小児感染症科医のお勉強ノート

小児感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

ヒルシュスプルング病は尿路異常に注意

 ヒルシュスプルング病は、腸管の神経節の先天的な欠如により便秘や腸閉塞をきたす疾患です。多くは新生児期に診断されますが、軽症では診断が遅れることがあります。ヒルシュスプルング病の患者さんには、尿路異常が多いという報告です。解剖学的な異常(低形成や水腎症など)と機能的な異常(夜尿症)の両方が多い傾向がありました。しっかり、スクリーニングを行い、将来的な腎機能の低下や尿路感染の予防を行ってゆくことが大切です。
 
要点
ヒルシュスプルング病の患者さんには、尿路の解剖学的異常のチェックと、夜尿症のチェックを行いましょう。
Urinary tract anomalies and urinary tract dysfunction in children with Hirschsprung disease-Is follow-up indicated?
J Pediatr Surg. 2019 Oct;54(10):2012-2016.
 
はじめに
ヒルシュスプルング病(HD)患児の尿路機能異常について、検討された報告はほとんどない。本研究では、HD患児の尿路異常や機能障害の有病率を対照群と比較して評価した。
 
方法
 本研究は、cross-sectional 症例対照研究である。2005年から2017年に経肛門的直腸プルスルー法(TERPT)を受けたHD患者を対象とした。術後、尿路超音波検査が行われた。4歳以上の小児には尿路機能質問票への回答を依頼した。対照は年齢をマッチさせた健常児とした。
 
結果
 HDに対してTERPTを実施した72名の児が対象となった。TERPT後に58名の児(83%)に超音波検査が実施された。6名(10%)に異常が認められた。構造的異常には、腎臓サイズの異常(7%)、片腎症(2%)、異常石灰化(2%)、腎盂異常(25%)などがあった。後天性異常としては、水腎症(2%)、水尿管(2%)、腎実質障害(2%)などが認められた。1例は、Wilms腫瘍のため腎摘出術を受けていた。4歳以上の小児37人(男児27人、女児10人)、中央値8歳(範囲4-12歳)は、284人の健常対照者(男児144人、女児140人)と同様に質問票に回答した。HDの男児は、夜尿症の頻度が高く(65% vs 9%)(p=0.001)、尿路感染症の既往が多かった (18% vs. 3%)(p=0.012)。HDの女児は、健常な女児よりも高い頻度で夜尿症があった(60% vs. 7%)(p=0.001)。便秘を伴うHD児は、夜尿症の頻度が高かった(p = 0.038)。
 
結論
 尿路の解剖学的異常と機能障害は、HD児のフォローアップにおいて注意を払う必要がある。HD児のフォローアップにおいて、尿路異常と尿路症状のスクリーニングを行うことが望ましい。

 
 
44例
女児
14例
合計
58例
腎低形成
0
2
2
1
0
1
水尿管
1
0
1
片腎症
1
0
1
腎石灰化
1
0
1
腎実質障害
1
0
1

重複もありますが、10%の児に異常を認めたようです。

 

 
HD児
37例
正常対象群
284例
p値
夜尿症
19例(66%)
24例(8%)
0.001
尿路感染症
7例(23%)
28例(10%)
0.157

 夜尿症の頻度が高いのが特徴です。また、男児では、有意に尿路感染の既往が多かったようです。

 

カンジダ膿胸について

 膿胸は、もともと治療が難しい病気ですが、カンジダによる膿胸は数も少なく、非常に難治性です。小児にはもちろん少ないので、成人のデータを調べてみました。台湾からのデータです。
 膿胸の成立過程を2つに分類しており、近傍の感染巣(食道穿孔など)から波及したcontiguous infectionと、遠隔の感染巣や菌血症から波及したnon-contiguous infectionに分類します。そして、contiguous infectionの方が、予後が良いようです。
 
Report of a 63-case series of Candida empyema thoracis: 9-year experience of two medical centers in central Taiwan.
J Microbiol Immunol Infect. 2014 Feb;47(1):36-41. 
 
