小児感染症科医のお勉強ノート

群馬県立小児医療センターで感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

BCG接種後のリンパ節炎の治療(システマティックレビュー)

 BCG接種後、2−3ヶ月ほど経過して、接種した側の脇の下のリンパ節が腫れたと言って、受診される親子がいます。BCGの菌が、リンパ節に入り、免疫反応が起きて腫れるリンパ節炎です。
 普通は、痛くもないし、熱も出ないので、しばらく様子を見ていると小さくなります。大体半年位かかりますとお話して、外来で時々様子を見させてもらいます。
 なかなか小さくならない、または、どんどん大きくなる、自壊して膿が出てくるような例では、抗結核薬であるイソニアジドやリファンピシンを使って治療を行います。
 しかし、BCGリンパ節炎の治療に決まった型はなく、臨床医により治療方法が異なります。
 今回紹介するのは、BCGリンパ節炎の治療について、まとめたシステマティックレビューです。抗菌薬はあまり効果がなさそう…ということを知って、ホンマかいなと思いますが、これからの方針を迷ってしまいます。
 注意すべきは、レビューに日本の症例が含まれておらず、日本で使用するBCGの菌株で、管針法による接種で、定期接種の時期に接種した場合については、十分なエビデンスとは言えません。
 
要点です。
非化膿性リンパ節炎では、改善を有意に早めたり、化膿性リンパ節炎への進展を有意に予防する抗菌薬はない→経過観察が合理的なアプローチ
化膿性リンパ節炎では、穿刺吸引が改善を早めたり、自壊・瘻孔形成を予防する可能性がある。排膿が続く場合には、外科的手術が良い。外科的手術にイソニアジドを追加しても、術後の回復には影響がなかった。→穿刺吸引は検討するべき・排膿が持続すれば外科的切除が良い・抗菌薬の追加はあまり意味がない
 
 
Management of Bacille Calmette-Guérin Lymphadenitis and Abscess in Immunocompetent Children A Systematic Review
Pediatr Infect Dis J. 2021;40:1037-45.
 
背景:
 BCGワクチン接種後の副反応に対する治療には十分なコンセンサスがない。本研究では、免疫正常者を対象として、BCG後のリンパ節炎、接種部位膿瘍のマネジメントにかんするレビューを行った。
 
方法:
 PubMedなどのデータベースを検索した。BCG皮内注射による合併症のマネジメントを比較したRCTとコホート研究を抽出した。
 
結果:
 1338本の論文のうち、6本のRCT、4本の前方視的コホート研究、4本の後方視的コホート研究がレビューの対象となった。1022名の小児のBCG関連リンパ節炎の患者が含まれた。非化膿性リンパ節炎では、どの抗菌薬も、改善までの時間や化膿性リンパ節炎への進展を有意に予防できなかった。化膿性リンパ節炎では、穿刺吸引が改善までの時間や瘻孔形成を予防するというエビデンスがいくつかあった。外科的切除(多くは改善しない化膿性リンパ節炎が対象であるが)は、良好な結果が得られた。2つのコホート研究で、BCG接種部位膿瘍の検討を行った。一つの研究では、抗菌薬治療による効果の差は認めず、もう一つの研究でも抗菌薬無しで改善していた。
 
結論:
 免疫正常者において、BCGワクチンによる局所反応のマネジメントに、抗菌薬が有効であるというエビデンスは得られなかった。穿刺吸引は、化膿性リンパ節炎では改善までの時間を短縮する可能性がある。しかし、研究は限られており、症例定義も不明瞭な点がある。
 
非化膿性リンパ節炎のマネジメント
薬剤
効果
イソニアジド
治癒率 39−62%
コントロール 群 53-67%
 
化膿性リンパ節炎のマネジメント
薬剤
効果
イソニアジド(一部の症例でリファンピシン併用)
7例中
2例が治癒
5例が6ヶ月以上改善せず(瘻孔形成、瘢痕、ケロイド、潰瘍)
穿刺吸引
43例中
3例が自壊または瘻孔形成
(コントロール群は15/34例で自壊または瘻孔形成)
穿刺には21Gまたは22Gの針が良い
外科的手術
外科手術を選択した全例で術後の排膿なし
術後にイソニアジド(3ヶ月)を追加した症例も全例が治癒
 
接種部位膿瘍
エリスロマイシンとイソニアジド1ヶ月で治癒に差がない
 

アルボウイルス、例外はどれ?

