小児感染症科医のお勉強ノート

小児感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

サル痘ってどんな病気?

 カナダでサル痘の患者が集団発生している報告があります。医者にとっても聞き慣れない病気ですので、まとめました。
 
 サル痘について要点です。
要点
1)サル痘は、オルソポックスウイルスの一種である、サル痘ウイルスの感染により生じる。
2)天然痘に類似した発疹を生じる人獣共通感染症(ネズミなどげっ歯類が宿主)である。
3)サル痘の感染力と死亡率は天然痘よりもかなり低い
4)臨床的には、この2つのウイルス感染症は区別がつきにくい。
5)感染動物の体液に触れたり、咬まれたりすることでウイルスに感染する。
6)患者の多くは中央・西アフリカで発生している。米国ではプレーリードッグが感染源となった事例が報告されている。
7)曝露からの潜伏期間は2週間以内。
8)主要な症状は、発熱、発疹、リンパ節腫脹、筋肉痛、悪寒などである。
9)診断には、サル痘ウイルスを確認することが必要。ウイルス分離、電子顕微鏡PCRなどがある。
10)ほとんどの患者は軽症で、自然治癒する。
 
以下はUptodateのまとめです。
はじめに
 サル痘(monkeypox)は、天然痘に類似した発疹を生じるウイルスによる人獣共通感染症である。しかし、サル痘感染によるヒトからヒトへの感染率および死亡率は、天然痘の場合よりもかなり低い。臨床的には、これら2つのウイルス感染症の区別は困難であり、サル痘がバイオテロに利用される懸念がある。
 
ウイルス学的特徴
 オルソポックスウイルスであるサル痘ウイルスは、1950年代後半に病気のサルのコロニーから初めて単離された。このウイルスは、variola(天然痘の原因)およびvaccinia virus(天然痘ワクチンに使用されるウイルス)と同じ属に分類される。サル痘ウイルスに感染した細胞を電子顕微鏡で観察すると、レンガ状のウイルス粒子が観察される。
 
サル痘は、アフリカの異なる地域(中央アフリカと西アフリカ)に2つの異なる系統が存在する。中央アフリカから分離された株と比較して、西アフリカのサル痘は毒性が弱い。
 
疫学
歴史 - サル痘ウイルスは、サハラ以南のアフリカで数千年にわたりヒトに感染してきたと考えられている。
 
サル痘は、1970年代にコンゴ民主共和国(旧ザイール共和国)でヒトの疾患の原因として初めて同定された。1970-80年の間に59例のヒトのs症例が報告され、死亡率は17%であった。症例はすべて、西アフリカおよび中部アフリカの熱帯雨林で、小動物(ネズミ、リス、サル)と接触した患者に発生した。
西半球で最初にサル痘が確認されたのは、2003年の米国である。
 
感染様式-サル痘ウイルスは通常、感染した動物の体液との接触または咬傷によってヒトに感染する。サルやヒトは偶発的宿主である。固有宿主は、げっ歯類である可能性が高い。西アフリカから感染したげっ歯類が誤って米国に輸入され、西半球で初めてヒトへのサル痘感染が起こったと考えられる。
 
一般に、ヒトからヒトへの伝染性は非常に低い 。しかし、感染には長時間の対面接触が必要である。(例えば、個人防護具(PPE)がない場合、半径6フィート以内で3時間以上)
 
感染経路と曝露の程度は、臨床症状の重症度に影響を与える可能性がある。例えば、プレーリードッグへの曝露を非侵襲性(例えば、感染動物に触れた、ケージを清掃した)と「複雑性」(例えば、病気のプレーリードッグに噛まれたりした)に分類しています。複雑性曝露を受けた患者は、非侵襲性曝露を受けた患者よりも、全身性疾患の徴候を発症する可能性が高いことがわかっている。
 
地理的分布 - サル痘のほとんどの症例は中央・西アフリカで発生している。しかし、帰国旅行者の散発的な感染が数カ国で報告されている。米国では、アフリカからの動物輸入による発生があった。
 
