カンジダ膿胸について
Report of a 63-case series of Candida empyema thoracis: 9-year experience of two medical centers in central Taiwan.
J Microbiol Immunol Infect. 2014 Feb;47(1):36-41.
CRP上昇・白血球数正常の小児発熱
Elevated C-Reactive Protein With Normal Leukocytes Count Among Children With Fever. Pediatrics. 2022 Dec 1;150(6):e2022057843.
感染症科医にとってCRPはthe elephant in the room?!
CRPは、日本の臨床現場で頻用されているにも関わらず、感染症のスタンダードな教科書ではあまり触れられることはなく、触れても非常に軽い扱いをされてきました。(例:感度も特異度も高くない検査である。)
確かに、医療現場で過度に用いられ、CRP値のみで感染症の治療方針を決定するのは、間違っていると思います。
一方で、感染症科医もCRPの有用性やその限界について知っておく必要はあると思います。
「あんまり役に立たない検査だし、俺は見ない」
「CRPを見て感染症診療をやっている奴は、いけてない」
「CRPを見なくても感染症診療ができる」という原理主義的な感染症診療ではなく、どのような使い方であれば役に立ち、どのようなケースでは注意するべきなのか、感染症を専門にしない先生との対話も重要だと思います。
(一方がCRPを重視し、もう一方が軽視していては、会話が成り立ちません)
英語の慣用句で、the elephant in the room(部屋の中の象)は、大きな問題がそこにあるのに、誰もがそのことを口にできない状況を指します。「CRPを the elephant in the ID業界にしない」ようにしたいと思っています。
CRPは細菌感染とウイルス感染を鑑別できるか?
いきなり、永遠のテーマです!
ウイルス感染ではCRPはあまり上がりませんが、アデノウイルスやインフルエンザAでは結構上がる例を経験します。また、細菌感染でも中耳炎などではあまり上がりません。
古典的な研究やメタアナリシスがあり、アメリカ家庭医学会でも紹介されています。現場で、とりあえずの基準として認識したい数値は、「CRP4以上は重症細菌感染が多く、CRP2未満は重症細菌感染が少ない」ということです。
Rule in |
LR+ |
事前確率 |
事後確率 |
PCT>2ng/ml |
7.1 |
1% |
6.7% |
|
|
3% |
18% |
CRP>4.0mg/dL |
7.4 |
1% |
6.9% |
|
|
3% |
19% |
Rule out |
LR- |
事前確率 |
事後確率 |
PCT<0.5ng/ml |
0.66 |
1% |
0.7% |
|
|
3% |
2.0% |
CRP<2.0mg/dL |
0.47 |
1% |
0.5% |
|
|
3% |
1.4% |
(Am Fam Physician. 2020 Jun 15;101(12):721-729. PMID: 32538597.)
CRPが高いと重症か?
これも永遠のテーマ2です!「CRP10なので、元気ですが、入院させます」という状況は、小児科医なら、一度は経験したことがあると思います…。
「CRP高値だけでも精査の対象になる。但し、CRPが低くても重症の人はいるので、その他の症状を合わせて精査の対象にする」ことが大事です。
CRPのcutoff値 |
感度 |
特異度 |
>0.5mg/dL |
90.8% |
33.4% |
>2.0mg/dL |
73.1% |
63.9% |
>8.0mg/dL |
35.0% |
94.8% |
>20.0mg/dL |
9.6% |
99.7% |
当然、cutoff値を高くすれば、特異度が上がりますが、感度が低下します。
(CRP 20以上で、重症じゃない人はほぼ除外できるが、一方、重症の人を拾えない)
このデータを元に、CRPのレベルを3つくらいに分けて行うマネジメントを提唱しています。これは、日本の臨床現場でも比較的受け入れやすいと感じます。
〜論文中でのマネジメント方法〜
・CRP高い(7.5以上):すぐ精査
・CRP中等度(2−7.5):条件次第で精査
(解熱剤無効、6ヶ月未満、1日以内、嘔吐、不機嫌、経口摂取不良)
・CRP低い(2未満):条件次第で精査
(高熱、頻呼吸、末梢循環不全、呼吸障害、腹痛、頚部痛、紫斑、意識障害など)
(Arch Dis Child. 2018 May;103(5):420-426.)