背景
カンジダ膿胸は、侵襲性カンジダ症の重大な合併症であり、死亡率が高い。しかし、カンジダ膿胸の治療については議論の余地がある。台湾中部の2つの医療施設において、カンジダ膿胸患者の治療と死亡率に関連する因子を分析するため後方視的研究を実施した。
 
方法
2002年10月から2011年9月までに、胸水からカンジダが検出された全患者のカルテレビューをした。患者の背景データ、治療方針、および死亡率に関連する因子を分析した。
 
結果
 研究期間中、102名の患者が確認された。うち63人が登録基準を満たし、解析された。患者の4分の3は男性であり、年齢中央値は69歳であった。35人(55.6%)の患者が連続感染contiguous infection(近くの感染巣からの波及)していた。粗死亡率は61.9%であった。分離菌はCandida albicansが最も多く、基礎疾患は悪性腫瘍が最も多かった。高齢、Charlson score高値、ショック、呼吸不全、連続感染ではない患者は死亡率が高かった。外科的介入を受けた患者の転帰は良かった。多変量解析では、ショック、呼吸不全、二次感染ではないことは、死亡リスク上昇と関連していた。
 
結論
 カンジダ膿胸は、死亡率の高い重篤な侵襲性カンジダ症である。ショック、呼吸不全、連続感染ではないケースは、死亡率の高い因子であった。外科的手術やドレナージは治療成績を改善する可能性がある。
 

 菌株としては、C. albicansが最も多いですね。一番コモンな菌が原因になることが分かります。
 

 ここで、注目したいのはcontigious infectionという概念です。近傍の組織の感染が波及して膿胸になったもので、本文中には「食道穿孔、肺炎、縦隔炎、傍脊髄膿瘍、横隔膜下膿瘍」が挙げられています。これらがあったほうが、死亡率が低いんですね。
 non-contigiousの場合には、近傍にフォーカスがないケースで、「腹腔内膿瘍、腸管虚血、腸管穿孔、カンジダ血症、他のフォーカスが指摘できない場合」で、こちらの死亡率のほうが高いです。
 

CRP上昇・白血球数正常の小児発熱

 小児科で発熱者の診察をしていると、通常、白血球とCRPは同時に採血します。細菌感染では両方上昇、ウイルス感染では両方正常というパターンが多いですが、乖離することがあります。
 白血球数高値・CRP正常は、細菌感染の発症早期、ストレス(嘔吐など)などが原因のことが多いです。一方、白血球数正常、CRP上昇も遭遇することがあります。
 この論文は、イスラエルから白血球数とCRPが不一致であった症例のまとめです。やはり、細菌感染が多いのですが、特に細菌性腸炎が多いのが特徴です。
 
Elevated C-Reactive Protein With Normal Leukocytes Count Among Children With Fever. Pediatrics. 2022 Dec 1;150(6):e2022057843.
doi: 10.1542/peds.2022-057843. PMID: 36416012.
 
はじめに
 細菌感染では、CRPが上昇しているが、WBCが正常値であることはまれではない。発熱で救急外来(ED)を受診した小児患者において、WBC/CRPともに高値を示す小児とWBC正常/CRP上昇の小児を比較した。
 
方法
 研究は、小児三次病院において実施された後方視的研究である。2017年1月から2020年2月までに、発熱でEDを受診した生後3か月から18歳の患者を対象とした。免疫不全者や白血球減少/リンパ球減少のある患者は除外した。CRPが15 mg/dL以上の全患者を解析対象とした。WBC上昇群(「両上昇群」)とWBC正常群(「不一致群」)の2群に分類した。
 
結果
 17,727例のうち、1,173例(7.3%)がCRP >15mg/dLであった。全症例のうち、3%(471/15 961)が不一致群(CRP>15、WBC正常)であった。CRPのcutoff値を変えてWBC/CRPの不一致を分析した。CRP >15 mg/dLで40.2%、CRP >25 mg/dLで31.3%、CRP >35mg/dLで29.3%がWBC正常であった。
 多変量ロジスティック回帰では、発熱3日以上、消化器症状、悪寒がないことが、不一致群で多かった。最終診断が細菌性感染症であった症例は、不一致群で74.5%、両上昇群では86%であった。不一致群では、細菌性肺炎と尿路感染症が少なく、細菌性腸炎が多かった(図1)。
 

考察
 CRP≧15 mg/dLを示す小児患者の約40%はWBCが正常であり、そのほとんどが細菌感染症であった。来院時に下痢、発熱3日以上、発熱39.5℃未満の小児はWBC正常の可能性が高く、これらの症例ではWBCCRP検査をルーチンに検討すべきと思われた。
 

感染症科医にとってCRPはthe elephant in the room?!