アフリカ - 1996年から1998年にかけて、約100例で発熱とそれに伴う膿疱性病変が発生した。二次発作率が80%という報告がある。水痘が同時に発生したため、症例の分類を誤った可能性がある。死亡率が全体的に5%未満であった。
 
その後、2005年から2007年にかけて行われたサーベイランス調査では、コンゴ民主共和国におけるサル痘の感染率が1980年代に比べて20倍も増加していることが確認された。2005年から2007年にかけて、ヒトのサル痘の症例が760例確認された。天然痘の予防接種歴を持つ者は、未接種の者に比べてサル痘の感染リスクが5倍低かった。天然痘の予防接種歴が無いと、サル痘の症例が増加するという懸念を証明した。その他の感染リスク要因として、森林地帯に居住、男性、年齢15歳未満が挙げられる。
 
2017年以降、ナイジェリアではサル痘の症例が増加している。これらの事例の一部は、ナイジェリアから帰国した旅行者の間で発生している。
 
米国
 2003年5月15日から6月にかけて、6つの州で71例のサル痘の発生がCDCによって調査された。35例でウイルスの存在が確認された。調査の結果、ペットとしてプレーリードッグを購入した患者が発熱し、その後、膿疱性発疹が出現したことが明らかになった。プレーリードッグは、イリノイ州の流通センターでアフリカネズミと一緒に飼育されており、アフリカネズミからウイルスを獲得したと考えられた。
 
イリノイ州インディアナ州ウィスコンシン州の患者10人のうち9人の皮膚病変と、死亡したプレーリードッグ1匹のリンパ節から得られたウイルスのPCR検査により、サル痘感染が確認されました。ヒトの症例のほとんどは、動物への直接の曝露があったが、ヒトからヒトへの感染は否定できなかった。ウィスコンシン州で報告された症例のうち、アウトブレイクに関連したプレーリードッグに曝露された獣医師スタッフは特にリスクが高かった。サル痘の患者をケアした医療従事者57人を対象とした研究では、サル痘の症状が出現した人はいなかった。
この集団発生以降、プレーリードッグやアフリカからの動物の輸送、販売などが、CDCと米国食品医薬品局(FDA)により禁止された 。
 2021年7月、テキサス州ダラスで患者がサル痘と診断された。この患者は、ナイジェリアからの帰国中に症状を発症した。
 
他国 - 2018年9月、英国(UK)でサル痘の2例が報告された。患者は、サル痘の症例が報告されたナイジェリア南部から英国に渡航していた。ナイジェリアからの渡航に関連する他の症例は、イスラエルシンガポールで報告されている。
 
潜伏期間
 上記の米国のアウトブレイクでは、29人の患者の曝露から発病までの推定潜伏期間は12日であった。動物に噛まれたり引っかかれたりした場合、潜伏期間が短い可能性がある(13日 vs 9日)。
 
臨床症状
 サル痘感染の大部分は無症状である。有症者の場合、サル痘は発熱、悪寒、筋肉痛などの全身疾患を引き起こし、天然痘と区別することが重要な特徴的な発疹を呈する。また、ウイルスの株によって臨床症状が異なることもある。
 
 アフリカでは、サル痘の発疹は体幹から始まり、周辺に広がって手掌・足底に広がる。粘膜病変を呈することもあり、通常0.5〜1cmの大きさになる。発疹は通常、紅斑および丘疹で始まり、2〜4週間かけて小水疱、膿疱、そして中央が陥凹し、痂皮化、落屑する。感染動物との直接接触した手指の局所的な発疹のみの場合もある。
 2003年の米国の報告では、37人のうち34人について、主な徴候と症状は以下の通りである。
 発疹(97%) 、発熱(85%)、悪寒(71%)、リンパ節腫脹(71%)、頭痛(65パーセント)、筋肉痛(56%)
 
 発熱は発疹より約2日早く認められ、発熱期間の中央値は8日間であった。発疹は、初診時に紅斑状であり、発疹はその後、小水疱、膿疱へと進展し、最終的には2〜3週間のうちに痂皮化した。
 リンパ節腫脹は、サル痘の重要な特徴である 。リンパ節腫脹は、顎下、頸部、鼠径部に生じることがある。
 
