)が死亡しました。全体のうち、原因微生物(細菌と真菌)が同定されたのは8.204名(42.9%)でした。S. aureusが最多で、基礎疾患のない児の9.4%(593例)、慢性疾患を有する児の11.1%(1430名)でした。
 基礎疾患のない児では、それについで、大腸菌、連鎖球菌、肺炎球菌顔多く、慢性疾患を有する児では、カンジダ緑膿菌が続きました。
以下は慢性疾患の種類により特に多かった原因微生物です。
気管切開→緑膿菌
CNSシャント→緑膿菌
心室補助デバイス・ペースメーカー→真菌
造血幹細胞移植後、血液悪性腫瘍→C. difficileと真菌
先天性心疾患→真菌
短腸症候群→真菌
 
最も多い感染巣は、下気道感染症(29.1%)で、次は尿路感染症(20.1%)だった。
 
この論文の結果は、感染症科医としては2つの点から有用です。
1点目は、それぞれの固有の基礎疾患に応じて、想定する菌名が異なることです。
今までは、先天性心疾患や短腸症候群で、初期から積極的に真菌をカバーすることは無かったのですが、もう少し治療の閾値を下げても良いかもしれません。
2点目は、血液培養から菌が検出された時に、フォーカスを予想する根拠ができたことです。成人の研究ではありましたが、このような大規模な小児のスタディーはありませんでした。
例えば、血液培養から緑膿菌が検出されたら、肺炎>デバイス>尿路>皮膚軟部組織感染症の順に可能性が高いことが予想されます。(本データは血液培養陽性例を対象にしたものではいので、必ずしもそうでないかもしれませんが、ある程度の傾向は予想できます。)
 

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