 CRPは、日本の臨床現場で頻用されているにも関わらず、感染症のスタンダードな教科書ではあまり触れられることはなく、触れても非常に軽い扱いをされてきました。(例:感度も特異度も高くない検査である。)

 確かに、医療現場で過度に用いられ、CRP値のみで感染症の治療方針を決定するのは、間違っていると思います。

 一方で、感染症科医もCRPの有用性やその限界について知っておく必要はあると思います。

「あんまり役に立たない検査だし、俺は見ない」
CRPを見て感染症診療をやっている奴は、いけてない」
CRPを見なくても感染症診療ができる」
という原理主義的な感染症診療ではなく、どのような使い方であれば役に立ち、どのようなケースでは注意するべきなのか、感染症を専門にしない先生との対話も重要だと思います。
(一方がCRPを重視し、もう一方が軽視していては、会話が成り立ちません)

 

 英語の慣用句で、the elephant in the room(部屋の中の象)は、大きな問題がそこにあるのに、誰もがそのことを口にできない状況を指します。CRPを the elephant in the ID業界にしない」ようにしたいと思っています。

 

CRPは細菌感染とウイルス感染を鑑別できるか?

 いきなり、永遠のテーマです!
 ウイルス感染ではCRPはあまり上がりませんが、アデノウイルスやインフルエンザAでは結構上がる例を経験します。また、細菌感染でも中耳炎などではあまり上がりません。

 古典的な研究やメタアナリシスがあり、アメリカ家庭医学会でも紹介されています。現場で、とりあえずの基準として認識したい数値は、「CRP4以上は重症細菌感染が多く、CRP2未満は重症細菌感染が少ない」ということです。

 

Rule in

LR+

事前確率

事後確率

PCT>2ng/ml

7.1

1%

6.7%

 

 

3%

18%

CRP>4.0mg/dL

7.4

1%

6.9%

 

 

3%

19%

 

Rule out

LR-

事前確率

事後確率

PCT<0.5ng/ml

0.66

1%

0.7%

 

 

3%

2.0%

CRP<2.0mg/dL

0.47

1%

0.5%

 

 

3%

1.4%

 

(Am Fam Physician. 2020 Jun 15;101(12):721-729. PMID: 32538597.)

 

CRPが高いと重症か?

 これも永遠のテーマ2です!「CRP10なので、元気ですが、入院させます」という状況は、小児科医なら、一度は経験したことがあると思います…。

 「CRP高値だけでも精査の対象になる。但し、CRPが低くても重症の人はいるので、その他の症状を合わせて精査の対象にする」ことが大事です。

 CRPの値による、小児重症感染症の診断精度

CRPのcutoff値

感度

特異度

>0.5mg/dL

90.8%

33.4%

>2.0mg/dL

73.1%

63.9%

>8.0mg/dL

35.0%

94.8%

>20.0mg/dL

9.6%

99.7%

 当然、cutoff値を高くすれば、特異度が上がりますが、感度が低下します。
CRP 20以上で、重症じゃない人はほぼ除外できるが、一方、重症の人を拾えない)

 このデータを元に、CRPのレベルを3つくらいに分けて行うマネジメントを提唱しています。これは、日本の臨床現場でも比較的受け入れやすいと感じます。

〜論文中でのマネジメント方法〜

CRP高い(7.5以上):すぐ精査

CRP中等度(2−7.5):条件次第で精査
    (解熱剤無効、6ヶ月未満、1日以内、嘔吐、不機嫌、経口摂取不良)

CRP低い(2未満):条件次第で精査
  (高熱、頻呼吸、末梢循環不全、呼吸障害、腹痛、頚部痛、紫斑、意識障害など)

(Arch Dis Child. 2018 May;103(5):420-426.)