 34人のうち9人は、吐き気、嘔吐、嚥下障害など様々な理由で入院した。最も重症の患者2名の退院時の診断は、脳症と後咽頭膿瘍であった。全例が支持療法により回復し、抗ウイルス療法は行われていない。トランスアミナーゼ上昇、白血球増加、軽度の血小板減少、低アルブミン血症などの非特異的な臨床検査所見が認められた。
 

Monkeypox | Poxvirus | CDC



 
診断
 臨床症状は診断に有用であるが、この疾患を確定するためには、サル痘ウイルスの確認が必要である。診断法には、ウイルス分離、電子顕微鏡PCR、免疫蛍光抗体測定法などがある。電子顕微鏡では、特徴的なレンガ状のポックスウイルスが観察される。病理学には、ケラチノサイトのバルーン状変性、顕著なスポンジ化、皮膚浮腫、および急性炎症が示されることがありますが、これらの所見は他のウイルス感染症でも見られることがあり、特異的ではない。
 
 2003年の米国での集団発生時に得られた患者の血清を使用して、CDCは、サル痘ウイルス感染を証明するIgG・IgM ELISAを開発した。発疹の発症から5日と8日後に検出された。
 
鑑別診断
 水痘と天然痘の2つの感染症が主な鑑別診断である。
 天然痘が根絶されたため、診断上最も考慮すべきは水痘である。水痘の場合、診察時に小水疱病変の発生があり、段階が異なる皮疹が存在するのが特徴であるが、サル痘の場合、病変は概ねすべて同じ段階である。
 アフリカのポックスウイルスであるタナポックスも鑑別診断の対象となる。Orfは、サル痘と同様の皮膚病変を局所的に生じる。
 
治療
支持療法 - ほとんどは軽症で、自然治癒する。脱水のリスク(嘔吐、嚥下障害)のある患者は、水分補給のため入院が必要になる場合がある。
 
Cidofovir-サル痘に対してin vitroで活性があり、動物モデルで有効であることが示されている。しかし、ヒトにおける有効性に関する臨床データはなく、腎毒性を含む重大な有害事象が知られている。
 
 
Tecovirimat - 2018年7月、米国で天然痘の治療薬として使用が承認さた薬剤。ヒトのサル痘に対してもおそらく有効であると推定される。
 
Brincidofovir - 2021年6月、天然痘の治療用として米国で使用が承認された。経口投与が可能である。
 
 
死亡率
中央アフリカでは、致死率は約10%。米国での集団発生では死亡例はなかった。
 
予防
天然痘ワクチン接種が感染を予防し、症状を改善することを示唆するデータがある。アフリカでは、2278人の家庭内接触者の二次感染率は、事前の天然痘ワクチン接種状況によって大きく変化した(ワクチン接種者と非接種者で1.3% vs 7.5%)。ワクチン接種者はワクチン非接種者に比べてサル痘のリスクが5倍低かった(1万人当たり0.78人対4.05人)。
 
 
曝露後予防
曝露後ワクチン接種-サル痘に曝露した後(例えば、個人防護具(PPE)なしで患者に接触した場合)、接触者の健康観察と隔離に加えて、特定の患者には天然痘ワクチン接種を検討することができる。
 ワクシニアウイルスによる事前のワクチン接種がサル痘感染を防ぐことから、CDCは、2003年の米国での流行でサル痘に曝露した小児や妊婦を含む限られた人に、ワクシニアウイルスによるワクチン接種を推奨した。アウトブレイクの調査に携わった人や、サル痘の患者をケアする医療従事者に対しても、曝露前のワクチン接種を推奨した。成人28名と小児2名が天然痘ワクチンの接種を受け、接種者の中にサル痘を発症した症例は確認されなかった。
 サル痘の曝露後ワクチン接種の最適な時期は4日以内であるが、CDCによれば、密接な接触による曝露の14日まではワクチン接種を検討することができるとしている。
 
