小児感染症科医のお勉強ノート

小児感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

Capnocytophagaに対する抗菌薬治療

Int J Antimicrob Agents. 2007 Apr;29(4):367-73. Epub 2007 Jan 23.
Antimicrobial treatment of Capnocytophaga infections.
 
Introduction
 Capnocytophagaは、Gram陰性桿菌で、gliding mortilityを有する。CO2が高い環境(capnophilic atmosphere)で、発育が良好。口腔内に常在している。
 
Pathogenesis
 Capnocytophaga sp.は、ヒトのタンパクを分解する細胞外酵素を産生する。これが、病原因子と考えられている。C. gingivalisのアミノペプチダーゼは、ヒトの口腔内の栄養と病態に関与し、C. sputigenaのリポポリサッカライドは、B細胞の活性化を行い、ヒトの単球のIL-1β産生を増加させる。Capnocytophaga感染症は、免疫不全者だけではなく、免疫正常でも解剖学的異常により感染症を起こしうる。感染を起こす場合には通常、polymicrobial infectionである。
 
Spectrum of clinical infections
 特に小児の好中球減少患者・口腔内に潰瘍がある患者に感染症を起こす。歯垢の中にいる菌と認識されており、歯肉感染などの感染症を起こすが、それ以外に、眼病変、気道病変、外傷性心外膜炎、縦隔炎、頸部膿瘍、腹膜炎などの報告もある。粘膜炎や口腔粘膜の病変が、この菌のエントリー部位である。菌血症、心内膜炎、周産期感染症腎盂腎炎、骨髄炎、関節炎を起こす。C. canimorsusとC. cynodegmiが犬咬傷や犬との接触と関連した菌として知られる。摘脾後、アルコール依存症がリスクとされる。他のリスクとしては、眼外傷、ヘルペス角膜炎、鎌状赤血球症である。C. cynodegmi感染症はTNF-α阻害薬との関連も示唆されている。C. carnimorsusによる電撃性紫斑病は治療が遅れると予後不良である。
 
Susceptibility of disinfectants
 リスクの高い患者は、口腔内のCapnocytophagaの数を少なく保つために口腔内衛生を良い状態にする必要がある。消毒液の感受性はあまり検討されていないが、クロルヘキシジンがよく用いられる。濃度がまちまちでどれが良いかは不明である。
 
Susceptibility of antimicrobial agents
 1.活性のある抗菌薬
 通常は、クリンダマイシン、リネゾリド、テトラサイクリン、クロラムフェニコール、イミペネム、ベータラクタマーゼ配合薬に感受性がある。
 2.活性のない抗菌薬
 ポリミキシン、フシジン酸、ホスホマイシン、コリマイシン、トリメトプリムには感受性がない
 3.活性が様々な抗菌薬
 エリスロマイシン、リファンピシン、キノロン、メトロニダゾール、バンコマイシン、アミノグリコシド、モキサラクタム、アズトレオナム、ペニシリン、セファロスポリンの感受性は、株により異なる。
 β-ラクタム系抗菌薬については、感受性検査が多くなされてきた。ベータラクタマーゼ産生が非常に多い。agar dilution methodによる感受性試験が推奨されるが、E-testとの相関が良かったとの報告もある。cfxA2, cfxA3という遺伝子を持ったESBL産生株が存在する。
 
Antimicrobial therapy
 免疫不全者では、口腔内に病変があり、菌血症になる例が多く、免疫正常の場合には、感染巣は多岐にわたり、polymicrobiaal infectionの1菌種として感染に関与する事が多い。
 
菌血症と心内膜炎
 イミペネム・シラスタチンの感受性は100%なので、リスクの高い好中球減少症の患者では使用するべき。ベータラクタマーゼ産生株が免疫正常の患者で検出されたときには、ベータラクタマーゼ配合剤やクリンダマイシンが使用されるべきである。すべての症例において、抗菌薬はMICの値により再考されるべきである。
 

 
 全身性感染症
 他の感染巣では、第一選択は感染巣・重症度・患者背景に応じて選択されるべきである。βラクタム系抗菌薬で開始され、菌名と感受性の同定がなされる頃には、効果が判定できる。ベータラクタマーゼ配合剤やクリンダマイシン、リネゾリド、テトラサイクリン、クロラムフェニコール、キノロン、リファンピシンなどが選択される。イミペネム・シラスタチンは、複雑な症例や免疫不全・摘脾後などのリスクの高い症例に限って用いるべきである。関節炎などでは、手術が必要。特に決まった治療期間はない。
 
Conclusion
・臨床医は、通常のFNの治療薬が、ベータラクタマーゼ産生するCapnocytophagaをカバーできないことを知らなければならない。
・臨床検体から分離されたCapnocytophagaに対して、ベータラクタマーゼの産生を確認する試験をすることが推奨される。
・耐性株が検出された患者は隔離することが推奨される。
・クリンダマイシンは水晶れるものの、口腔由来の菌血症に対する効果の実績は不十分である。
・イミペネム・シラスタチンやベータラクタマーゼ配合剤で数週間治療された症例は予後良好である。
・適切な抗菌薬や治療期間に関するランダム化試験が必要である。