小児感染症科医のお勉強ノート

小児感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

尿路感染の再発予防にクランベリージュースは効くのか?

 尿路感染症を再発するお子さんの管理は難しいです。膀胱尿管逆流や神経因性膀胱などがあると、管理は困難になります。一般的には、予防的抗菌薬投与などを行いますが、結局、投与している抗菌薬に耐性の菌が定着し、感染を再燃します。

 どうにも困った症例に何か無いかと言うことで、レビュー記事を紹介します。

 

Update on Associated Risk Factors, Diagnosis, and Management of Recurrent Urinary Tract Infections in Children.
J Pediatric Infect Dis Soc. 2019 May 11;8(2):152-159.

 

Recommended management of recurrent urinary tract infection. Abbreviations: BBD, bowel and bladder dysfunction; LUTS, lower urinary tract symptoms; QOL, quality of life; RUS, renal ultrasound; rUTI, recurrent urinary tract infection; TMP-SMX, trimethoprim-sulfamethoxazole; VCUG, voiding cystourethrogram; VUR, vesicoureteral reflux.

 

戦略としては、UTIを再発する症例に関しては、膀胱機能障害や膀胱尿管逆流がないかを確認し、もしあればそれに対する対応をします。

実際には、予防的抗菌薬投与やプロバイオティクスなどがありますが、クランベリージュースについては、あまり知らなかったので、紹介します。

 

クランベリージュース

 最近の研究では、クランベリー抽出物が用量依存的に尿路病原性大腸菌(UPEC)の尿路上皮細胞への付着を防ぐことが明らかになりました。この効果は、クランベリーの2成分によります。1つ目はフルクトースで、1型線毛によるUPECの付着を抑制します。2つ目はアントシアニジンで、腎盂腎炎線毛(p線毛)による付着を抑制します。

 小児を対象とした臨床試験では、クランベリーが、尿路異常がない小児において、再発性尿路感染症(rUTI)をわずかに減少させることが示されています。8件の研究をレビューした結果、発症率の有意な減少を示したのは4件のみでした。ある研究では、1歳から16歳の小児263人が登録されました。年間のUTI回数は、クランベリー群がプラセボ群よりも有意に少なかったものの、1回以上の再発を経験した子どもの割合は同じでした。

 成人患者を対象とした研究の著者は、rUTIの発症率を低減させるために1日300 mLのクランベリージュースを推奨しています。小児で有効性が示された研究では、体重1kgあたり5 mL、最大で1日300 mLのジュースを6か月間服用する用量が使用されました。

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

ここで紹介された研究です。

Cranberry juice for the prevention of recurrences of urinary tract infections in children: a randomized placebo-controlled trial.

Clin Infect Dis. 2012 Feb 1;54(3):340-6. 

背景:
クランベリージュースは、成人女性の尿路感染症(UTI)の再発を予防する効果があります。本研究の目的は、クランベリージュースが小児の尿路感染症再発予防に有効かどうかを評価することです。


方法:
二重盲検ランダム化プラセボ対照試験です。フィンランドの7病院で実施されました。尿路感染症の治療を受けた合計 263 人の小児患者が無作為に割り付けられ、クランベリー ジュース (n = 129) またはプラセボ (n = 134) のいずれかを 6 か月間投与されました。255 人の子供が最終分析に残されました。子供たちは1年間フォローアップされ、尿路感染症の再発の有無を記録されました。

結果:
クランベリー群の小児 20 人(16%)とプラセボ群の小児 28 人(22%)に少なくとも 1 回の尿路感染症再発を認めました(-6%、95% 信頼区間 [CI]、-16 ~ 4%、P =0.21 )。尿路感染症のエピソードは、クランベリー群とプラセボ群でそれぞれ合計 27 回と 47 回であり、リスクのある患者に限定した尿路感染症の発生率は、クランベリー群の方が 0.16 回少なかった (95% CI、-.31 ~ -.01; P = .035)。クランベリー群の小児は、抗菌薬を服用する日数が有意に少なかった(患者1年あたり-6日、95% CI、-7~-5、P < 0.001)。


結論:
この介入は、尿路感染症の再発を大幅に減らすことはできませんでした。しかし、実際の再発回数と、抗菌薬投与を減らすのには効果がありました。

Timing of the first urinary tract infection recurrence during the 12-month follow-up in children receiving cranberry juice or placebo. The difference between the groups was not significant (P = .32).

