小児感染症科医のお勉強ノート

小児感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

小児へのダプトマイシンの使用

 ダプトマイシンは、小児には馴染みの薄い抗菌薬です。MRSAなどのGram陽性菌の治療に使用します。MRSAの難治性菌血症などが小児では少ないこともありますが、安全性や正確な投与量に関して、記載が不十分なことも理由と思います。

 今回、日本の小児患者に使用したデータが出ました。年令による投与量の目安ができますので、使用しやすくなりそうです。

 

本論文で使用されたダプトマイシンの投与量

年齢
投与時間
複雑性皮膚軟部
組織感染症
菌血症
1歳
60分
10mg/kg q24h
12mg/kg q24h
2-6歳
60分
9mg/kg q24h
12mg/kg q24h
7-11歳
30分
7mg/kg q24h
9mg/kg q24h
12-17歳
30分
5mg/kg q24h
7mg/kg q24h
Pharmacokinetics of intravenous daptomycin in Japanese pediatric patients: Pharmacokinetic comparisons supporting dosing recommendations in Japanese pediatric patients
J Infect Chemother. 2023 Mar 2:S1341-321X(23)00048-X. doi: 10.1016/j.jiac.2023.02.012. Epub ahead of print. PMID: 36868408.
 
はじめに
 ダプトマイシンの薬物動態(PK)は、複雑性皮膚軟部組織感染症(cSSTI)または菌血症の日本の小児患者において、これまで明らかにされたことはない。本研究の目的は、日本の小児患者におけるダプトマイシンの薬物動態を評価し、日本人の成人患者との薬物動態比較に基づいて、日本の小児の年齢別、体重別投与量の妥当性を検討することである。
 
方法
 第2相試験で、グラム陽性球菌によるcSSTI(n=14)または菌血症(n=4)の日本の小児患者(1~17歳)を対象に、安全性、有効性、PKを評価しました。なお、成人・小児のPK比較については、日本人の成人患者を対象とした第3相試験(SSTI:65例、敗血症・右側感染性心内膜炎:7例)を参照した。血漿中のダプトマイシン濃度は、逆相高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により分析した。PKパラメータは、日本の小児および成人患者において、ノンコンパートメント解析を用いて決定した。ダプトマイシンの投与量とクレアチンホスホキナーゼ(CPK)上昇の関係を検討した。
 
結果
 小児のcSSTI患者において、年齢・体重別投与レジメンでダプトマイシン投与した後、ダプトマイシンの血中濃度は年齢間で重複しており、クリアランスに基づく観察でも同様であった。日本の小児患者における個々の血中濃度の分布は、日本人の成人患者と重複していた。ダプトマイシン血中濃度とCPK上昇の間に明らかな関係は認められなかった。
 
結論
 日本の小児患者においては、年齢・体重別の投与レジメンが適切であると考えられる。

 

 

小児の好酸球増多を見たら…

 好酸球は、アレルギー疾患や寄生虫疾患で上昇することが知られています。しかし、日本では小児の寄生虫を見ることは少なく、ほとんどがアレルギー疾患での上昇だと思います。
 その他の原因については、あまり考えたことがなかったので、大規模なまとめの論文を読みました。寄生虫疾患では、好酸球の増加が高度になることが多く、勉強になりました。
 
要点
好酸球増多の原因は、アレルギー疾患が多いが、原因不明も多い(米国)。
・高度増多(>4500)では、アレルギー疾患の比率は低下し、感染症寄生虫疾患)や好酸球性疾患(好酸球腸炎など)が増加する。
 
Eosinophilia: A Review and Multiyear Investigation into Etiologies.
J Pediatr. 2023 Feb;253:232-237.e1.
 
