小児感染症科医のお勉強ノート

小児感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

小児市中肺炎の治療は短期間でも治療失敗率は上昇しない

 小児の肺炎の治療期間は、決まっているようで、決まっていません。最近の傾向としては、抗菌薬の適正使用の観点から、なるべく短期間の治療が進められてきましたが、具体的に何日間ということまでは決まっていませんでした。
 今回は9個の研究を含むメタアナリシスで、長期間投与と短期間投与で、治療失敗率が異なるのかを検討しました。
 
結果
・対象は、小児(ほとんどが2-59ヶ月)の非重症肺炎(経口抗菌薬で治療)になる。
・治療失敗に関しては、3日間 vs. 5日間で非劣勢、5日間 vs. 10日間で非劣勢だった。
・短期間の治療は、副作用(下痢)も少なく、保護者の欠勤も少ない。
・今後は、より短期間の治療を検討するべきである。
 
Short-Course vs Long-Course Antibiotic Therapy for Children With Nonsevere Community-Acquired Pneumonia: A Systematic Review and Meta-analysis
JAMA Pediatr . 2022 Nov 14. doi: 10.1001/jamapediatrics.2022.4123.
 
はじめに
 抗菌薬投与期間の短縮は、アドヒアランスを向上させ、副作用とコストを削減する可能性がある。しかし、エビデンスが乏しいため、多くのガイドラインでは、重症ではない小児市中肺炎(CAP)に対して、長期の抗菌薬投与が推奨されている。小児の重症ではないCAPに対し、抗菌薬の短期投与が長期投与に対して非劣性であるかを検討した。
 
方法
 非重症CAPの小児患者を対象に、同じ経口抗菌薬を用いて短期間と長期間の治療を比較した無作為化臨床試験を対象とし、データベースを検索した。ランダム効果モデルを用いて、2022年4月15日から2022年5月15日までのデータを解析した。エビデンスの質の評価には、GRADE(Grading of Recommendations Assessment, Development and Evaluation)を使用した。主要アウトカムは、治療失敗とした。治療失敗の定義は、肺炎症状が持続、悪化傾向がある(例:全身状態不良、意識障害、痙攣、経口摂取不良)、治療終了時に発熱が持続(38℃以上)、抗菌薬の変更、入院、死亡、試験薬を3回以上の飲み忘れ、フォローアップからの脱落、インフォームドコンセントの撤回である。
 
結果
 11143名の患者を含む9つの無作為化比較試験が、このメタ分析に含まれた。患者の98%が生後2~59カ月で、58%が男性であった。8つの試験の10 662人の患者が、治療失敗に関する報告していた。治療失敗の割合は、抗菌薬の短期治療コースと長期コースの患者の各々12.8%と12.6%に発生した。非重症CAPの小児における治療失敗に関して、短期治療コースは、長いコースに対して非劣性であることが質の高いエビデンスで示された。(リスク比、1.01;95%CI、0.92-1.11;リスク差、0.00;95%CI、-0.01;I2=0%)。治療失敗に関して、抗菌薬 3 日間コースは 5 日間コースに対して非劣性であり(リスク比,1.01,95% CI,0.91~1.12,I2 = 0%)、5 日間コースは 10 日間コースに対して非劣性であった(リスク比,0.87,95% CI,0.50~1.53,I2 = 0%)。投与期間が短いほど、胃腸炎の報告が少なく(リスク比、0.79;95%CI、0.66-0.95)、保護者の欠勤が少なかった(発生率比、0.74;95%CI、0.65-0.84)ことが示された。
 
結論
 本解析の結果から、2~59 ヵ月の非重症 CAP の小児において、抗菌薬の短期間投与は長期投与に対して非劣性である。小児非重症CAPの治療において、より短期間の抗菌薬投与を検討する必要がある。
 

 

   補足資料に、各国のガイドラインで推奨される薬剤と投与量、投与期間が一覧表になっていました。これだけのガイドラインを比較した表は初めて見ましたが、興味深いですね。

 日本の小児呼吸器感染症診療ガイドラインは、先日、改定されたばかりで、アモキシシリン(40mg/kg/day)5日間が推奨され、経口第3世代セフェムは姿を消しました。他の国では、80-90mg/kg/dayの高用量投与が選択されることが多いです。