 

 現状のクランベリージュースの位置づけとしては、

「小児でも、UTIの再発を大幅に減らすわけではないが、再発回数と抗菌薬投与日数が少し減る」というところみたいです。

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

どうして小児科開業医はペニシリンを処方しないのか?

 小児の感染症で最も使用頻度が多い抗菌薬はペニシリン(主にアモキシシリン)です。しかし、原則どおりに処方されないケースが多々あります。外来小児科学会の会員(主に小児科開業医の先生)にアンケートを行い、ペニシリンを処方しない理由(処方する理由)を分析したものです。

 病院勤務医の側からは、小児科開業医の処方内容が不適切であるという文面から語られる事が多いですが、実は、「適切な治療を知っているからこそ、適切に治療できない」という実態が見えてきて、非常に興味深い報告です。

 個人的には、「GAS咽頭炎に10日間飲ませるのが大変であるという保護者の気持ちがわかっているので、セフェム系5日間にする。」

「中耳炎で高用量のペニシリン(大体他の感染症の倍量)飲ませるのが大変だと分かっているので、セフェム系にする。」

副鼻腔炎はBLNARの懸念も多いインフルエンザ菌が多いのを分かっているので、アモキシシリンを避ける。」という判断があるのだと思います。

 感染症科医として、頑張って飲ませて欲しいという気持ちもありますが、親として子どもに抗菌薬を飲ませる苦労も知っていますので、ペニシリンを回避する気持ちもわかります。クリニックのセッティングで悩みながら臨床をされていることが伝わります。

日本外来小児科学会会員の抗菌薬不適切使用の実態
    ~ペニシリン系処方の障害となっている要因を探る~

外来小児科 Vol. 26 No.1 (2023)

 

方法:

 外来小児科学会会員へのアンケート調査(無記名式)

GAS咽頭炎、急性中耳炎、急性鼻副鼻腔炎に対する抗菌薬の使用

・第一選択薬と投与方法

・第一選択薬がペニシリン系である場合、その理由

・第一選択薬がペニシリン系でない場合、ペニシリン系を選択しない理由を記載。

 

結果:

ペニシリン系が第1選択薬としている割合は

GAS咽頭炎で78.5%、急性中耳炎で84.4%、急性鼻副鼻腔炎で72.6%。

ペニシリン系を第1選択薬としない理由

GAS咽頭炎アドヒアランスが悪い(10日間の内服が長い)、内服量が多い、躍進が多い

急性中耳炎:内服量が多い(高用量投与)、耐性菌が多い、下痢が多い

急性鼻副鼻腔炎:内服量が多い、耐性菌が多い、アドヒアランスが悪い

 

考察:

ペニシリン系を用いた適切使用の向上には

アドヒアランス対策が必要→高濃度のアモキシシリン製剤の開発

・効果に対する懸念→ガイドライン周知の徹底

が重要

cir.nii.ac.jp

De-escalationは耐性Gram陰性菌の発生を抑制する

 感染症診療において、初期治療(エンピリック治療)を開始後、感染症の原因菌が特定されたら、最適治療に変更します。通常、より狭域の抗菌薬に変更できるのでde-escalationと言います。De-escalationにより、患者予後が良くなる、医療費が減る、一部の合併症(CDIなどが減る)ことが示されていました。今回の研究は、対象患者において、薬剤耐性Gram陰性菌の検出が減るかを検討したものです。

 薬剤耐性菌が世界中で大きな問題となる中で、日常臨床において感染症治療の最適化が、薬剤耐性菌を減らす力になることを示した良い研究だと思います。

 

Preventing New Gram-negative Resistance Through Beta-lactam De-escalation in Hospitalized Patients With Sepsis: A Retrospective Cohort Study.

(敗血症患者にβ-ラクタム系抗菌薬をde-escalationすることでGram陰性菌の薬剤耐性を予防する)

Clin Infect Dis. 2024 Oct 15;79(4):826-833. 

