小児感染症科医のお勉強ノート

小児感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

手術室のドアの頻回の開閉は、心臓血管外科手術の手術部位感染症(SSI)のリスクになる

Frequent Door Openings During Cardiac Surgery Are Associated With Increased Risk for Surgical Site Infection: A Prospective Observational

 
Roth JA, et al. Clin Infect Dis. 2019; 69(2): 290-4
 
スイスのパーゼル大学病院(心臓血管外科手術は年間850例)で実施された前方視的観察研究です。2つの手術室に、ドア開閉回数をカウントする装置を取り付けて、手術中のドアの開閉とSSIの発生率を検討しました。
 688例の患者が対象となり、手術中ドアの開閉は87,676回でした。24例(3.5%)にSSIが発症しました。頻回のドア開閉がSSIを発症するhazard ratioは1.49 (95%CI 1.11-2.00;p=.008)であり、頻回のドアの開閉がSTIのリスクになることが多変量解析で示されました。
 興味深いことに、internal door (手術室の隣の清潔物品を用意するための部屋、laminar flow付き)の開閉はSSIのリスクになったものの、external door(外部に通じるドア; laminar flowなし)の開閉はリスクになりませんでした。より汚染されている空間との開閉がリスクにならなかった原因の詳細はわかりませんが、考察は面白いです。
1.internal doorを使用するのは、手術中に追加で必要な物品が生じているからで、十分な準備がなされていないため、手術部位の汚染が多いのかも。(internal doorを頻回に開ける手術は準備不足)
2.手術室とexternal doorの外は気圧差(手術室が陽圧)があり、汚染された空気が来ないが、internal doorの内外は気圧差がないため、汚染された空気が入って来やすい。
3.internal doorを開けると、スタッフの世間話が聞こえてきたり、術者の集中力を乱すかもしれない。
 SSIの有無にかかわらず、1時間あたり30回以上もドアの開閉があったことに驚きましたが、真面目にカウントするとこんなにも開閉するものなのでしょうか?
 いずれにしても、手術中のドアの開け締めは最低限にすることが良さそうです。