 (個人的なプラクティスですが、高用量投与は、小児にとっては飲む薬の分量が増えて飲ませにくいことと、通常量と比較してそれほど治療効果が落ちるわけではないので、通常量を処方することがほとんどです。)



 

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

コロナ後に子供のスクリーンタイムは1時間20分増加した

 ある程度予想はしていましたが、かなり衝撃の結果です。
 コロナのパンデミック後に、子供のスクリーンタイムは、1日あたり2.7時間から4.1時間に約1時間20分も増加しました。
 しかも、教育的な内容が増えたのではなく、テレビ、ビデオゲームSNSの利用が増加していました。ついつい子供にYoutubeなんかを長時間見させてしまうことがありますが、気をつけないと、行けないですね。
 
Assessment of Changes in Child and Adolescent Screen Time During the COVID-19 Pandemic A Systematic Review and Meta-analysis
Madigan S, et al. JAMA Pediatr. 2022. PMID: 36342702
 
はじめに
 COVID-19の流行を抑えるため,小児に対して,休校,隔離,社会的距離の確保,課外活動の中止など,多くの制限が課されたが,これらはスクリーンタイムのパターンを変化させた可能性がある.パンデミック前後を比較することによって、小児のスクリーンタイムの時間、内容、状況の変化を推定し、スクリーンタイムがどのように変化したか明らかにすることを目的とした。
 
方法
 2020年1月1日から2022年3月5日の間に,MEDLINE,Embase,PsycINFO,Cochrane Central Register of Controlled Trialsなどの電子データベースの検索を行った。合計 2474 件の報告が検索で見つかった。研究の選択基準は、パンデミック前とパンデミック中のスクリーンタイムの時間(1日当たり分)の変化を報告したものとし、小児・青年・若年成人(18歳以下)が対象となるもので、縦断的または後ろ向き研究で、査読制度がある英文論文とした。合計136の論文が対象となった。2022年4月6日から2022年5月5日までのデータをランダムエフェクトメタ解析で解析した。主要アウトカムは、COVID-19パンデミック前後の1日のスクリーン時間の変化である。
 
結果
 46件の研究(146件、29017人、男性57%、平均年齢9[SD]4.1歳)をメタ解析した。パンデミック前の基準値162分/日(2.7時間/日)から、パンデミック後には+84分/日(+1.4時間/日)と52%スクリーンタイムが増加したことが判明した。特に、12~18歳(k=26、110分/日)、デバイスの種類(タブレット端末(k=20、44分/日)、パソコン(k=13、46分/日))で顕著に増加した
結論
 COVID-19の流行は、小児の生活やルーチンに大きな影響をもたらし、スクリーンタイムの増加につながっていると思われる。子どもや保護者と接する際には、健康的な端末使用の習慣を促進するべきと示唆している。例えば、毎日の使用時間を短くする、年齢に応じたプログラムを選ぶ、端末を使用しない時間を作る、睡眠・身体活動を促進する、創造力を発揮したり他の人と有意義につながる手段として端末を使うよう子どもに促す、などが含まれる。
 
 

生後6ヶ月−5歳に対する新型コロナワクチン(モデルナ)の有効性

 モデルナワクチンの有効性の報告です。

・6−23ヶ月、2−5歳の両年齢層において、成人(100μg)より少ない量(25μg)の接種で、良好な抗体上昇が得られました。

・COVID-19の予防効果は、36.8%(2−5歳)、50.6%(6−23ヶ月)でした。さすがにオミクロン流行期ですので、予防効果としてはかなり下がる印象です。

・副反応で、新たに懸念されるものはありませんでした。

 日本ではファイザーワクチンの生後6ヶ月以上への接種が承認されました。今後、接種を悩むケースも増えると思います。個人的には、接種を推奨しますが、議論があるところです。成人では既にオミクロン対応ワクチンが接種されている中で、「重症化率が低い年少児に対し、武漢株ワクチンを手放しで勧めることができない」現状はあります。