 

はじめに

この研究は、敗血症で入院中の患者において、βラクタム系抗菌薬(BL)のde-escalationが、新たなグラム陰性菌の薬剤耐性発生を抑制するかを検討することを目的としています。敗血症治療において、抗菌薬の過剰使用が、耐性菌の増加を助長することが問題視されている。抗菌薬の狭域化(de-escalation)が推奨されてきましたが、その効果に関するエビデンスは限られていました。

方法

本研究は後方視的コホート研究であり、2010年から2017年の間に米国の医療機関に入院した敗血症患者を対象に実施されました。BL抗生物質の投与が3日以上継続された患者が対象で、治療開始2日間は広域スペクトラム(SS ≥ 7)のBLが使用されました。対象患者は、スペクトラム狭域化(de-escalation)、スペクトラム維持、スペクトラム増加(escalation)の3つのグループに分類されました。主要評価項目は、新たに薬剤耐性グラム陰性菌が分離される割合とし、60日間の追跡期間で解析しました。

結果

7,742人の患者が分析対象となり、8.3%の患者(644人)に新たな耐性グラム陰性菌が検出されました。耐性菌の発生率はde-escalation群で最も低く、スペクトラム維持群と比較してリスクが有意に低減していました(HR 0.59)。

結論

本研究は、敗血症患者においてBLのde-escalationが新たな薬剤耐性菌の発生リスクを減少させることを示した最大規模の研究です。抗菌薬の過剰使用が耐性菌検出リスクを高める可能性が示唆されている中で、de-escalatioは感染管理の観点からも有用であると結論づけられました。

 
A,B, Cumulative incidence of new-drug resistant gram-negative pathogen isolation. The cumulative incidence curves are plotted to the last event time in each treatment group. The cumulative incidence of new-drug resistant gram-negative pathogen isolation over the course of 60 d was 1.42 per 1000 d (95% CI: 1.16–1.68) in the de-escalation group (A and B—solid line), 2.03 per 1000 d (95% CI: 1.84–2.22) in the no change group (A—dashed line) and 1.80 per 1000 d (95% CI: 1.45–2.15) in the escalation group B—dashed line). Abbreviation: CI, confidence interval.

副鼻腔炎の抗菌薬、有効な患者はどんな人?

 小児の副鼻腔炎はよくある病気ですが、結構、見落とされがちな病気です。しかも、時々、頭蓋内膿瘍などの重篤な合併症を起こします。しかし、全員に抗菌薬投与というのもやりすぎで、抗菌薬投与のメリットが大きい患者に使用することが望ましいです。

 本日紹介するのは、米国の研究で、副鼻腔炎において、病原体の検出・鼻汁の色などが抗菌薬の効果に影響するかをみたものです。

要点
・全般に、急性副鼻腔炎においては抗菌薬は有効(症状改善が早い、症状の軽減など)
・特に、上咽頭から肺炎球菌・インフルエンザ菌・モラキセラが検出されたケースは抗菌薬投与のメリットが大きい
・鼻水の色が透明でも黄・緑色でも、抗菌薬の効果に差はない。

Identifying Children Likely to Benefit From Antibiotics for Acute Sinusitis: A Randomized Clinical Trial.(急性副鼻腔炎において、抗菌薬投与の恩恵を受ける患者の特定方法)

JAMA. 2023 Jul 25;330(4):349-358.

はじめに

急性副鼻腔炎は小児において抗菌薬が頻繁に処方される疾患ですが、その症状はウイルス性上気道炎と類似しており、抗菌薬投与が必ずしも効果的ではない場合があります。本研究は、急性副鼻腔炎の小児患者が抗菌薬治療から恩恵を受けるかどうかを検討し、不要な抗菌薬使用を減らすための手段を模索しました。

方法

本研究は、2016年2月から2022年4月にかけて、米国の6つの医療機関で実施されたランダム化臨床試験です。対象は、2歳から11歳の急性副鼻腔炎と診断された515人の子供で、抗菌薬(アモキシシリン・クラブラン酸)を服用するグループと、プラセボを服用するグループに無作為に分けました。主要評価項目は、10日間の症状の重症度スコア化とした。また、副次的評価項目として、治療失敗や副作用の発生、家族リソースの使用が含まれます。

結果

治療を受けた子供のうち、抗菌薬グループの方がプラセボグループよりも症状の平均スコアが有意に低かった(9.04[95%CI、8.71-9.37]vs. 10.60[95%CI、10.27-10.93])。症状消失までの時間も早かった(7.0日 vs. 9.0日)P = 0.003)。しかし、上咽頭培養から病原体(treptococcus pneumoniae、Haemophilus influenzae、またはMoraxella catarrhalis)が検出されなかった患者においては、抗菌薬の効果は限定的でした。また、鼻水の色(透明か色がついているか)による効果の差はほとんど見られませんでした。抗菌薬グループは治療失敗率が低く(30% vs 43%)、中耳炎の発症も抑えられましたが、下痢などの副作用のリスクが高まりました。

