小児感染症科医のお勉強ノート

小児感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

中耳炎合併症の膿瘍(人名付き)のまとめ

J Int Adv Otol. 2018 Dec;14(3):497-500. 

An Unusual Complication of Otitis Media: Luc's Abscess.

Mengi E, et al.

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/30325335

中耳炎の合併症に膿瘍形成がありますが、Bezold膿瘍は聞いたことがありましたが、Luc膿瘍という合併症もあるそうです。Luc膿瘍のケースレポートです。

症例:11男児

主訴:右顔面の腫脹と疼痛、開口困難

現病歴:2日前から右耳痛と聴力低下あり。1日前に発熱・開口困難・右顔面の腫脹が出現し、来院。腫脹は右側頭部から、頬部と下眼瞼に進展していた。外耳道に強い浮腫があり観察できなかった。WBC、Neu、CRP上昇あり。

CTでは、右外耳道と中耳、乳突洞に軟部組織陰影があり、頬部〜右咀嚼筋に浮腫があった。MRIでは右外耳道の前方から側頭下顎関節近傍に38×5mmmの膿瘍を認めた。開口困難のため、緊急手術は行わず、先に抗菌薬投与(バンコマイシン+スルバクタム・アンピシリン)を行い、5日目に膿瘍ドレナージした。

 

 非常に珍しい部位の膿瘍で、外耳道から進展するようです。いい機会なので、Bezold膿瘍、Citelli膿瘍についてもまとめました。

 

 

Luc膿瘍:中耳炎が外耳道に波及し、側頭骨の骨膜下膿瘍を形成する病態(乳突洞を経由しないので乳突洞炎を伴わなくても良い(本論文)

 

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Bezold膿瘍:乳様突起から骨瘻孔を経て頸部の応用を形成する病態。胸鎖乳突筋まで達する。

(Tateishi, et al. Otol Jpn. 2013;23:210)

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Citelli膿瘍:顎二腹筋に沿って膿瘍が進展し、後頭部〜頸部にかけて膿瘍が形成される

 

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(Iran J Otorhinolaryngol. 2017;29:161)