【定義】
・好中球減少:悪性腫瘍、造血幹細胞移植を行う小児の発熱をマネジメントするための、好中球減少の定義は、「好中球数(ANC)<500/microLまたは48時間以内に<500になることが予想される状況」である。
・発熱: 口腔内の体温が38.3℃以上、もしくは、38℃以上が1時間以上持続、もしくは、12時間の間に2回38℃以上の発熱が見られる。腋窩での体温測定も許容されうる。
【疫学】
悪性腫瘍や造血幹細胞移植による好中球減少による発熱は、1/3の症例でみられる(10−60%)。およそ0.76回/好中球減少日数30日の頻度である。米国では、FNの入院期間中央値は4−5日、死亡率は0.75%である。死亡に関連する合併症は、sepsis、肺炎、髄膜炎、真菌感染症である。
【悪性腫瘍患者に見られる発熱と感染症】
臨床症状とリスク因子
悪性腫瘍患者と造血幹細胞移植後の場合には、発熱がある時、発熱がなくとも臨床的な悪化のサイン(低体温、低血圧、意識障害など)があれば、迅速な対応を要する。
発熱の原因としての感染症
FNの、感染巣が同定できるのは10−40%程度。最も多いのは、菌血症で、20−50%を占める。その割合は、疾患や施設により異なる。他には、消化管感染症、気道感染症、尿路感染症、皮膚軟部組織感染症である。
Gram陽性菌:最も多いのはCNS, viridian’s streptococci, S. aureusである。
Gram陰性菌:E. coli, Klebsiella, Pseudomonas, Acinetobacterm Enterobacterなどが多い。
真菌:Candidaなどの真菌は、典型的には、長期間広域抗菌薬を投与後に見られる。その他には、Aspergillus, Zygomycetes, Cryptococcusなどが見られる。予防的抗真菌薬投与により、CandidaとAspergillusの割合が減り、その他の真菌が増えている。
ウイルス:気道感染のウイルス、HSV、VZVが比較的多い
非感染症:薬剤熱、腫瘍熱、DVT、肺塞栓、輸血反応、体温調節障害などが発熱の原因になりうる
【評価】
FNでは迅速な評価と早期の抗菌薬投与が重要である。可能な限り早く、トリアージから60分以内を目指す。
・病歴:重要な点 新たな臓器特異的な症状の有無、予防的抗菌薬の内容、感染曝露機会の有無、直近の感染症の既往や培養検査歴、基礎疾患と合併症、直近の手術歴、これまで受けた化学療法(どの段階まで治療が進んでいるか)、現在の内服薬(特にステロイド、免疫抑制薬)、血管内デバイスやその他のデバイス、非感染性の発熱の原因(輸血歴など)、ワクチン接種歴
・身体診察:FNでは、炎症所見が僅かなので注意深い診察が必要である。軽度の発赤や疼痛を無視してはいけない。身体診察は、最低でも毎日行う。好中球の回復とともに、炎症所見が明らかになることがある。
重要な点は以下である。バイタルサインの異常(低血圧と頻脈など以外に、脈圧の開大にも注意する)、皮膚(循環不全の所見、局所の感染所見、CVカテの刺入部、爪床、骨髄検査や髄液検査の痕など)、副鼻腔、鼻咽頭・歯茎、肺、腹部、外陰部(特に肛門周囲。digital rectal examは避ける)、意識状態の変化
その他の画像検査などは症状に合わせて行う。血液培養を採取したら、迅速に抗菌薬を投与する。
専門家の中にはCRP、Lactate、尿検査を5歳未満ではルーチンに行う場合もある。
血液培養:血液培養は、可能な限りCVカテーテルのすべてのルーメンから採取するべきである。1つのルーメンからのみ血培陽性となった症例は、30−40%と多い。筆者らは、末梢静脈からも血液培養を採取する。CVカテーテル感染を疑う手がかりになり、抜去の判断材料になる。真の菌血症との判断がつきやすくなる。菌血症症例のうち13%が末梢静脈からのみ血液培養陽性であった。しかし、子供への痛みの苦痛とのコンタミネーションのリスクとバランスを取る必要がある。
尿培養: 筆者らは、尿路感染を疑う所見あり、UTIの既往あり、尿路奇形ありの場合には、尿培養を採取する。女児と、尿路症状を訴えられない幼児では全員尿培養を採取する専門家もいる。尿沈渣の結果を見て、尿培養を行うかを決めてはいけない。好中球減少では、膿尿が見られにくくなるためである。
その他の検査:気道症状がある時→気道ウイルス検査、咽頭培養、胸部レントゲン。好中球減少では、肺野の異常影が認めにくいので解釈には注意が必要
排膿ドレナージ→Gram染色と培養
腹痛・下痢→腹部エコーと血液培養で嫌気ボトル追加(好中球減少性腸炎typhlitisを疑う)
下痢→CDトキシン
意識障害・髄膜刺激症状→髄液検査
皮膚軟部組織病変→穿刺や生検
【治療中の再評価】
FN治療中の患者は、少なくとも毎日再評価する必要がある。
・ROSの確認
・身体診察
・血算
・発熱が持続する場合には、次の2日間は毎日血液培養、その後は、状態が悪化する時に血液培養を採取する。専門家の中には、毎日血液培養を採取することを勧める人もいる。
・再発熱があった場合には、血液培養
・培養と画像(疑う感染巣がある場合)
【リスク評価】
高リスクと低リスクの患者にカテゴリー分けする基準がいくつかある
General guidelines for risk stratification in children with fever and chemotherapy-induced neutropenia
High-risk for severe infection or complications (1 or more)1つでも満たせば高リスク
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ANC <500 cells/microL* anticipated to last for >7 days 好中球減少が8日間以上することが予想される
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Evidence of hepatic insufficiency (aminotransferase levels >5 times normal values) 肝障害の徴候
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Evidence of renal insufficiency (creatinine clearance <30 mL/min) 腎不全の徴候
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Comorbid medical problems including, but not limited to:
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Acute lymphoblastic leukemia in infant <12 months of age 1歳未満のALL
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Acute myeloid leukemia AML
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Within 30 days of hematopoietic cell transplant¶ 30日以内に造血幹細胞移植
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Low-risk for severe infection or complications (all) すべて満たせば低リスク
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ANC <500 cells/microL expected to resolve within 7 days (ie, neutrophil count increasing) 7日以内に好中球減少から回復
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Stable and adequate hepatic function 肝機能が安定
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Stable and adequate renal function 腎機能があん愛知
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No active comorbidities (as listed above) 活動性の合併疾患がない(上記)
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This table is intended for use in conjunction with UpToDate content on fever and chemotherapy-induced neutropenia in children. Children are assigned a risk stratum at the onset of their episode. Children initially categorized as low risk can move into the high-risk category after initial presentation if they develop a high-risk feature.