結論

本研究において、抗菌薬の効果が高いのは、上咽頭から病原体が検出されている症例であった。病原体が検出されない場合、抗菌薬の効果は限定的である。また、鼻水の色は治療効果の指標とはならず、抗菌薬の使用判断には適さないことも示されました。抗菌薬の使用を減らすために、診断時に病原体の検査を行うことが有用である可能性を示しています。

Symptom Burden Assessed by Mean Score on the PRSS During the First 10 Days of Follow-Up

 

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

腸間膜リンパ節炎のレビュー論文

 腸間膜リンパ節炎は、日常で見かけることがありますが、あまり教科書的に詳しい記述のない疾患です。「虫垂炎やろ!」って思った症例が、「腸間膜リンパ節炎です」となると、治療(抗菌薬や投与期間など)について、悩んでしまいます。

 2017年のレビュー論文を要約しました。以前も同じ論文を紹介しましたが、大事なのでもう一度。今度はChat GPTに読んでもらいました。

 

Acute Nonspecific Mesenteric Lymphadenitis: More Than "No Need for Surgery".
Biomed Res Int. 2017;2017:9784565. 

 この論文は、「急性非特異性腸間膜リンパ節炎」(急性腸間膜リンパ節炎)についてのレビューです。腸間膜リンパ節炎は自然治癒する炎症性疾患であり、虫垂炎や腸重積などと似た症状を呈するため、鑑別診断が重要です。特に小児や若年成人に多く発症し、一般的に数週間で自然治癒します。

 

1. 概要と歴史
 腸間膜リンパ節炎は、特定の原因がなく腸間膜リンパ節が炎症を起こす疾患であり、長らく虫垂炎と誤診されやすい疾患でした。20世紀初頭までは、腸間膜リンパ節腫大は、結核が原因として多いと考えられていましたが、次第に非結核性の腸間膜リンパ節炎が独立した疾患概念として認識されました。

 

2. 症状と診断
 患者は、一般的に38~38.5℃の発熱、嘔吐、便秘や下痢などの消化器症状を伴います。痛みは主に右下腹部が最強点で、虫垂炎に似ていますが、腸間膜リンパ節炎では、痛みが移動することが多いのが特徴です。触診では、リンパ節炎患者は虫垂炎患者よりも圧痛は軽度です。

 血液検査では、白血球数やCRPが、軽度から中等度に増加することがあります。診断は、超音波検査で行います。腸間膜リンパ節が3つ以上、短軸径8mm以上に腫大していることを確認します。これにより虫垂炎やその他の急性腹症と区別できます。

 

3. 原因と関連疾患
 腸間膜リンパ節炎は、ウイルス性腸炎が原因とされることが多いですが、まれに細菌感染(エルシニア、サルモネラなど)や他の感染症EBウイルストキソプラズマ)も関連します。また、炎症性腸疾患やHIV感染、悪性腫瘍(特に非ホジキンリンパ腫とも関連する場合があります。

 

4. 治療と予後
 治療は基本的に支持療法であり、手術の必要はありません。水分補給や鎮痛剤を用いた痛みの管理が推奨されます。患者やその家族に対して、病気が自然に治癒することを説明し、不安を軽減することが重要です。通常、2~4週間以内に完全に回復しますが、場合によっては回復にさらに時間がかかることもあります。

 

 今後は、腸間膜リンパ節炎の自然経過や適切な管理方法に関するさらなる研究が必要です。また、診断後は定期的な診察を行い、患者の不安を軽減するために、この疾患は回復に時間がかかることを説明することが重要です。

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腸間膜リンパ節炎の原因として考えるもの
(Causes of Mesenteric Lymphadenopathy other than Acute Nonspecific Mesenteric Lymphadenitis in Children, Adolescents, and Young Adults)

 

慢性・亜急性の経過
1)Inflammatory bowel diseases
2)Systemic chronic inflammatory diseases (e.g., systemic lupus erythematosus, and sarcoidosis)
3)Malignancy
4)HIV infection
5)Tuberculosis

 

急性の経過

1)Appendicitis

2)Secondary mesenteric lymphadenitis of infectious origin

 2−1)Zoonotic infections: yersiniosis (Yersinia enterocolitica or pseudotuberculosis) and nontyphoidal Salmonella infection

 2−2)Enteric fever

 2−3)Infectious mononucleosis (Epstein-Barr virus, Toxoplasma gondii, and Bartonella henselae)

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov