小児感染症科医のお勉強ノート

小児感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

抗菌薬投与後2.9時間で、尿培養は半数が陰性化する

 尿路感染症の患者さんの尿培養を採る前に、抗菌薬が投与された場合、尿培養が陰性化することがあります。結果的に、原因菌が分からなくなり、広域抗菌薬を投与せざるを得ないという、残念なことになります。
 この研究は、スイスからの研究です。成人の尿路感染症の患者さんの、抗菌薬投与前、投与後1・2・3回目の尿を培養したものです。
 平均すると、初回抗菌薬投与後2.9時間で、陽性率は半分を切ることが分かりました。
 
Urinary culture sensitivity after a single empirical antibiotic dose for upper or febrile urinary tract infection: A prospective multicentre observational study
Clin Microbiol Infect . 2022 Aug;28(8):1099-1104.
 
目的
 抗菌薬投与後に尿培養の感度がどの程度低下するか不明である。本研究では、上部尿路感染症および発熱性尿路感染症に対して、エンピリック抗菌薬を単回投与後の1、2、3回目の排尿時の尿培養を採取し、尿培養の感度を検討し、感度に影響を及ぼす要因を検討した。
 
方法
 二次病院救急外来4ヶ所で、上部尿路感染症または発熱性尿路感染症の成人患者から連続して尿検体を採取した。抗菌薬初回投与前に検体を採取し、抗菌薬投与後の排尿時に最大3検体を連続して採取した。主要アウトカムは、尿培養から、男性では10^3CFU以上、女性では10^4CFU以上の原因菌が陽性となった数である。菌量を問わず陽性になった検体数と10^5CFU以上の発育が見られた検体も、同様の解析を行った。抗菌薬投与から最初の尿培養陰性化までの時間を記録した。Cox回帰分析により、年齢・性別の調整を行った。
 
結果
 87例中86例(99%)において、抗菌薬投与前の尿培養が陽性であった。投与後1回目、2回目、3回目の培養は、それぞれ75例中26例(35%;p<0.001)、50例中15例(30%;p<0.001)、15例中1例(7%;p<0.001)が陽性になった。抗菌薬に耐性の病原体は、それぞれ21例中14例(67%)、17例中13例(76%)、7例中7例(100%)が消失した。また、25%・50%・75%の症例で培養が陰性化するのに必要な時間は、投与後それぞれ1.5時間、2.9時間、9時間であった。高齢、男性、大腸菌以外の原因菌、尿路疾患、合併症、尿道カテーテル留置は、尿培養陰性化までの時間が長かった。しかし、年齢と性別による調整後には、有意な関連は認めなかった。10^5CFU以上の原因菌が検出された割合は、投与後の3検体のうち、それぞれ75例中15例(20%)、50例中7例(14%)、15例中0例(0%)であった。菌量に関わらず陽性となった割合は、それぞれ75例中48例(64%)、50例中23例(46%)、15例中1例(7%)であった。
 
結論
 尿培養感度は、抗菌薬投与後に急速に低下することが示された。

 

 

5−11歳の小児におけるファイザーワクチンの有効性

 新型コロナウイルス感染症やワクチンについて、目まぐるしい速度でエビデンスが生まれています。小児科学会が、5−17歳の小児に対するワクチンを「推奨」に変更したことは大きなニュースです。
 
 「推奨」への変更の根拠となった理由として、小児のCOVID-19重症化を減らす、感染を減らすエビデンスがそろってきたことがあります。今日紹介するのはシンガポールのデータです。ファイザーワクチンを2回接種することにより、下記のことが分かりました。
PCR陽性の新型コロナ感染は、65%減少
・COVID-19による入院は、82%減少
 
 オミクロン株に対しても、ファイザーのコロナワクチンは有効でした。
Effectiveness of BNT162b2 Vaccine against Omicron in Children 5 to 11 Years of Age
N Engl J Med 2022; 387:525-532
 
背景
新型コロナウイルスSARS-CoV-2)のB.1.1.529(オミクロン)変異体は、2021年11月に初めて同定され、世界中で急速に拡大した。多くの国で、B.1.617.2(デルタ)変異体に代わって優勢になっている。しかし、小児におけるオミクロン株に対するワクチンの有効性に関するデータは不足している。
 
方法
 オミクロン株が急速に拡大した2022年1月21日から4月8日に本研究を実施した。シンガポールの5歳−11歳の小児のデータを解析した。ワクチン未接種、部分接種(ワクチン初回接種1 日後〜2 回目接種6 日後)、完全接種(2 回目接種後 7 日以上)に分類した。報告されたすべての SARS-CoV-2 感染(PCR測定法、迅速抗原検査,または両方で確認)、PCR陽性のSARS-CoV-2 感染、Covid-19関連の入院を、ワクチンの接種状況毎に評価した。ポアソン回帰を用いて、アウトカムの発生率比からワクチンの有効性を推定した。
 
結果
 合計255,936人の小児が解析に含まれた。ワクチン未接種の小児では、報告された全SARS-CoV-2感染、PCR陽性SARS-CoV-2感染、Covid-19関連入院の粗発生率は、100万人日あたり3303.5、473.8、30.0人であった。部分接種のワクチン効果は、全SARS-CoV-2 感染に対して 13.6%(95%CI, 11.7−15.5)、PCR陽性SARS-CoV-2 感染に対して 24.3%(95% CI, 19.5−28.9)、Covid-19関連入院に対して42.7%(95% CI, 24.5−28.9) であった。完全接種では、ワクチン効果は各々 36.8%(95% CI,35.3−38.2)、65.3%(95% CI,62.0−68.3)、82.7%(95% CI,74.8−88.2 )であった。
 
結論
 オミクロン株が優勢であった期間、BNT162b2 ワクチン(ファイザーワクチン)接種により、5 − 11 歳の小児における SARS-CoV-2 感染および Covid-19 関連の入院のリスクが低下した。
 

 

1 million person-daysあたりの感染数・入院数
グループ
すべての感染
PCR陽性
入院
未接種
3303.5
473.8
30.0
1回接種
2997.3
391.2
19.1
2回接種
2770.3
111.8
5.5
 
2回接種のワクチン効果
 
ワクチン効果 (95% CI)
すべてのSARS-CoV-2感染
36.8% (35.3-38.2)
PCR陽性SARS-CoV-2感染
65.3% (62.0-68.3)
COVID-19による入院
82.7% (74.8-88.2)

4回目ワクチンはファイザーそれともモデルナ??

 4回目のワクチン接種が、急ピッチで進む中、4回目はファイザーかモデルナどちらが良いか、迷っている方も多いと思います。
 イギリスから、4回目接種後の免疫反応を検討した論文が出ました。残念ながらオミクロン株に対する有効性までは、検討できていませんが、1−3回目をファイザーで接種した後、4回目をファイザーまたはモデルナで比較しました。
 各種データが詳しく載っていますが、これから4回目を接種する多くの日本人にとって重要な項目のみピックアップしました。
要点
・4回目接種→14日後で、抗体価およびT細胞の反応性は向上する
ファイザーもモデルナもおそらく大きな差はない
 (ちょっとだけモデルナの方がよく見える)
・3回目接種後より、更に数値は上昇する
・ただし、オミクロンに対する効果までは分からない
 
ファ→ファ→ファ→ファ
ファ→ファ→ファ→
抗体価の上昇
(液性免疫)
11.14倍
(9.21-13.47)
12.30倍
(9.39-16.11)
T細胞の反応性の上昇
(細胞性免疫)
4.14倍
(1.04-16.54)
6.08倍
(3.86-9.56)
 
 
Safety, immunogenicity, and reactogenicity of BNT162b2 and mRNA-1273 COVID-19 vaccines given as fourth-dose boosters following two doses of ChAdOx1 nCoV-19 or BNT162b2 and a third dose of BNT162b2 (COV-BOOST): a multicentre, blinded, phase 2, randomised trial
Lancet Infect Dis . 2022 Aug;22(8):1131-1141.
 
背景
 一部の高所得国では、COVID-19ワクチンの4回目の接種が実施している。しかし、4回目接種の臨床的必要性、効果、最適な時期と用量は依然として不明である。我々は、COVID-19に対する4回目ブースター接種の安全性、免疫反応、免疫原性を調査することを目的に本研究を実施した。
 
方法
 COV-BOOST試験は、英国の18施設でCOVID-19ワクチン7種を3回目のブースターとして投与する多施設共同盲検第2相無作為化比較試験である。この研究では、ブースター接種3回目にBNT162b2(ファイザー・バイオンテック)を接種した参加者を登録した。4回目接種は、BNT162b2(30 μg 0.30 mL:通常量)またはmRNA-1273(Moderna:50 μg 0.25 mL:半量)のいずれかに1:1に無作為に割付した。主要評価項目は、安全性と免疫反応、および免疫原性(ELISA法による抗スパイク蛋白IgG力価、ELISpot法による細胞性免疫応答)とした。免疫原性は、3回目の投与から28日後と4回目の投与から14日後、および4回目の投与から0日目と14日目の相対比較で検討した。
 