ANC: absolute neutrophil count; GI: gastrointestinal.
* The ANC threshold for high-risk defined herein differs from that in the 2010 Infectious Diseases Society of America guidelines (≤100 cells/microL anticipated to last >7 days[1]).
¶ Some centers extend this period to within 100 days of hematopoietic cell transplant.
References:
-
Freifeld AG, Bow EJ, Sepkowitz KA, et al. Clinical practice guideline for the use of antimicrobial agents in neutropenic patients with cancer: 2010 update by the Infectious Diseases Society of America. Clin Infect Dis 2011; 52:e56.
-
Hakim H, Flynn PM, Srivastava DK, et al. Risk prediction in pediatric cancer patients with fever and neutropenia. Pediatr Infect Dis J 2010; 29:53.
-
Lehrnbecher T, Robinson P, Fisher B, et al. Guideline for the management of fever and neutropenia in children with cancer and hematopoietic stem-cell transplantation recipients: 2017 update. J Clin Oncol 2017; 35:2082.
【抗菌薬治療】
エンピリック治療として、入院では、セフェピム、メロペネム、ピペラシリン・タゾバクタムのどれかを使用する。初期抗菌薬は、アレルギーや予防抗菌薬の有無などを考慮し、患者ごとに判断する。抗菌薬の継続や変更については、患者の状態が悪化・不安定、明らかな起炎菌が見つかった場合には、変更する。症状が落ち着いている場合は、改善した場合には、アルゴリズムに従って、変更する。
治療はなるべく速やかに開始する。60分以内に治療開始できた場合には、専門家へのコンサルテーションが減り、ICU入室が減った研究がある。60分以上経過した場合には、入院期間増加したという研究もある。
【高リスク患者への治療】
広域抗菌薬の単剤投与を入院の上で実施する。特に耐性菌のリスクが高くない場合には、セフェピム、メロペネム、ピペラシリン・タゾバクタムのどれかを使用する。造血幹細胞移植後では、(嫌気性菌カバーを避けて)セフェピムを好んで使用する。その理由は、腸内細菌叢を変化させると、GVHDの発症が増え、死亡率が高くなる報告がある。
セフタジジムは、もはや推奨されない。理由は、Gram陰性菌の耐性率が上昇したことと、viridans streptococciへの効果が低いためである。
・セフェピム 1回50mg/kg 8時間毎 1回投与量は2gまで
・メロペネム 1回20mg/kg 8時間米 1回投与量は1gまで
中枢神経感染症を疑うときには、この倍量
・ピペラシリン・タゾバクタム <2ヶ月 80mg/kg q6hr
2−9ヶ月 80mg/kg q8hr
9ヶ月以降 体重40kg未満 100mg/kg q6-8hr、40kg以上 3g q6hr
抗菌薬の併用は、血行動態が不安定、局所の感染所見、耐性菌リスクが高い症例に限るべきである。併用療法では、単剤治療と比較し、効果は同じでも副作用が多いという結果が出ている。
ペニシリンアレルギーがある場合でも、多くの場合は、セファロスポリンは使用可能。しかし、即時型のペニシリンアレルギーがある場合には、シプロフロキサシン+クリンダマイシンやアズトレオナム+バンコマイシンが選択肢になる。
治療失敗率、感染症関連死亡率、発熱期間に関して、セフェピムとピペラシリン・タゾバクタムを比較した試験では、どちらも差がなかった。また、メロペネムとピペラシリン・タゾバクタムを比較した試験でも効果は同じであった。
【併用療法を行う限定的な状況】
・腹痛、肛門痛、肛門周囲の炎症、下血があれば、嫌気性菌カバーをする(メトロニダゾール追加など)。メロペネムとピペラシリン・タゾバクタムでは追加不要
(臨床的にCVカテーテル感染、皮膚軟部組織感染、MRAS保菌あり、セファロスポリン耐性肺炎球菌保菌あり、重症口内炎でキノロンを予防投与に使用している場合、high-dose cytarabineなどペニシリン耐性streptococci感染症のリスクが高い場合)
【低リスク患者】
入院では、高リスク患者と同じ静注薬を使用
外来では、シプロフロキサシン+アモキシシリン・クラブラン酸を使用
(日本ではあまりないので省略しました)