 アルボウイルスとは、節足動物媒介ウイルス arthropodborne viruses のことで、100種類以上のウイルスがヒトに感染することが知られています。

 節足動物とは、蚊などのことです。アルボウイルスは、蚊、ダニ、サシチョウバエ、ヌカカなどがヒトを刺すことでヒトに感染します。

 代表的なウイルスは、チクングニア、デング、ジカ、東部ウマ脳炎日本脳炎、ダニ媒介脳炎、黄熱などがあります。(感染症に興味がないと、日本脳炎以外は、あまり聞いたことがないかもしれません。)
 
 病型としては、以下の3種類があります。
・全身性発熱性疾患:チクングニア熱など
・神経浸潤性疾患:ウエストナイル熱、日本脳炎など
・出血熱:デング出血熱、黄熱など
 
 ウイルスは、もともと自然界の鳥類・小型哺乳類を宿主としています。宿主から、節足動物を介してヒトに感染します。(ヒトは偶然に感染する行き止まりの宿主になります。)
 例えば、日本脳炎ウイルスは、ブタが宿主です。ブタが、蚊に刺されて、その蚊がヒトを刺す事により、ヒトが感染します。日本脳炎ウイルスに感染したヒトを蚊が刺しても、次のヒトに感染することはありません。
 しかし、例外はあります。デング、黄熱、チクングニア、ジカウイルスです。これは感染したヒト→節足動物→ヒトのサイクルがあります。そのため、これらの患者を看護するヒトは、同じ部屋で蚊に刺されないよう注意する必要があります。

アフガン難民の子供の感染症チェックしてくださいって言われたら…

 アフガニスタンから出国したスタッフが日本に到着されました。アフガニスタン人の殆どは、現地でずっと過ごしてきているので、感染症のチェックは重要になります。日本では非常に珍しい感染症の場合、診断も難しいと思います。

 

www3.nhk.or.jp

 
 もし、「アフガニスタンから到着した子供の感染症チェックをお願いします!」という(群馬では)ほぼありえないコンサルトを受けたときにチェックする項目をまとめました。Redbookの記載に準拠しましたので、日本でできる検査と少し異なります。
 
国際間養子・難民・移民の到着時の感染症スクリーニングについて
 
 ・A型肝炎IgM抗体、IgG抗体を考慮する
 ・養子を受け入れる家族は2週間以上前にA型肝炎ワクチンを接種しておくのが理想的
 
 ・HBs抗原必須
 ・HBs抗体とHBc抗体を同時に確認する専門家もいる
 ・HBs抗原が陽性の場合、急性感染か慢性感染かを区別する。IgM-anti-HBc陰性か6ヶ月以上HBs抗原陽性なら、慢性HBV感染を示唆
 
 ・有病率の高い国から来ているかなど、リスク因子を考慮する
 ・すべての国際間養子はHCVの検査を推奨
 ・難民と移民は、リスク因子に応じて対応する
 ・スクリーニングする場合には、18ヶ月以上ならHCV抗体を行い、陽性ならHCV-RNAを確認。18ヶ月未満では、定量RNA検査。
 ・リスク因子とは、母親がHCV陽性、外科手術歴、輸血歴、大きな歯科手術、静注薬物使用、入れ墨、性的活動・虐待、女性割礼、伝統的な皮膚切開などである。
 
腸管病原体
 ・寄生虫虫卵・虫体検査(便1−3回)
 ・GiardiaとCryptosporidiumの抗体検査
 ・アルベンダゾールによる治療を行ってしまう専門家もいる
 ・一般細菌については、検査は必要ないが、到着後に血性下痢を発症した場合には、サルモネラ赤痢、キャンピロバクター大腸菌O157などを検索する。
 
好酸球増多症
 ・血算を確認する
 ・便の虫卵・虫体検査が陰性で、好酸球増多症を認める場合、組織寄生虫症を考える
 ・トキソカラ(犬回虫)、線虫症、住血吸虫症、リンパ性フィラリアの血清診断を考慮
 
梅毒
 ・トレポネーマ試験と非トレポネーマ試験を実施する
 ・どちらかが陽性の場合、梅毒と確定できない。鑑別として、風土病性梅毒、ピンタ(pinta)、イチゴ腫(yaws)を考える。
 
 ・全例に、胸部レントゲン撮影を行う
 ・2−14歳では、ツベルクリン反応またはIGRAを実施する
 ・2歳未満ではリスク因子に応じてスクリーニングを検討する
 
 ・すべての国際間養子に対して、HIVのスクリーニングを行うべき
 ・難民や移民では、必要とされていないが、結核と診断されている場合には、HIVのスクリーニングが推奨。
 
 ・南米のシャーガス病が流行している地域から来た小児、またはそれらの国で輸血を受けたことがある小児は、Trypanosoma cruziの検査を考慮する。血清検査は12ヶ月以上の小児が対象。
 
麻しん
 ・既往歴があるか、ワクチン接種歴があるかを明確にする。
 ・既往歴・接種記録がはっきりしない場合、禁忌がなければ2回ワクチンを追加。
 
 
ということで、アフガニスタンからの難民の方の感染症チェックをする場合、私ならこのようなスクリーニングを提案するかと考えます。
・血算(好酸球)・一般的な生化学検査
A型肝炎IgM、IgG
・HBs抗原
HCV抗体(年齢とリスク次第)
・トレポネーマ試験(TPHA)、非トレポネーマ試験(RPR)
HIVスクリーニング
・胸部レントゲン、年齢によりツ反かIGRA
・便の虫卵・虫体検査(1−3回)
Giardia抗体検査とCryptosporidium(日本では集オーシストして染色)
・麻疹の既往歴・ワクチン歴確認(IgG抗体も出すかな)
・(入国時にされていると思いますが)SARS-CoV-2 PCR
 
 
 
 