 理想的には、オミクロン対応ワクチンが、低年齢層でも使用できることなのですが、承認される頃には、オミクロンではない株が流行している可能性も高いので、難しいです。

Evaluation of mRNA-1273 Vaccine in Children 6 Months to 5 Years of Age.
Anderson EJ, et al. N Engl J Med. 2022. PMID: 36260859
 
背景
mRNA-1273ワクチン(モデルナ)の幼児に対する安全性、反応原性、免疫原性、有効性は明らかでない点が多い。
 
方法
 現在進行中の第2-3相試験において、第一部は用量選択のためのオープンラベル試験を実施した。第二部は、選択した用量を接種する観察者盲検プラセボ対照試験を行った。第2部では、幼児(生後6カ月から5歳)を3:1の割合で無作為にワクチン群とプラセボ群に割り付けた。ワクチン群にはmRNA-1273(25μg)を、プラセボ群にはプラセボを、28日間隔で2回投与した。ワクチンの安全性と反応原性を評価し、小児の免疫反応が、別の第3相試験で確認した若年成人(18~25歳)の免疫反応と比較して非劣性であるかどうかを判断することが主要評価項目であった。副次的評価項目は、mRNA-1273投与後のCovid-19の発生率を測定することであった。
 
結果
 第1部の安全性と免疫原性の結果に基づき、第2部では25μgの用量を用いた。第2部では、無作為割付により、2~5歳児3040名および6~23歳児1762名にmRNA-1273の25μg接種×2回、2~5歳児1008名および6~23歳児593名にプラセボを投与した。2 回目の注射後の追跡期間の中央値は、2~5 歳児コホートで 71 日、6~23 ヵ月児コホートで 68 日であった。有害事象は主に軽症かつ一過性のものであり、安全性に関する新たな懸念はなかった。57日目の中和抗体の濃度は、mRNA-1273の100 μgを接種した若年成人の1391(95%CI,1263~1531)に対し、2~5歳児で1410(95%CI,1272~1563)、6~23カ月児で1781(95%CI,1616~1962)であった。両年齢層の免疫反応は、成人と比較して非劣性であった。Covid-19に対する推定ワクチン効果は、B.1.1.529(omicron)が優勢であった時期に、2~5歳児では36.8%(95%CI, 12.5~54.0 )、6~23カ月児では50.6%(95% CI, 21.4~68.6 )であった。
 
結論
 mRNA-1273は、生後6カ月から5歳までの小児に25 μgを2回接種しても安全であり、若年成人と比較して劣らない免疫応答が得られることが明らかとなった。

 

 

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小児の膿胸・肺炎随伴性胸水の特徴

 重症化した肺炎の合併症として、膿胸と肺炎随伴性胸水は有名です。小児では、なかなかそこまでの重症例が少ないですが、まれに経験します。
 ポーランドからの報告で、膿胸と肺炎随伴性胸水を伴う肺炎の臨床的な特徴がまとめられています。
 
要点
・膿胸は、胸水のpHが低く、LDHが高く、糖が低い
・膿胸は、9割以上の症例でドレナージ+線維素溶解療法か、外科的治療が必要。
・肺炎随伴性胸水は、約半数の症例でドレナージ+線維素溶解療法が必要
 
Clinical characteristics of 323 children with parapneumonic pleural effusion and pleural empyema due to community-acquired pneumonia
J Infect Chemother. 2016 May;22(5):292-7.
 
背景
 小児における肺炎随伴性胸水および膿胸(PPE/PE)が増加していると、これまでに発表された複数の研究で明らかになった。本研究の目的は、ポーランド中央部の肺疾患センターで治療を受けた小児におけるPPE/PEの発生率、病因、臨床的特徴、治療方針、転帰を評価することである。
 
方法
 2002年1月〜2013年12月に、市中肺炎(CAP)に起因するPPE/PEを発症した小児(生後1カ月から18歳まで)を対象とした。臨床症状、画像、検査データを後方視的に解析した。
 
