小児感染症科医のお勉強ノート

小児感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

AIを使って胎児の妊娠週数を推定する

 初期研修のとき、産科で胎児エコーをさせていただきましたが、計測が上手にできず、指導医の計測値とずいぶんズレがあった事を思い出します。妊娠週数を決定するエコーは、経験値と技術が必要です。また、そもそも超音波が利用しにくい途上国などの地域では、実施が難しいです。

 AIにより単純に妊婦のお腹にプローベを操作し、勝手に妊娠週数を測定するソフトを作成したという論文です。操作も単純で、短時間でできているにも関わらず、驚異の一致率で驚きです。

 タブレットに、細いケーブルでプローベを接続しており、持ち運びも楽そうです。

 AI技術の進歩はすごいです。興味ある方は、実際の動画ありますので、ご参照ください。

 

Diagnostic Accuracy of an Integrated AI Tool to Estimate Gestational Age From Blind Ultrasound Sweeps

JAMA. 2024 Aug 1. doi: 10.1001/jama.2024.10770. 

 

目的
 妊娠週数(GA)の正確な評価は、適切な妊娠管理に不可欠であるが、医療資源の乏しい地域では、超音波検査が利用できないことが多い。本研究は、盲目的な超音波スキャンにより妊娠週数を推定する深層学習AIモデルを開発し、低コストで電池駆動の超音波デバイスに統合することを目的とした。胎児の超音波の訓練を受けていない初心者が、このツールを使用した場合の妊娠週数推定精度を評価した。

 

 方法
 この前向き診断精度研究は、ルサカザンビア)およびチャペルヒルノースカロライナ)の2地点で実施した。健康な単胎妊娠中の400名を対象にした。認定された超音波技師が経膣超音波により「基準」としての妊娠週数を計測した。妊娠14〜27週の間に、初心者がAI対応デバイスを使用して盲目的な腹部スキャンを実施し、標準機械を用いた場合と比較した。

 

結果
- 主要評価期間(14〜27週)では、AIデバイスの平均絶対誤差(MAE)は3.2日(SE=0.1)で、標準機械の3.0日(SE=0.1)と同等であった(差異0.2日、95%CI -0.1〜0.5)。
- 評価精度: 推定妊娠週数と基準のずれが7日以内なる割合は、AIデバイスで90.7%、標準機械で92.5%でした。

 

結論
 妊娠14〜27週の間、超音波の訓練を受けていない初心者ユーザーは、低コストのAIツールを用いることで、認定された超音波技師と同等の精度で妊娠週数を推定できた。この成果は、医療資源の乏しい地域における産科ケアに影響を与え、全ての妊婦に対する超音波妊娠週数推定の目標を進展させる可能性がある。

 

この論文の限界として、

・一般的な妊婦集団を対象にしているので、妊娠週数が不正確になりやすい、妊娠高血圧、糖尿病、高度肥満などのケースを想定していない。

・胎児に異常がある場合には、判定できない。

という点は注意かと思います。

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

人工涙液によるカルバペネマーゼ産生菌緑膿菌のアウトブレイク

 

  人工涙液(点眼薬)に、カルバペネマーゼ産生緑膿菌が混入していたために、アウトブレイクが発生した報告になります。7%が死亡、22%が眼球摘出となっており、感染症を発症すると予後が悪いです。(おそらく販売数は多いので、感染症を発症してしまう割合は少ないのだと思いますが)

 インドで生産された製品が、輸入業者を通じて全米で販売されたそうです。

 

Multistate Pseudomonas Outbreak Investigation Group. Extensively Drug-Resistant Pseudomonas aeruginosa Outbreak Associated With Artificial Tears.

Clin Infect Dis. 2024 Jul 19;79(1):6-14.

 

 

背景

 カルバペネマーゼ産生カルバペネム耐性緑膿菌(CP-CRPA)は、広範な抗菌薬に耐性を示す細菌であり、特に致死率の高い感染症と関連しています。本研究では、米国でのCP-CRPAのアウトブレイクの原因を調査しました。

 

方法

 2022年1月1日から2023年5月15日に、米国内の患者からPseudomonas aeruginosa ST1203で、カルバペネマーゼ遺伝子blaVIM-80およびセファロスポリナーゼ遺伝子blaGES-9を持つ症例が初めて確認された。多くの症例が発生したため、急性期医療施設でケースコントロール研究を実施し、原因となる曝露を評価し、製品の細菌汚染を調査しました。

 