目的
 小児における末梢血中の好酸球増多の病因を明らかにし、外来小児における好酸球増多の診断と管理の指針となる診断アルゴリズムを開発すること。
 
方法
 2011年1月1日から2019年12月31日の間に、ヒューストンのTexas Children's Hospitalに末梢血中の好酸球増多で来院した小児を対象に、後方視的に検討と行った。好酸球増多は、軽度(絶対好酸球数[AEC]500-1500/μL)、中等度(AEC 1500-4500/μL)、高度(AEC >4500/μL)に分類した。
 
結果
 18歳未満の患者771名が対象となった。好酸球増多の原因として最も多かったのは、アレルギー(n = 357; 46%)であった。アトピー(n = 296)と薬剤への反応(n = 54)が、最も多いアレルギーの原因であった。次いで、原因不明(n=274;36%)、感染症(n=72;9%)、好酸球性疾患(n=47;6%)であった。原因不明の患者(n = 202; 74%)の多くは、フォローアップ検査が十分に行われていなかった。
 
結論
 小児の好酸球増多の病因に関する情報やデータが増えれば、原因の特定に役立つと考えられる。本研究は、プライマリケア小児科医の指針となる診断アルゴリズムを含む、好酸球増多の評価に関する重要な情報となる。

 

原因
症例数
中等度
1500-4500
高度
>4500
アレルギー
357
121
26
自己免疫
6
3
1
免疫不全
9
6
1
 蠕虫
 原虫
71
48
18
32
21
6
15?
15
2
好酸球性疾患
(好酸球性消化管疾患)
47
(40)
18
(15)
11
(8)
悪性腫瘍
6
2
3
不明
274
90
21

 

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

小児の新型コロナによる劇症型脳浮腫

 日本国内でも、新型コロナに脳症を合併して死亡する例が報告されています。まだ、まとまった報告はありませんが、台湾から6例のケースシリーズが報告されました。
 台湾では、新型コロナで亡くなった小児が10名いるそうですが、そのうち6名は、脳症→急性劇症型脳浮腫を呈していました。
 
要点
・全例で、発熱・意識障害・けいれん発作を認める
・けいれん発作から24時間以内に、劇症型脳浮腫の症状が出現する
・ショック、DIC、多臓器不全、ARDSが見られる
・IL-6、LDH、フェリチンなどが著明に上昇し、過剰な免疫反応が病態として考えうる
 
Fatal Fulminant Cerebral Edema in Six Children With SARS-CoV-2 Omicron BA.2 Infection in Taiwan.
J Pediatric Infect Dis Soc. 2023 Feb 27;12(2):99-103.
 
要約
 SARS-CoV-2感染後の小児における急性劇症型脳浮腫は稀である。急速に進行することが多く、死亡率が高い。台湾で発生した6例の死亡症例について、臨床症状、検査所見、画像所見の詳細を報告する。全例が、初期にショックを呈し、5例に多臓器不全と播種性血管内凝固が急速に進行した。3例が、ARDSを発症した。炎症マーカー(IL6、フェリチン、LDH、Dダイマー)が、全例で有意な上昇を示した。炎症の過剰な亢進が、病態生理に関与している可能性がある。
 
内容
台湾でオミクロンBA.2が流行中の2022年4月13日から6月30日に、COVID-19後の急性劇症型脳浮腫の死亡例6例が報告された。小児のCOVID-19による死亡例は10例であるが、うち6人(60%)が劇症型脳浮腫になる。全員ワクチン未接種であった。基礎疾患のある患者はいなかった。
6例のうち、5例(83.3%)は5歳未満(2ー10歳2ヶ月)。全例に発熱、脳症症状(意識障害、幻覚、異常行動)、痙攣発作がみられた。全例が痙攣から24時間以内に劇症型脳浮腫を発症し、4例(66.7%)が痙攣重積を呈した。神経症状に加えて、全例がショック、5例が多臓器不全およびDIC、3例がARDSを呈した。
痙攣は、5例で単純型熱性けいれんに合致しなかった。3名が41℃以上の著明な発熱を呈していた。
 