 

CRP上昇速度

 例えば、発熱初日のCRP2mg/dLと、発熱5日目のCRP2mg/dLは、臨床医によって感じる印象が違うと思います。そこで、CRP上昇速度 CRPv」という概念を編み出して、細菌感染症の鑑別に使えないかを検討した報告があります。

 入院時にCRPが比較的低い成人症例を対象にした検討です。入院時のCRP(CRP1)と入院後24時間以内のCRP(CRP2)の差を出します(CRP2-CRP1)。計測時間(h)で割ったCRP上昇速度(CRPv)を検討しました。

 CRPv=(CRP2-CRP1)/(CRP1からCRP2を測定するまでの時間)

 CRP2とCRPvは細菌感染では有意に高く、区別するヒントになるかもしれません。

CRP上昇速度が早い場合には、細菌感染症の可能性が高い」

 

ウイルス感染

細菌感染

P値

CRP1 (mg/dL)

1.62±8.6

1.48±8.5

0.336

CRP2 (mg/dL)

3.02±2.19

7.56±5.13

<0.001

CRPv (mg/dL/h)

0.09±0.12

0.44±0.27

<0.001

 

(BMC Infect Dis. 2021 Dec 4;21(1):1210.)

 

 CRPは、完璧なバイオマーカーではありません(これは何度も強調します)。

 しかし、血液培養も、PCR検査も、すべての臨床検査で完璧はありえません。CRPが悪いのではなく、CRPしか見ない医者の頭が悪いのです。臨床現場で上手に使用して、細菌感染症で重症の患者さんを早く見つけて治療してあげれば、その手段が、CRPでも血液培養でもなんでもいいと思います。

 

 

気道感染を起こすウイルスの迅速検査キットの感度・特異度のまとめ

 先日、SARS-CoV-2の迅速抗原検査キットの感度と特異度をまとめました。他の病原体に関してはどうなのか気になって、調べてみました。インフルエンザや溶連菌は、メタアナリシスがありましたが、その他のウイルスは報告が少なかったです。
 日本からの報告も多く、日本がかなり迅速抗原検査をよく使う国だと感じます。

 

インフルエンザ

 結構有名なメタアナリシスです。小児のほうがちょっと感度が高いです。インフルエンザBの感度が低いことも有名です。

 

感度

特異度

合計

62.3%

98.2%

成人のみ

53.9%

 

小児のみ

66.6%

 

インフルエンザA

64.6%

 

インフルエンザB

52.2%

 

(Ann Intern Med. 2012 Apr 3;156(7):500-11.)

 

ヒトメタニューモウイルス 

 抗原検査キットの検討。山形と仙台の3つの小児科クリニックで実施した研究です。15歳以下の小児を対象にしています。発症5日目以降は、感度が落ちてくることが分かります。

発症からの日数

感度

特異度

合計

82.3%

93.8%

1日目

86.7%

90.9%

2日目

90.5%

91.1%

3日目

100%

100%

4日目

83.3%

94.7%

5日目以降

50%

95.8%

(J Clin Microbiol. 2009 Sep;47(9):2981-4.)

 

RSウイルス

 米国の教育病院のERで行った検討です。小児が対象です。

 

感度

特異度

合計

79.4%

67.1%

月齢 <2ヶ月

78.3%

69.5%

月齢 ≧2ヶ月

81.7%

59.5%

 

 

 

(Emerg Med J. 2014 Feb;31(2):153-9.)

 

アデノウイルス

アデノウイルスも発症5日目以降は、感度が低下します。

 

感度

特異度

合計

72.6%

100%

発症1−4日目

80.4%

 

発症5−11日目

61.5%

 

(J Clin Microbiol. 1999 Jun;37(6):2007-9.)

 

 

小児でのスタディでは下記のような報告がありました。

 

感度

特異度

合計

89.2%

98.0%

 性別、年齢、体温、発症後の日数、アデノウイルスの血清型で、有意差なし。
滲出性扁桃炎では感度が高く(95.0%)、咽頭炎では感度が低い(78.9%)。

(Pediatr Infect Dis J. 2010 Mar;29(3):267-9.)

 

A群溶連菌

105研究、58,244名を対象にしたメタアナリシス。小児を対象にしたレビューです。かなり感度が高いですね。

 

感度

特異度

Total

85.6%

95.4%

(Cochrane Database Syst Rev. 2016 Jul 4;7(7):CD010502. )

 

 病原体により感度は異なりますが、およそ70−80%というところです。もちろん、使用する抗原検査キットによる差異もあるでしょうし、正確さには限度があります。また、多くの研究が、PCR陽性をGold standardにしているので、本当の感染者に対する感度は、更に低いことになります。