結果

 18州で81例の患者を特定した。そのうち27例は、監視培養から特定された。臨床検体の培養から特定された54例の患者のうち、4例(7%)が培養採取後30日以内に死亡し、18例の眼感染症患者のうち4例(22%)が眼球摘出を受けた。ケースコントロール研究では、人工涙液の使用が症例と関連していることが示された(OR、5.0; 95% CI、1.1–22.8)。患者の87%が人工涙液の使用を報告し、うち77%が特定のブランドAを使用していた。開封済みおよび未開封のブランドAの点眼液のボトルから細菌が分離され、患者の分離株と遺伝的に関連していた。製造工場の検査で、汚染源となりうる要因が特定された。

 

結論

 医療製品によるカルバペネマーゼ産生細菌のアウトブレイクは、これまでアメリカでは前例がない。このアウトブレイクの臨床的影響を考慮すると、OTC製品の輸入業者に対する要件を再検討する必要性がある。

 

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

ロックダウン中に腸重積が減少した

 腸重積は、小児のコモンな疾患ですが、胃腸炎などで腸間膜リンパ節が腫れたりすることがきっかけで起こるとも言われています。昔、O157感染症で腸重積になった症例もあります。

 COVID-19パンデミックでロックダウンがあった時には、あらゆる感染症が減少しましたが、この時期に腸重積も減少したのかを検証したオーストラリアの研究です。

 

要点

・ロックダウン中に、腸重積は著明に減少した→今までに考えていたより、感染が原因になった腸重積は多いのかもしれない。

 

Exploring the Infectious Contribution to Intussusception Causality Using the Effects of COVID-19 Lockdowns in Australia: An Ecological Study.

Clin Infect Dis. 2024 Jul 19;79(1):255-262.

背景

 腸重積は乳児の急性腸閉塞の主な原因であり、その大部分は原因不明(特発性)です。ウイルス感染が原因として挙げられていますが、COVID-19のロックダウン中に腸重積症の発生頻度が予想以上に減少しました。

 

方法

 12年間にわたる後方視的研究を実施しました。オーストラリアの3州(ニューサウスウェールズ州ビクトリア州クイーンズランド州)のデータを分析しました。ロックダウン期間と非ロックダウン期間の腸重積症の発生頻度を比較しました。

 

結果

 ロックダウン期間中、腸重積症の発生頻度は顕著に減少しました。特に2歳未満の小児での減少が顕著で、ビクトリア州では62.7%、ニューサウスウェールズ州では40.1%の減少が見られました。

 

結論

 この研究からは、特発性腸重積症の真の原因が感染症である可能性がこれまで考えられていたよりも大きいことを示唆しています。

 

Box plots of intussusception admissions by age category. A, B, Intussusception admissions in Victoria during “lockdown” and “non-lockdown” periods for children aged <2 years (A) or 2–17 years (B). C, D, Intussusception admissions in New South Wales (NSW) during lockdown and non-lockdown periods for children aged <2 years (C) or 2–17 years (D) .

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小児結膜炎のケア戦略比較

 結膜炎は、小児科医もよく経験しますが、なんとなく点眼抗菌薬を処方してしまい、また、保育園からは出席停止になってしまう病気です。しかも、子どもは元気!という。米国で、結膜炎に抗菌薬処方を控えたり、出席停止扱いにしないほうが、(二次感染が起きることを考えても)費用対効果が良いのではないかという研究です。

 本論文は、小児の結膜炎の管理と子供が保育施設や学校の出席停止戦略の費用対効果を比較した研究です。

Cost-Effectiveness of Pediatric Conjunctivitis Management and Return to Childcare and School Strategies: A Comparative Study.

J Pediatric Infect Dis Soc. 2024 Jul 20;13(7):341-348.

背景
 感染性結膜炎は、毎年8人に1人の小児が罹患し、高額な点眼抗菌薬の処方や保育施設や学校を欠席する原因となる。本研究では、3通りのケア方針と通常のケア方針を比較し、費用対効果と年間のコスト低減効果を評価した。

方法
 意思決定分析モデルを使用し、非重症の結膜炎のケア方針を分析した。
方針は以下:
1. 非重症結膜炎に対して抗菌薬点眼液の処方を控える
2. 全身症状のない小児は保育施設や学校を欠席する必要はない
3. 抗菌薬点眼液の処方を控え、かつ、全身症状のない子供が保育施設や学校を欠席する必要はない

結果
 小児結膜炎の年間推定コスト費は19億5000万ドルであった。通常のケアは、最も高額(1エピソードあたり212.73ドル)で、抗菌薬の処方を控える戦略(199.92ドル)、全身症状のない子供が通うことを許可する戦略(140.18ドル)と比較して最も高額であった。最も費用効果の高い戦略は、抗菌薬の処方を控え、全身症状のない子供が通うことを許可する戦略(127.38ドル)であった。この戦略により、年間推定783百万ドルの節約が見込まれ、160万件の抗菌薬処方が回避される。