結果
 2002 年〜 2013 年に、CAP 症例は1,933 例が入院した。肺炎随伴性胸水または膿胸と診断されたのは323人(16.7%)であった。PPE/PEを合併する割合は、2002年の5.4%から2013年の18.8%に増加した。原因微生物はStreptococcus pneumoniaeが最も多く、起炎菌が判明している症例の66.7%を占めた。全例に抗菌薬が投与された。胸腔穿刺は22.6%、胸腔ドレナージ(線維素溶解療法も含む)は74.3%の症例で実施された。3%の症例で外科的介入が行われた。
 
結論
 12年間に当院で治療した小児CAP患者において、PPE/PE発生率が有意に上昇した。原因菌はS. pneumoniaeが最も多かった。PPE/PEに対しては、胸腔ドレーン挿入±胸膜内線維素溶解療法を伴う抗菌薬療法が有効であり、外科的介入はほとんど必要なかった。適切な管理により、CAP関連PPE/PE患児の全体的な予後は良好である。
 

 
膿胸
肺炎随伴性胸水
pH
7 (7-7.4)
7.5 (7.25-8)
LDH (IU/L)
7418 (2298-20191)
3319 (1081-8280)
糖 (mg/dL)
27 (10-52)
63.5 (26-78)
細胞数 (/μL)
NA
2750 (470-6800)
好中球(%)
80 (66-89)
72 (48-86)

 
膿胸
肺炎随伴性胸水
治療的胸水穿刺
0%
23%
胸腔ドレナージ
7.5%
13.1%
胸腔ドレナージ
+線維素溶解療法
75%
50.9%
VATS
17.5%
0.7%

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乳児期早期の侵襲性細菌感染症でB群レンサ球菌が増加

 韓国からの報告です。

 生後3ヶ月未満の侵襲性細菌感染症のデータのまとめになります。

・B群レンサ球菌(GBS)の割合が増加していた
黄色ブドウ球菌の割合が低下していた
 ということが分かりました。

 

 本文中で、黄色ブドウ球菌が減ったことに関しては、母体への抗菌薬投与などが関係した可能性を記載しています。黄色ブドウ球菌が減ったとはいえ、MRSAが59.6%を締めており、初期治療ではバンコマイシンなどをどのような状況で使うかは難しい課題です。黄色ブドウ球菌の感染巣は、菌血症、骨髄炎、肺炎、心内膜炎などでした。

 GBSが増加した理由に関しては、あまり明確な理由は述べられていませんでした。GBSのスクリーニングが十分にできていないことなどが挙げられていました。GBSの感染巣は、菌血症と髄膜炎が多くみられました。

 

Changes in Etiology of Invasive Bacterial Infections in Infants Under 3 Months of Age in Korea, 2006–2020
The Pediatric Infectious Disease Journal: September 20, 2022
 
目的
侵襲性細菌感染症(Invasive bacterial Infection: IBI)は,乳幼児の健康とり重要な疾患である。本研究では、韓国における乳幼児のIBIの疫学的変化について分析した。
 
方法
2006年から2020年に、生後3カ月未満の乳児IBIについて、多施設で後方視的サーベイランスを実施した。対象症例は、早発型(EOD)(0~6日)と晩発型(LOD)(7~89日)に分類した。また,病原体の比率の経時的変化を解析した。
 
結果
 1545例の年齢中央値は28日(IQR: 12, 53)、EODが17.7%を占めた。病原体はS. agalactiae(40.4%)、E. coli(38.5%)、S. aureus(17.8%) が多く、3菌種で96.7%を占めた。EOD(n = 274)では、S. agalactiae(45.6%)、S. aureus(31.4%)、E. coli(17.2%)、L. monocytogenes(2.9%) が上位を占めた。LOD(n = 1274)では、大腸菌(43.1%)、S. agalactiae(39.3%)、S. aureus(14.9%)、S. pneumoniae(1.3%) が上位を占めた。傾向分析では、S. aureus(r s = -0.850, P < 0.01)の割合が有意に減少し、S. agalactiae(r s = 0.781, P < 0.01)の割合が増加したことが確認された。
 
結論
 2006~2020年の生後3カ月未満の乳児のIBIでは,S. agalactiae,E. coli,S. aureusが最も多く,S. agalactiaeの増加傾向が観察された。

 

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