小児感染症科医のお勉強ノート

小児感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

尿所見のある乳児期早期発熱に髄液検査は必要か?

 生後3ヶ月未満の発熱は、小児科的emergencyですが、特にワクチン未接種の生後2ヶ月未満は、「細菌性髄膜炎は大丈夫かな?」とより注意深くなります。

 とはいえ、この年齢層であっても、細菌性髄膜炎の頻度は低く、普通のウイルス感染、尿路感染症の方が熱源としてはるかに一般的です。髄液検査を全例に実施するのは、やはり非効率的で、試行錯誤します。

 今回の論文は「尿所見のある生後29−60日の発熱は、髄液検査をしなくてよいか?」を解析した研究です。

 

要点

・生後29−60日の見た目がぐったりしていない早期乳児発熱で、尿検査が陽性でも、細菌性髄膜炎の頻度は下がらない。つまり、尿検査の結果だけで、髄液検査の有無を決めてはいけない。

 

Prevalence of Bacterial Meningitis Among Febrile Infants Aged 29-60 Days With Positive Urinalysis Results
A Systematic Review and Meta-analysis
JAMA Netw Open. 2021;4:e214544.
 
はじめに
 乳児期早期発熱は、一般的な小児科疾患の1つである。尿路感染症が、最も頻度の高い細菌感染症である。公表されている乳児期早期発熱に関するガイドラインやQuality Initiativesでは、細菌性髄膜炎を除外するために、尿検査結果が陽性の場合でも腰椎穿刺(LP)を行うことが推奨されている。28日以上の児で尿検査に異常がある場合、LPを行うかどうかは議論の余地がある。尿検査結果が陽性の生後29-60日目の発熱児における細菌性髄膜炎の有病率を評価し、LPがルーチンに必要かどうかを検討する。
 
方法
 MEDLINEおよびEmbaseを用いて、2000年1月1日から2018年7月25日までに発表された論文を検索した。尿検査の結果と髄膜炎の状態について患者レベルのデータが確認できた生後29−60日の健康な満期産児の発熱について報告した研究を対象とした。データは、PRISMA(Preferred Reporting Items for Systematic Reviews and Meta-analyses)ガイドラインに基づいて抽出し、Newcastle-Ottawa Scaleを用いてバイアスを評価した。プールされた有病率とオッズ比(OR)は、ランダム効果モデルを用いて推定した。 主要評価項目は,尿検査結果が陽性の乳児における細菌性髄膜炎の有病率(髄液培養で確定診断)とした。副次的評価項目は、病歴または髄液検査により診断された細菌性髄膜炎の有病率とした。
 
結果
 48 件の研究を解析対象とした(17 のデータセット、25374 名の乳児)。培養で診断確定された髄膜炎の有病率は、尿検査陽性の乳児2703例中0.44%(95%CI; 0.25−0.78%)、尿検査陰性の乳児10032例中0.50%(95%CI; 0.33−0.76%)であった(OR 0.74、95%CI; 0.39~1.38)。病歴または髄液検査により診断された細菌性髄膜炎の有病率は、尿検査陽性の乳児4737例中0.25%(95%CI; 0.14%-0.45%)、尿検査陰性の乳児20 637例中0.28%(95%CI; 0.21%-0.36%)であった。(OR, 0.89, 95%CI; 0.48-1.68)。
 
結論
 今回のシステマティックレビューとメタアナリシスでは、尿検査結果が陽性であった生後29-60日目のぐったりしていない乳児期早期発熱における細菌性髄膜炎の有病率は0.25-0.44%であり、尿検査の結果による有病率の差はなかった。これらの乳児に対しては、尿検査の結果だけでLPするかどうかを決めるべきではないことが示唆された。
 
 

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髄液培養で診断確定した細菌性髄膜炎罹患率
 

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培養または臨床経過から診断確定した細菌性髄膜炎罹患率
 

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小児におけるセフトリアキソンの副作用

 セフトリアキソンは、第3世代セファロスポリンとうカテゴリーの抗菌薬です。市中肺炎、尿路感染、髄膜炎など、幅広い感染症に使用できる抗菌薬で、かつ1日1回投与で済むので、感染症診療には非常に重要な薬剤です。

 一方、新生児では核黄疸のリスクになるため、使用が禁忌です。小児科では、セフォタキシムのほうが好んで使われます。夜間や早朝の投与がなくなるだけで、入院中のお子さんと付き添いの保護者のQOLが上昇すると思います。

 しかし、セフトリアキソンには特有の副作用があり、まとめて知っておく必要があるので、まとめました。

 

要点

・胃腸症状(下痢)の頻度は高い (37%)、ついで、胆肝膵の障害 (24%)が多い。

重篤な副作用は、胆道偽胆石症 (biliary pseudolithiasis)と溶血性貧血。

・溶血性貧血は、鎌状赤血球症では致死的になることがある。

 

Safety of ceftriaxone in paediatrics: a systematic review
Arch Dis Child. 2020;105:981
 