41℃以上の高体温、単純型熱性けいれん以外の痙攣は、急性劇症型脳浮腫の手がかりとなりうる。病態には、炎症反応の過剰な亢進が関与している可能性がある。
 

 症例の内、MRIを撮影できた症例はおらず、髄液検査も2例のみです。ショックなど全身状態が悪すぎて、MRIや髄液検査を行う余裕すら無い状況だったのだと思います。
 小児の新型コロナの多くは、非常に軽症であることは間違えないのですが、患者数が増えると、このような死亡例が確実に増えます。急性脳症から、劇症型脳浮腫に至ると救命は極めて困難(後遺症のない退院はほぼ無理)な状況になります。
 もともと基礎疾患のない子にも十分起きることなので、現状ではちゃんとワクチンを接種することが一番必要なんだと思います。

小児の肺炎において、誘発喀痰の意味は乏しい

 小児の肺炎では、良い喀痰を採取することは難しいです。成人では、肺炎が疑われれば、誘発喀痰を採取します。通常3%くらいの高張食塩水をネブライザーで吸入して、咳き込んだ時に出た喀痰を採取します。うまく採取できると、喀痰中にわんさか白血球と肺炎球菌がいたりして、肺炎の原因微生物の特定に役立ちます。

 小児でも、誘発喀痰をやってみたら、肺炎の原因菌を特定できるのではないかという研究です。
 私自身も、子供で良い喀痰が取れたら、Gram染色しますが、染色結果を多少参考にしても、本当に役に立ったか、判断は難しいと思っています。今では、必ず喀痰培養を採取するのは「気管切開をしている児」と「気管内挿管をした児」のみです。

 

要点

・誘発喀痰で高品質(HQ)の痰が取れたら、肺炎の原因になりうる微生物が検出される事が多い。
・しかし、その病原微生物は、肺炎の有無に関係なく検出される。
・しかも、本物の起炎菌と対して一致しない。
→結論:誘発喀痰をとっても、鼻や口に保菌している微生物を拾うだけで、肺炎の原因菌は分からない。

 

Utility of Induced Sputum in Assessing Bacterial Etiology for Community-Acquired Pneumonia in Hospitalized Children.
J Pediatric Infect Dis Soc. 2022 Jun 22;11(6):274-282.
 
背景
市中肺炎(CAP)の原因菌を特定するための感度が高い検査はない。誘発喀痰(IS)は、下気道に存在する細菌を評価するための有用な選択肢である。
 
方法
2010年から2012年にCAPを発症した0ー18歳の小児をEtiology of Pneumonia in the Community(EPIC)研究に登録した。血液および呼吸器検体を、培養とPCRで評価した。画像的にCAPが存在するかは、放射線科医が読影した。喀痰は、高張食塩水を用いて誘発して、採取した。グラム染色を行い、低倍率で1視野あたり白血球25個以上、上皮細胞10個未満であれば、検体は高品質(HQ)、それ以外の検体は、低品質(LQ)と定義した。HQとLQのIS間、また画像的にCAPが証明できる症例とそうでない症例ごとに、ISで病原体が存在するかを比較した。EPICに登録された病原体との一致率を評価した。ISの病原体に対して適切な抗菌薬が投与されたかどうかにより、入院期間(LOS)を比較した。
 
結果
テネシー州メンフィスで登録された小児977例のうち、916人(94%)からIS検体が採取された。794人(87%)は、画像的にCAPを有していた。174人(19%)の検体がHQだった。HQのISでは、LQよりも病原菌が多く検出された(64% vs 44%、P < .01)。しかし、画像的にCAPを有する患者と有さない患者のHQのISにおいて、病原体が分離される割合は変わらなかった(64% vs 63%、P = .6)。真の病原菌が、ISの病原菌と一致したのは、画像的に証明されたCAP患者の9/42(21%)のみであった。LOSの中央値は、ISで認めた病原菌に適切な抗菌薬を投与された症例で3.1日、病原菌に適切な抗菌薬が投与されなかった症例で2.7日、抗菌薬なしの症例で3.2日で、有意差はなかった(P = .5)。これは、画像的に肺炎があるかに関係しなかった。
 
結論
 画像的なCAPの有無、ISの質に関係なく、何らかの病原微生物が、殆どのISから培養分離された。しかし、ISの培養結果が、無菌部位からの培養結果と一致することはまれであった。小児ISから検出されれる病原菌は、口腔咽頭の保菌を反映しているだけで、CAPの原因菌を決定するには不十分である。

 

 

菊池病のリンパ節はどこが腫れる?

