小児感染症科医のお勉強ノート

小児感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

遂に出ました。小児の化学療法・造血幹細胞移植における抗菌薬予防投与ガイドライン(IDSA)

Guideline for Antibacterial Prophylaxis Administration in Pediatric Cancer and Hematopoietic Stem Cell Transplantation
 
 IDSAから小児の悪性腫瘍と造血幹細胞移植に関する、抗菌薬予防投与のガイドラインのドラフト版が出ました。
 
推奨の概略です
(1)AMLおよびALL再発の小児例において、重度の好中球減少(ANC<500)が7日以上持続することが予想される場合には、予防的抗菌薬投与を考慮する。
(Weak recommendation, high quality evidence)
 
(2)新規に診断されたALLの小児例において、寛解導入中の予防的抗菌薬投与をルーチンには行わないことを推奨する。
(Weak recommendation, low quality evidence)
 
(3)化学療法による重度の好中球減少(ANC<500)が7日を超えないと予想される場合には、予防的抗菌薬投与を行ってはいけない。
(Weak recommendation, moderate quality evidence)
 
(4)自家移植(autologous HSCT)を実施する小児例においては、ルーチンには予防的抗菌薬投与を行わないことを推奨する。
(Weak recommendation, moderate quality of evidence)
 
(5)同種移植(allogeneic HSCT)を実施する小児例においては、ルーチンには予防的抗菌薬投与を行わないことを推奨する。
(Weak recommendation, moderate quality of evidence)
 
(6)予防的抗菌薬投与を計画する場合には、レボフロキサシンが好んで使用される薬剤である。
(Strong recommendation, moderate quality evidence)
 
(7)もし予防的抗菌薬投与が行われる場合には、投与は重度の好中球減少がある期間のみに限定することを推奨する。
 
 
(6)のレボフロキサシンについては重要と思われるので解説も和訳
 もし予防的抗菌薬を投与する場合には、重症や治療が困難な感染症の原因となる微生物をターゲットに使用するべきである。レボフロキサシンの推奨は、近年の臨床試験に基づくものであり、直接のデータと微生物学的なスペクトラムをもとに推奨している。フルオロキノロン、ST合剤、セファロスポリンの全てで菌血症を減少させることが示されているが、近年の臨床試験はフルオロキノロンに焦点を当てている。ST合剤は、臨床試験において、バイアスがかかっているリスクがあり、耐性菌の保菌が増えるリスク、薬剤性骨髄抑制のリスクがあり、推奨されない。レボフロキサシンは、近年の小児を対象とした大規模研究で有用性が示され、小児のリスクが高い集団における重要な病原菌のカバーするスペクトラムを有する。
 委員会は、レボフロキサシンが小児に利用しやすい剤形が全ての国で利用できるわけでは無いことを指摘した。利用しやすい経口薬は、外来で年少児に投与するのに有効であろう。レボフロキサシンが使用できない場合には、シプロフロキサシンが代替薬であるが、シプロフロキサシンは、レボフロキサシンと比較して、viridans属などのGram陽性菌への活性が低く、予防効果が落ちるかもしれない。ローカルファクター(各地域の耐性菌の頻度など)を考慮に入れて、フルオロキノロンによる予防戦略導入の是非を検討する必要がある。
 フルオロキノロンの予防投与については有効なデータが揃っているが、委員会はフルオロキノロン(特にレボフロキサシン)の副作用についての報告に懸念を持っている。患者と家族は、フルオロキノロン予防的投与による短期的・長期的な副作用の可能性について十分に説明を受けるべきである。この説明により、この予防投与を受けないことを選択する家族がいるかも知れない。もし、フルオロキノロンが利用できない場合には、予防的抗菌薬投与を行わないことも、検討するべき重要な選択肢である。