感染予防策 - サル痘および天然痘が鑑別診断に含まれる原因不明の全身性小水疱性発疹には、接触予防策および空気感染予防策の両方が推奨される。発疹が出現して1週間は、感染力があると考え、すべての発疹が痂皮化し、咽頭PCRが陰性になるまで隔離する必要がある。

小児がん患者とCOVID-19

 小児がん患者のCOVID-19の特徴をまとめたシステマティックレビューです。2021年6月の論文で多くの症例が、COVID-19パンデミック初期にあたります。そのため、症状の特徴や、治療内容(ヒドロキシクロロキンが多い)に関しては、現状のオミクロン株と異なる点も多いと思います。しかし、大部分は軽症であるものの、重症化症例もあり、注意が必要であることは、同じかと思います。
 
Clinical presentations and outcomes of children with cancer and COVID-19: A systematic review
Pediatr Blood Cancer . 2021 Jun;68(6):e29005.
 
小児がん患者と新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関する情報は限られている。我々は、COVID-19に感染した小児がん患者に関する文献の系統的レビューを実施した。文献検索の最終日は2020年10月20日226人の小児からなる33の研究が最終的な解析に含まれた。データはあらかじめ定義されたデータ収集フォームで抽出され、変数が抽出され、分析された。
血液悪性腫瘍の患者が、より多かった。性別は男性に多く、強化療法中の小児がより多く罹患していた。発熱が、最も多い症状であった。無症状・軽症が48%、重症が9.6%であった。画像所見は、浸潤影、気管支周囲陰影の増強、すりガラス陰影を伴う浸潤影が多く見られた。最もよく使用された薬剤は、ヒドロキシクロロキンであった。約10%の小児が集中治療を必要とし、約32%が酸素吸入を必要とした。COVID-19の死亡率は、4.9%であった。小児悪性腫瘍患者におけるCOVID-19の重症度、死亡率は、一般小児と比較して高かった。この情報は,COVID-19の管理のためのリスク層別化に役立つと考えられる。
 
 
国籍:ペルー69名、イタリア63名、米国29名、スペイン25名、メキシコ17名、等
 
年齢中央値 7歳
性別 男児が63.4%
血液腫瘍 53%、固形腫瘍 47%
寛解 48.9%
治療 強化療法33.3%、HSCT後16.7%、低用量化学療法・維持療法 12.7%、化学療法終了後5.9%
 
症状
割合
発熱
41.8%
咳嗽
12.5%
低酸素血症
10.8%
インフルエンザ様
7%
呼吸困難
5.4%
下気道感染症
6%
上気道感染症
2.7%
鼻汁
1.6%
消化器症状
3.8%
皮疹
1.6%

 

 

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

オミクロン株は、デルタ株より重症化しにくい(小児)

 オミクロン株とデルタ株の流行期の、小児COVID-19の重症度を比較した検討です。
成人でも言われているように、小児においても、オミクロン株では重症化しにくい傾向がありました。
 
COVID infection severity in children under 5 years old before and after Omicron emergence in the US 
Wang L, et al. medRxiv. 2022. PMID: 35043116
 
はじめに
 Omicron変異株の出現後、小児のSARS-CoV-2感染と入院は、世界中で増加している。しかし、米国の5歳以下の小児におけるOmicronとDeltaの重症度に関するデータは少ない。
 
目的
 米国でOmicronの流行前後に初めてCOVID-19に感染した5歳未満の患者の重症度を比較する。
 
方法
 本研究は、COVID-19に初めて罹患した5歳未満の小児79,592人の電子カルテ(EHR)データの後向きコホート研究である。Omicron流行した2021/12/26-2022/1/6に感染した7,201人(Omicronコホート)と、Deltaの流行期に当たる2021年9月1日から2021年11月15日の間に感染した63,203人(Deltaコホート)と、Delta流行期であったが米国でオミクロン亜種が検出される直前の2021年11月16日から23日に感染した9,188人(Delta2コホート)との3群に分けて比較した。対象者は、SARS-CoV-2に初感染した患者のみとした。
 傾向スコアマッチング後、SARS-CoV-2感染後3日間の期間に救急外来(ED)受診、入院、集中治療室(ICU)入室、人工呼吸器使用などのCOVID-19感染の重症度を、OmicronとDeltaコホート、およびDelta-2とDeltaコホートの間で比較検討した。リスク比および95%信頼区間(CI)を算出した。
 