 菊池病は、日本では日本では比較的多い病気です。発熱と頸部リンパ節腫脹が特徴的です。小児では、時々、不明熱の原因として認められます。以前、菊池病のまとめを書きましので、読んでいただけると幸いです。

pediatric-infection.info

 

 菊池病は、典型的には頸部リンパ節腫脹が見られますが、頸部以外のリンパ節が腫脹することもあります。それについてまとめた台湾からの報告です。

 

要点

・菊池病で、両側性頸部リンパ節腫脹が見られるのは1/4程度
・胸鎖乳突筋に沿ったリンパ節が腫脹することが多い
・頸部以外のリンパ節腫脹の頻度は低くない(腋窩・縦隔・腹部・鼠径部など)

 

Distribution of lymphadenopathy in patients with Kikuchi disease.
J Microbiol Immunol Infect. 2021 Apr;54(2):299-304.
 
背景
 頸部リンパ節腫脹は、菊池病(KD)の主要な症状の一つである。菊池病における頸部リンパ節以外のリンパ節病変の発生頻度や部位について、包括的な報告はない。
 
方法
 2003年ー2016年に、病理学的にKDと確定診断され、診断時にCT/全身炎症スキャンを行った患者60名を後方視的に同定した。画像検査を確認し、罹患LNの位置、大きさ、特徴を分析した。臨床的および検査データはカルテ記録から抽出し、頸部以外のLN病変との関連性を確認した。
 
結果
 35例(58.3%)が女性で、年齢中央値は21.3歳(3-64歳の範囲)であった。頸部の画像検査を行った59例中、42例(71.2%)に片側性、16例(27.1%)に両側性のリンパ節病変が認められた。Som分類ではレベルII、III、IVに最も多くみられた。最も大きなLNはレベルIIに最も多く認められた。腹部、骨盤、鼠径部、腋窩、縦隔の頸部外リンパ節腫脹の発生率は、それぞれ52.9%(9/17)、47.1%(8/17)、41.2%(7/17)、30.6%(11/36)、14.3%(8/56)であった。頸部リンパ節のみが腫脹している症例と比較すると、頸部以外のリンパ節病変を有する症例では、両側頸部リンパ節腫脹(P = .0379)および白血球減少(P = .0173)の発生頻度が有意に高かった。
 
結論
 片側の頸部リンパ節腫脹は、KDのリンパ節病変の中で最も頻度の高い病型であった。頸部外リンパ節腫脹は珍しくなく、頸部リンパ節が両側性に腫脹する頻度が高く、白血球減少の頻度も高かった。
 
 
全患者 (59例)
患者数(%)
リンパ節の圧痛
45 (76.3)
両側性の腫大
16 (27.1)
片側性腫大
42 (71.2)
腫大リンパ節の位置
 
 レベルI
11 (18.6)
 レベルII
53 (89.8)
 レベルIII
52 (88.1)
 レベルIV
52 (88.1)
 レベルV
40 (67.8)
 
CT画像のある患者
(51例)
患者数(%)
最大径(cm)
1.1-3.0 (平均1.9)
リンパ節周囲の炎症
50 (98.0)
リンパ節の壊死
32 (62.7)

 

 

部位
症例数
11/36 (30.6%)
両側 8例
縦隔
8/56 (14.3%)
腹腔内
9/17 (52.9%)
傍大動脈 7例
胃周囲 2例
腹腔動脈周囲 4例
骨盤内
8/17 (47.1%)
鼠径部
7/17 (41.2%)
両側 6例


菊池病=頸部リンパ節炎と思っていると、他の部位のリンパ節炎を見た時に、菊池病が鑑別診断に想起しにくくなるかもしれません。

「菊池病は、頸部にも他のリンパ節にも炎症を起こす病気」と覚えましょう。