細胞内寄生菌のまとめ

 細胞内寄生菌は、人間に感染すると、人間の細胞内に寄生して、免疫応答から逃れようとします。そのため、これらの菌に対する防御には、細胞性免疫が重要です。

 細胞内寄生する菌についてまとめました。

(資料によりobligateかfaculativeが違うものもあったので、大目に見てください。)

 

偏性細胞内寄生体(obligate intracellular organisms)
クラミジア Chlamydia spp.
・らい菌 Mycobacterium leprae
・コクシエラ Coxiella burnetii
・リケッチア Rickettsia spp.
・エーリキア Ehrlichia spp.
・アナプラズマ Anaplasma spp.
・ニューモシスチス Pneumocystis jirovecii
・ウイルス全部
 
通性細胞内寄生体(faculative intracellular organisms)
・リステリア Listeria monocytogenes
・レジオネラ Legionella pneumophila
結核菌・他の抗酸菌 Mycobacterium tuberculosis and other species
サルモネラ Salmonella Typhi and other species
・ナイセリア Neisseria spp.
・バルトネラ Bartonella henselae
・ノカルジア Nocardia spp.
・ロドコッカス Rhodococcus equi
赤痢菌 Shigella spp.
大腸菌の一部 Escherichia coli
ペスト菌 Yersinia pestis
・野兎病 Francisella tularensis
・ヒストプラズマ Histoplasma capsulatum
・クリプトコッカス Cryptococcus neoformans
トキソプラズマ Toxoplasma gondii
マラリア原虫 Plasmodium spp.

小児は無症候性にClostridioides difficileを保菌する

 Clostridioides difficileは、偽膜性腸炎CDIの原因となる細菌です。抗菌薬を投与すると、腸管内細菌叢が乱され、毒素を産生するC. difficileが腸管内に増加します。その結果、下痢・発熱・イレウスなどの症状を起こし、重症な例では、腸管穿孔やショックとなります。
 日本では、重篤な偽膜性腸炎を経験することはまですが、それでも成人ではそれなりに遭遇することはあります。
 一方、小児では、C. difficileが産生する毒素の受容体が腸管内にほとんど発現していません。そのため、偽膜性腸炎はまれです。不思議なことに、腸管内に毒素を産生するC. difficileがいるのに、全く無症状なこともあります。
 今日、紹介するのは、無症候性(下痢のない)の小児で、C. difficileが腸管内にどのくらい検出されるかのまとめです。年齢によって、保菌率の傾向があり、6−12ヶ月をピークに、年齢を重ねるごとに、保菌率は低下します。地域差があるのも興味深いところです。
 
要点
・6−12ヶ月の乳児が、保菌率が最も高く(41%)、毒素産生株も14%に保菌している。
・ヨーロッパや西太平洋の小児で検出率が高い。
 
Prevalence of Detection of Clostridioides difficile Among Asymptomatic Children A Systematic Review and Meta-analysis
JAMA Pediatr. 2021;175:e212328
 
はじめに
Clostridioides difficileが、無症状の乳幼児や小児から頻繁に検出されることが報告されているが、年齢による正確な検出率は明らかではない。本研究では、年齢層の異なる無症候性小児において、C. difficileの検出率を評価することを目的とした。
 
方法
 本研究では、1990年1月1日から2020年12月31日までに発表された論文をMEDLINEなどのデータベースを用いて検索した。2名の研究者が独立して論文をスクリーニングした。18歳未満の無症候性小児(下痢をしていない小児)を対象としたC. difficile検査を報告した研究を対象とした。主要評価項目は、無症候性小児における C. difficile 検出率とした。副次評価項目は、C. difficile 毒素原性株と非毒素原性株の有病率、地理的背景、所得、検査方法、検査年によって層別化された C. difficile 検出率であった。
 
結果
 合計95の研究、19186人の参加者が対象となった。毒素原性または非毒素原性C. difficileの検出率は、6−12カ月齢の乳児で最も高く41%(95%CI:32%~50%)、5-18歳では12%(95%CI、7%~18%)に低下した。毒素原性C. difficile検出率は、生後6-12カ月の乳児で14%(95%CI、8-21%)と最も高く、5歳以上の小児では6%(95%CI、2-11%)に低下した。有病率は地域によって異なった。北米南米が低く、ヨーロッパ、西太平洋地域で高い傾向にあった。検査方法による検出率の違いは認めなかった。所得階級、期間による検出率の違いはなかった。
 
結論
 本研究では、小児のC difficile菌コロニー化率は生後6~12カ月で最大となり、その後は減少した。これらの推定値は、幼児のC difficile検査結果を解釈する際の参考になるかもしれない。
 
年齢
C. difficileの
検出率
毒素原性
C. difficileの
検出率
1週未満
15%
5%
1週以上−1ヶ月未満
20%
6%
1ヶ月−3ヶ月未満
27%
3%
3ヶ月−6ヶ月未満
36%
11%
6ヶ月−1歳未満
41%
14%
1歳−2歳未満
22%
13%
2歳−5歳未満
17%
8%
5歳−18歳未満
12%
6%
 
本文中の表を参考に作成

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