結果
 Omicronコホートの小児 7,201 例(平均年齢 1.49 ± 1.42 歳)のうち、47.4%が女性、2.4%がアジア人、26.1%が黒人、13.7%がヒスパニック、 44.0% が白人であった。傾向スコアマッチング前のOmicronコホートは、Deltaコホートより若く(平均年齢1.49歳 vs 1.73歳)、黒人が多く、合併症が少なかった。社会経済的患者背景、合併症、薬物療法に関する傾向スコアマッチングの結果、Omicronコホートの重症化リスクは、Deltaコホートよりも有意に低かった。ED受診: 18.83% vs 26.67%(リスク比[RR]:0.71[0.66-0.75])、入院: 1.04% vs. 3.14% (RR: 0.33 [0.26-0.43])、ICU入室: 0.14% vs. 0.43%(RR:0.32[0.16-0.66])、人工呼吸器管理: 0.33% vs. 1.15%(RR:0.29[0.18-0.46])であった。Delta-2とDeltaコホートを比較したが、差はなかった。
 
結論
 5歳未満の小児において、Omicron流行期に罹患した初回のSARS-CoV-2感染は、Delta流行期に比較し、有意に重症化が少なかったことが示された。
 

オミクロン株に対するファイザーワクチンの効果(小児)

 第6波(オミクロンの流行)では、小児COVID-19患者数が増加し、重症例も増えています。一方で、小児(5-11歳)へのワクチン接種は認可されたものの、未だに接種率が低いのが現状です。

 その原因として、保護者が「子供のコロナは軽症と思っている」ことと、ワクチンの有効性や安全性に対する懸念があるのだと思います。

 今回紹介する論文は、オミクロン流行期に、小児に対するファイザーワクチンの有効性を検討した論文です。テストネガティブ研究という、RCTよりはエビデンスレベルの低い研究にはなりますが、現実世界でのワクチンの有効性を判断する良い根拠になると思います。

 

要点

・デルタとオミクロンが流行した時期に、COVID-19と診断された5歳以上の小児1185名が対象。対照群(COVID-19陰性)の1167名と比較した。

・12-18歳:オミクロン流行期のワクチン効果は、入院に対して40%、重症化に対して79%。(感染自体はあまり防ぐことはできないが、重症化は防ぐ)

・5-11歳:入院を予防する効果は68%

 

BNT162b2 Protection against the Omicron Variant in Children and Adolescents

Price AM, et al. N Engl J Med. 2022. PMID: 35353976

 

背景

 新型コロナウイルスSARS-CoV-2)B.1.1.529(omicron)変異株の拡散により、米国ではCOVID-19による入院が増加している。小児において、ワクチンの免疫回避やワクチンの有効性が保たれる期間についての懸念が生じている。

 

方法

 症例対照・テストネガティブデザインを用いて、COVID-19による入院例、重症例(life supportを受けた、または死亡に至った症例)に対するワクチンの有効性を評価した。2021年7月1日-2022年2月17日まで、米国23州の31病院でCOVID-19を発症した症例患者とCOVID-19を発症していない対照患者を登録した。12-18歳の患者についてはワクチン接種からの経過時間、5-11歳および12-18歳の患者についてはB.1.617.2(デルタ)(2021年7月1日-12月18日)およびオミクロン(2021年12月19日-2022年2月17日)の流行と一致する時期で、発症前14日よりまえにワクチン2回接種(BNT162b2ワクチン2回)の確率を比較しワクチン効果の推定を行った。

 