CRP上昇速度
例えば、発熱初日のCRP2mg/dLと、発熱5日目のCRP2mg/dLは、臨床医によって感じる印象が違うと思います。そこで、「CRP上昇速度 CRPv」という概念を編み出して、細菌感染症の鑑別に使えないかを検討した報告があります。
入院時にCRPが比較的低い成人症例を対象にした検討です。入院時のCRP(CRP1)と入院後24時間以内のCRP(CRP2)の差を出します(CRP2-CRP1)。計測時間(h)で割ったCRP上昇速度(CRPv)を検討しました。
CRPv=(CRP2-CRP1)/(CRP1からCRP2を測定するまでの時間)
CRP2とCRPvは細菌感染では有意に高く、区別するヒントになるかもしれません。
|
ウイルス感染 |
細菌感染 |
P値 |
CRP1 (mg/dL) |
1.62±8.6 |
1.48±8.5 |
0.336 |
CRP2 (mg/dL) |
3.02±2.19 |
7.56±5.13 |
<0.001 |
CRPv (mg/dL/h) |
0.09±0.12 |
0.44±0.27 |
<0.001 |
(BMC Infect Dis. 2021 Dec 4;21(1):1210.)
CRPは、完璧なバイオマーカーではありません(これは何度も強調します)。
しかし、血液培養も、PCR検査も、すべての臨床検査で完璧はありえません。CRPが悪いのではなく、CRPしか見ない医者の頭が悪いのです。臨床現場で上手に使用して、細菌感染症で重症の患者さんを早く見つけて治療してあげれば、その手段が、CRPでも血液培養でもなんでもいいと思います。
気道感染を起こすウイルスの迅速検査キットの感度・特異度のまとめ
先日、SARS-CoV-2の迅速抗原検査キットの感度と特異度をまとめました。他の病原体に関してはどうなのか気になって、調べてみました。インフルエンザや溶連菌は、メタアナリシスがありましたが、その他のウイルスは報告が少なかったです。
日本からの報告も多く、日本がかなり迅速抗原検査をよく使う国だと感じます。
インフルエンザ
結構有名なメタアナリシスです。小児のほうがちょっと感度が高いです。インフルエンザBの感度が低いことも有名です。
|
感度 |
特異度 |
合計 |
62.3% |
98.2% |
成人のみ |
53.9% |
|
小児のみ |
66.6% |
|
インフルエンザA |
64.6% |
|
インフルエンザB |
52.2% |
|
(Ann Intern Med. 2012 Apr 3;156(7):500-11.)
ヒトメタニューモウイルス
抗原検査キットの検討。山形と仙台の3つの小児科クリニックで実施した研究です。15歳以下の小児を対象にしています。発症5日目以降は、感度が落ちてくることが分かります。
発症からの日数 |
感度 |
特異度 |
合計 |
82.3% |
93.8% |
1日目 |
86.7% |
90.9% |
2日目 |
90.5% |
91.1% |
3日目 |
100% |
100% |
4日目 |
83.3% |
94.7% |
5日目以降 |
50% |
95.8% |
(J Clin Microbiol. 2009 Sep;47(9):2981-4.)
RSウイルス
米国の教育病院のERで行った検討です。小児が対象です。
|
感度 |
特異度 |
合計 |
79.4% |
67.1% |
月齢 <2ヶ月 |
78.3% |
69.5% |
月齢 ≧2ヶ月 |
81.7% |
59.5% |
|
|
|
(Emerg Med J. 2014 Feb;31(2):153-9.)
アデノウイルス
アデノウイルスも発症5日目以降は、感度が低下します。
|
感度 |
特異度 |
合計 |
72.6% |
100% |
発症1−4日目 |
80.4% |
|
発症5−11日目 |
61.5% |
|
(J Clin Microbiol. 1999 Jun;37(6):2007-9.)
小児でのスタディでは下記のような報告がありました。
|
感度 |
特異度 |
合計 |
89.2% |
98.0% |
性別、年齢、体温、発症後の日数、アデノウイルスの血清型で、有意差なし。
滲出性扁桃炎では感度が高く(95.0%)、咽頭炎では感度が低い(78.9%)。
(Pediatr Infect Dis J. 2010 Mar;29(3):267-9.)
A群溶連菌
105研究、58,244名を対象にしたメタアナリシス。小児を対象にしたレビューです。かなり感度が高いですね。
|
感度 |
特異度 |
Total |
85.6% |
95.4% |
(Cochrane Database Syst Rev. 2016 Jul 4;7(7):CD010502. )
病原体により感度は異なりますが、およそ70−80%というところです。もちろん、使用する抗原検査キットによる差異もあるでしょうし、正確さには限度があります。また、多くの研究が、PCR陽性をGold standardにしているので、本当の感染者に対する感度は、更に低いことになります。