結論
 結膜炎は経済的負担が大きく、抗菌薬の使用を控え、全身症状のない子供が学校や保育施設に通うことを許可することで、その負担を軽減できる可能性がある。この研究は、結膜炎管理の費用対効果を評価し、抗菌薬の過剰使用を避けることの重要性を強調しています。

 

本研究のコストとは、医療費(抗菌薬など)、受診料、薬剤の副作用、二次感染のコスト、失われた生産性を含むものとする。

 

 

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

ほとんどの小児の気道感染では抗菌薬は5日間で良い Give me five!

 子どもに抗菌薬を内服させるのは、本当に大変です。自分の経験でも、しばらくはなんとか飲ませられますが、そのうち嫌がるようになり、なかなか処方された日数をコンプリートするのは困難です。

 感染症には、標準的な治療期間が決まっています。溶連菌の咽頭炎は10日間とか。しかし、最近、治療期間を短くすることが可能であるというエビデンスが増えてきています。今回は、それらのエビデンスをまとめたレビュー記事の紹介です。

 最終的には、「GAS咽頭炎副鼻腔炎も中耳炎も、5日間の治療で良さそう」という方向になりそうです。

 まだ、ガイドラインが改定されたり、一般的なプラクティスになっていない部分はあります。

 GAS咽頭炎に抗菌薬を投与しない、というのはやりすぎとは思いますが、既に急性リウマチ熱(ARF)が稀な疾患になっている現在において、ARFを予防するために10日間のペニシリン系の内服が必要である、というのはやりすぎな気がしています。本文中にも「GAS咽頭炎に対する抗生物質の短期コースと長期コースの有害事象を報告したRCTのメタアナリシス(39研究、14081人)において、高所得国ではARFの症例は報告されていない[33]。」という記載があります。

 

 

 “Give Me Five”: The Case for 5 Days of Antibiotics as the Default Duration for Acute Respiratory Tract Infections

J Pediatric Infect Dis Soc. 2024 Jun 28;13(6):328-333.

 

イントロダクション
 急性呼吸器感染症(ARTIs)は、小児科において最も多くの抗菌薬が処方される疾患である。米国のガイドラインでは、一般的なARTIsに対して10日以上の抗菌薬治療を推奨していますが、5日間の治療が安全で効果的であるというエビデンスが増えています。学術的な刷り込みにより、抗菌薬の長期処方が続いています。この論文では、A群溶血性連鎖球菌性咽頭炎(GAS)、急性中耳炎(AOM)、急性細菌性副鼻腔炎(ABRS)に対する短期間の抗菌薬治療を支持するエビデンスを検証しました。

 

 A群溶血性連鎖球菌性咽頭炎(GAS咽頭炎
 GAS咽頭炎は、主に症状と身体所見によって診断されます。米国では、GAS咽頭炎に対して10日間の治療が一般的ですが、他のガイドラインでは短期間治療や抗菌薬の使用を推奨しない場合もあります。5日間の治療で症状の軽減や感染伝播の防止に効果的であるとする研究もあります。合併症のリスクは、抗菌薬治療の有無に関わらず低く、5日間の治療が推奨されます。

 

急性細菌性副鼻腔炎(ABRS)
 ABRSは、抗菌薬の長期処方が一般的ですが、確実な診断が難しい疾患です。ガイドラインでは10~14日の治療が推奨されていますが、3~5日の短期間治療でも効果があるという研究もある。合併症のリスクは低く、5日間の治療が推奨されます。

 

急性中耳炎(AOM)
 AOMの標準的な治療期間は、10日間ですが、5日間の治療でも同様の臨床的改善が見られることが示されています。2歳以下では10日間の治療が一般的ですが、その他の年齢層では5日間の治療が推奨されます。

 

その他の考慮事項
 抗菌薬の過剰使用は、耐性菌の発生や薬不足を引き起こす可能性があります。短期間の治療は、患者の遵守率を向上させ、抗菌薬の不適切な使用を減少させる効果があります。特に、抗菌薬の残りを不適切に内服したり、環境汚染を防ぐために、5日間の治療が推奨されます。

 

結論
 抗菌薬治療期間に関するデータの質、遵守率、薬剤の供給状況、および抗菌薬適正使用の目標を考慮すると、急性呼吸器感染症に対する抗菌薬治療の期間を5日間とすることが推奨されます。