結果

 COVID-19患者1185人(1043人[88%]がワクチン未接種、291人[25%]がlife supportを受け、14人が死亡)と対照患者1627人を登録した。デルタ流行期間において、12-18 歳における COVID-19 入院に対するワクチン効果は、接種後 2-22 週で 93%(95% 信頼区間 [CI], 89-95)、23-44 週で 92%(95% CI, 80-97)であった。12-18 歳(接種後日数の中央値162 日)において、オミクロン流行期のワクチン効果は、COVID-19 による入院に対して 40%(95% CI,9-60)、重症 COVID-19 に対して 79%(95% CI,51-91)、非重症COVID-19 に対して 20%(95% CI,-25-49)であった。5-11歳における入院に対するワクチンの有効率は68%(95%CI,42-82,接種後間隔中央値,34日)であった。

 

結論

 BNT162b2ワクチン接種により、5歳から11歳の小児におけるオミクロンによる入院リスクは3分の2に減少した。12-18歳では、2回の接種でオミクロンによる入院の予防効果はデルタによる入院の予防効果よりも低かったが、ワクチン接種により、どちらも重症化も防ぐことができた。

 

オミクロン株に感染した小児の臨床像

 新型コロナウイルスの変異株B.1.1.529系統(オミクロン株)が流行した第6波以降、COVID-19に対応する医療現場は変わってきています。テレビの報道などでも、重症化する患者が減り、重症用ベッドが足りないということは無くなり、軽症例の割合が増加しています。オミクロン株による重症化率がやや低い傾向はあるものの、国内のワクチン接種が進んでいることも一因です。
 小児の新型コロナウイルスを対応している当院でも、臨床の景色が変わりました。まず、小児患者数が特に増えました。もちろん成人も第6波では、最多の感染者数を更新しましたが、小児の割合が明らかに増えました。これは、小児にワクチン接種が進んでいないことが主な理由と思います。オミクロン株に感染した小児では、咽頭炎などの影響で、飲水が困難になり、補液が必要な患者が増加しています。
 
 今回紹介する研究は、2022年2月時点で、米国のデータベースに登録された症例から、オミクロン株とそれ以前の流行で、患者の症状に差があるかを見たものです。
 
ポイント
・オミクロン株の流行により、「上気道感染」で入院する症例が増えている
・オミクロン株で入院する患者の年齢が若い。
・オミクロン株にでは、重症化率が低い、ステロイド投与・抗菌薬投与される割合が低い。
 
 
Acute Upper Airway Disease in Children With the Omicron (B.1.1.529) Variant of SARS-CoV-2-A Report From the US National COVID Cohort Collaborative 
JAMA Pediatr . 2022 Apr 15;e221110.
 
 SARS-CoV-2の変異株B.1.1.529系統(オミクロン株)は、下気道で有効に増殖できないため、デルタ株より重症度が低いとされる。本研究では、米国のNational COVID Collaborative (N3C)のデータを用いて、18歳以下の小児を対象として、上気道感染と診断されたCOVID-19症例の解析を行った。オミクロン株の流行前後を比較した。
 
 2022年2月17日時点で、18,849名の小児の入院症例が登録されていた。うち、384例(2.0%)が上気道感染と診断されていた。81例(21%)が重症であった。オミクロン株流行期に、SARS-CoV-2陽性の上気道感染症例は増加した(1.5% vs. 4.1%)。UAIと診断された小児は、オミクロン株流行期には、より低年齢で、ヒスパニック系・ラテン系の人種が多かった。デキサメタゾン投与例は少なく、重症化する割合も低かった。複雑な慢性基礎疾患を有している症例の割合は、有意差がなかった(36% vs. 22%)。
 
 SARS-CoV-2陽性の上気道感染は、オミクロン株流行期に増加した。しかし、オミクロン株による重症化率は低い傾向にあった。
 
 
オミクロン前
オミクロン後
上気道感染で入院する割合(%)
206/14,473
(0.2%)
178/4376
(4.1%)
<.001
女児(%)
38.3%
29.8%
.72
平均年齢(SD)
4.4 (4.5)
2.1 (2.1)
<.001
36.4%
21.9%
<.001
抗菌薬
38.8%
<11%
<.001
中等症
63.6%
96.6%
<.001
重症
38.8%
<11%
<.001

 

 

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