結果
 2022年1月11日から1月25日の間に、166人が対象となり、無作為に割り当てられた。4回目接種としてBNT162b2(n=83)またはmRNA-1273(n=83)のいずれかが投与された。参加者の年齢中央値は70.1歳(IQR 51.6-77.5)、166人中86人(52%)が女性、80人(48%)が男性であった。3回目と4回目の投与間隔の中央値は208.5日(IQR203.3-214.8)であった。BNT162b2またはmRNA-1273のブースター投与後、最も多く見られた局所の有害事象は疼痛で、最も多く見られた全身性の有害事象は倦怠感であった。BNT162b2の4回目接種後に報告された重篤な有害事象3例は、いずれもワクチンとの関連はなかった。BNT162b2群では、3回目接種後28日目の抗スパイク蛋白IgG力価の平均は、23325 ELU/mLで、4回目接種後14日目に37460 ELU/mL(31996-43 857)に有意に増加した。(平均1.59倍、95% CI1.41-1.78)。3回目接種後28日目(平均25317 ELU/mL)からmRNA-12734回目接種後14日目(54936 ELU/mL)まで、抗スパイク蛋白IgG力価の有意な増加が見られた。(平均2.19倍(1.90-2.52))であった。4回目接種前(0日目)から投与後(14日目)までの抗スパイク蛋白IgG力価の変化は、BNT162b2群とmRNA-1273群で12.19倍(95%CI 10.37-14.32)および15.90倍(12.92-19.58)であった。T細胞応答も4回目接種後に向上した(野生株に対して4回目接種前と接種後の変化は、BNT162b2群で7.32倍[95%CI 3-24-16-54]、mRNA-1273群で6.22倍[3-90-9-92]であった)。
 
結論
 mRNAワクチンの4回目接種は、忍容性が高く、細胞性免疫と液性免疫を増強する。4回目接種後のピークは、3回目接種後のピークと同様であり、3回目よりもより向上していた。
 
 
SARS-CoV-2抗体価 (ELU/mL)
1−3回目すべてファイザーワクチンの対象者(n=64)
 
4回目 ファイザー
4回目 モデルナ
3回目接種 28日後
26982
29161
4回目接種 当日
3761
4769
4回目接種 14日後
42949
58043
4回目当日→14日後
上昇倍率
11.14
(9.21-13.47)
12.30
(9.39-16.11)
 
野生株に対する細胞性免疫反応 (spot forming cells per 10^6 PBMCs)
1−3回目すべてファイザーワクチンの対象者(n=64)
 
4回目 ファイザー
4回目 モデルナ
3回目接種 28日後
65.04
108.90
4回目接種 当日
19.93
30.20
4回目接種 14日後
84.87
241.91
4回目当日→14日後
上昇倍率
4.14
(1.04-16.54)
6.08
(3.86-9.56)

 

 

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

ワクチン接種によりMIS-Cは減る(デンマークのコホート研究)

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に罹患後2−6週間で発症する小児多系統炎症性症候群(MIS-C)という病態があります。川崎病に似た症状を呈しますが、ショックになるリスクが高く、ICUでの管理が必要になることが多く、死亡例もあります。
 オミクロン株の出現により、mRNAワクチンが感染を予防する効果は低下してしまいましたが、重症化の予防効果は十分あります。
 今回デンマークコホート研究で、小児にワクチンを接種すると、MIS-Cの発症が低下することが示されました。
 ワクチンは、「感染を予防しない=意味がない」と短絡的に解釈するのは正しくないです。まだ、確固たる研究では示されていないかもしれませんが、「オミクロン株に対しても、重症化予防、合併症予防、感染拡大の予防」など十分に効果が期待できると考えます。
Risk and Phenotype of Multisystem Inflammatory Syndrome in Vaccinated and Unvaccinated Danish Children Before and During the Omicron Wave 
JAMA Pediatr . 2022 Jun 8;e222206. doi: 10.1001/jamapediatrics.2022.2206.
 
はじめに
小児多系統炎症症候群(MIS-C)は,小児におけるSARS-CoV-2の重大な合併症である。 オミクロン株の流行期に、ワクチン接種者と非接種者において、MIS-Cを発症するリスクを推定することを目的とした。MIS-C発症のリスクと臨床的特徴をオミクロン株流行以前と比較した。
 
方法
 本コホート研究は、デンマークの全小児科入院施設(18ヶ所)で、0歳から17歳のMIS-Cの患者を前向きに調査した。オミクロン株が95%以上を占めるようになった2022年1月1日から2月1日の間にSARS-CoV-2に感染し、2022年1月1日〜3月15日にMIS-Cと診断された患者を研究の対象とした。コホート研究の STROBE 報告ガイドラインに従った。オミクロン株流行時のMIS-Cと以前のMIS-Cの頻度を比較するために、既報のデータを使用した。
SARS-CoV-2に感染した小児100万人あたりのMIS-Cの発症リスクを算出した。感染者数は、デンマークの COVID-19 サーベイランス登録から得られた感染者数の1.5~2.1 倍を適用し、推定した。
 
結果
 267086人のワクチン接種者を含む、583618人の小児が感染したと推定された。うち、1人のワクチン接種者と11人のワクチン非接種者がMIS-Cに罹患していることが確認された。再感染者と推定される31 516人の中には、MIS-C患者はいなかった。オミクロン株感染後のMIS-Cは、ワクチン接種者で有意に低かった(RR, 0.11; 95% CI, 0.01-0.83; P = .007)。オミクロン株感染後のワクチン未接種者のMIS-Cリスクは、デルタ株(RR, 0.12; 95% CI, 0.06-0.23; P < .001) および野生株(RR, 0.14; 95% CI, 0.07-0.29; P < .001)に比べて、有意に低かった。
 
考察
オミクロン株感染後のMIS-Cのリスクは、過去のSARS-CoV-2亜型と比較して大幅に低かった。オミクロン株は、免疫逃避が起こりやすく、過剰な炎症反応が起こりにくい可能性がある。オミクロン株感染後のMIS-Cのリスクは,ワクチン接種者で有意に低く、オミクロン以前の変異株と比較して大幅に減少した。ワクチン接種者におけるブレークスルー感染後の MIS-C のリスクは低い。
 
ウイルス
MIS-C症例数
感染者100万人あたりの発症率 (95%CI)
オミクロン株
 
 
ワクチン未接種
11
34.9 (17.4-62.4)
ワクチン接種済
1
3.7 (0.1-20.9)
デルタ株
 
 
ワクチン未接種
51
290.7 (216.4-382.2)
ワクチン接種済
1
101.5 (2.6-565.2)
野生株
 
 
ワクチン未接種
23
245.6 (155.7-368.5)

 

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

小児新型コロナウイルス罹患後の後遺症

再び、新型コロナウイルス感染症の患者数が増加しています。第6波では、小児例がとても多く、当院でも多くの方が入院しました。罹患後になかなか体調が元通りに戻らないお子さんもおり、長期的な影響が心配されます。

この研究は、アメリカの小児施設で、COVID-19とMIS-C(多系統炎症性症候群)罹患後の後遺症を調べたものです。

要点

・COVID-19罹患後の26%、MIS-C罹患後の30%の患者に、2ヶ月以上続く症状や活動障害が認められる。

・呼吸器系基礎疾患や肥満があると、その頻度は更に高い。

 

 入院患者が対象なので、ある程度の重症例がメインになりますが、小児でも後遺症を発症する可能性があり、罹患しないようにできる対策はすべて講じるべきです。

Health Impairments in Children and Adolescents After Hospitalization for Acute COVID-19 or MIS-C
Pediatrics . 2022 Jun 29. doi: 10.1542/peds.2022-057798. Online ahead of print.
 
目的
 小児において、COVID-19 または小児多系統炎症性症候群(MIS-C)による入院後の後遺症の危険因子を評価すること。
 
方法
 米国の25ヶ所の小児医療施設2で実施された多施設共同前向き観察コホート研究である。21歳未満で、2020年5月〜2021年5月にCOVID-19またはMIS-Cで入院し、入院から2~4か月経過した患者を対象とした。再入院、持続的な症状や活動障害、機能状態評価尺度によって特定される後遺症を評価した。多変量回帰を用いて、調整リスク比(aRR)を算出した。
 
結果
 対象患者358名のうち、COVID-19の119/155名(76.8%)およびMIS-Cの160/203名(78.8%)で2-4か月間の調査データが得られた。再入院はCOVID-19で13例(11%)、MIS-Cで12例(8%)であった。COVID-19の32例(26.9%)に持続的な症状(22.7%)または活動障害(14.3%)を認め、MIS-Cの48例(30.0%)に持続的な症状(20.0%)または活動障害(21.3%)を認めた。COVID-19患者では、持続的な症状(aRR,1.29[95%CI,1.04-1.59])および活動障害(aRR,1.37[95%CI,1.06-1.78])は、臓器障害の程度と関連していた。MIS-Cと呼吸器の基礎疾患を持つ患者は、持続的な症状を呈する事が多く(aRR, 3.09[95% CI, 1.55-6.14] )、肥満患者は活動障害が多かった(aRR, 2.52[95% CI, 1.35-4.69])。
 
結論
 COVID-19またはMIS-Cの入院患者の4人に1人は、少なくとも2か月間、症状や活動障害が持続していた。MIS-C、呼吸器疾患、肥満患者は,症状が長引くリスクが高い。