目的
 小児におけるセフトリアキソンの安全性を明らかにし、薬物有害反応(ADR)のカテゴリーと発生率を系統的に評価すること。
 
方法
 2018年12月までに発行されたMedline、PubMed、Cochrane Central Register of Controlled Trials、EMBASE、CINAHL、International Pharmaceutical Abstractsおよび関連する論文で、18歳以下の小児においてセフトリアキソンの安全性を評価したあらゆる種類の研究を対象に、系統的レビューを行った。
 
結果
 セフトリアキソン投与を受けた5717人の小児を対象とした112件の研究が組み入れ基準を満たした。1136件のADRが報告された。前方視的研究で報告されたADRで最も多かったのは胃腸(GI)症状(37.4%、292/780件)、次いで肝胆膵障害(24.6%、192/780件)であった。また、86例で、セフトリアキソンの休薬・中止に至る重篤ADRが報告された。主な理由は、溶血性貧血(34.9%、30/86例)と胆道偽結石(26.7%、23/86例)でした。セフトリアキソン静注後の溶血性貧血は、原疾患が鎌状赤血球症であった11名が死亡した。ほとんどの胆道偽結石は可逆的である。しかし、発生率は高く、小児の5人に1人(20.7%)が発症した。
 
結論
 小児においてセフトリアキソンの使用により、胃腸症状のADRが最も多くみられた。溶血性貧血と胆道偽結石症は最も重篤ADRであり、セフトリアキソンを中止する主な理由となっている。溶血性貧血は鎌状赤血球症で起こりやすく、死亡例もある。
 

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鹿肉でトキソプラズマ症のアウトブレイク!

 トキソプラズマ症は、原虫のToxoplasma gondiiによって引き起こされる感染症です。感染しても無症状のことも多いのですが、発症した場合には、発熱、倦怠感、頭痛、リンパ節腫脹などの症状が見られます(EBウイルス陰性の伝染性単核球症でも疑います)。脈絡網膜炎(眼トキソプラズマ症)が特徴的な症状として知られております。HIV感染者などの免疫不全者では、トキソプラズマ脳炎などの重篤な疾患を引き起こすことがあります。
 
 小児科で重要な知識としては、妊娠中に感染すると、胎児に垂直感染することがあります(TORCH症候群の”T”です)。胎内感染すると、水頭症、視力障害(脈絡網膜炎)、脳内石灰化、精神運動発達遅滞などの後遺症が認められます。
 ネコ科の動物が固有宿主で、ヒトへ感染する経路は、ネコ科の動物の便中に排泄されたオーシスト(土、水、食物を汚染する)を経口摂取したり、シストが寄生した生肉・加熱不十分な肉を摂取することによる。(妊婦さんは、猫の世話、庭いじり、生肉の接種は避けましょう。)
 
 今回の報告は、加熱不十分の鹿肉(venison)を摂取し、珍しいgenotypeのトキソプラズマアウトブレイクしたアメリカからの報告です。鹿肉って、venisonっていうんですね。なんかかっこいいです。
 ジビエブームですが、しっかり加熱しないと、感染のリスクがあります。
 
Toxoplasmosis Outbreak Associated With Toxoplasma gondii-Contaminated Venison—High Attack Rate, Unusual Clinical Presentation, and Atypical Genotype
Clin Infect Dis. 2021; 72:1557-65.
 
背景
 2017年、ウィスコンシン州でリトリートの参加者に発熱患者が相次いでいることが医師から報告された。参加者は、地元で収穫され、冷凍処理されていない、加熱不十分な鹿肉を摂取していた。ウィスコンシン州保健サービス局公衆衛生部門は、調査を開始し、暫定的にトキソプラズマ症と特定された。
 
方法
 フランスとアメリカの国立研究所で、Toxoplasma gondiiを確認し、種類を分類するために、患者血清と鹿肉の検査を実施した。12人のリトリートの参加者全員に問診を行い、カルテ記録を確認した。
 
結果
 参加者は全員男性で、年齢中央値は51歳(範囲:22-75歳)だった。7日間(中央値)の潜伏期間の後、11人の摂取者のうち9人(82%)が12日間(中央値)続く体調不良を経験した。9人全員が、外来受診した。発熱、悪寒、発汗、頭痛などの症状は全員に認められ、眼症状は33%に認めた。本症はトキソプラズマ症であり、感染源は鹿肉であることが確認された。検査結果は、トランスアミナーゼ上昇(86%)、リンパ球減少症(88%)、血小板減少症(38%)、白血球減少症(63%)など、トキソプラズマ症としては非典型的なものが複数見られた。摂取したが無症状の1名は血清陰性で、もう1名は以前の感染で抗体を持っていた。このT. gondiiの株は,北米の野生動物によく見られる非典型的な遺伝子型と密接に関連していることが確認されたが、ヒトの臨床症状はこれまではっきりしなかった。
 
結論
 鹿肉に混入していたT. gondiiの株が、今回の特徴的な臨床症状を説明している可能性がある。北米において、加熱不十分な狩猟肉を摂取した後に、重篤でまれな急性トキソプラズマ症の症状が現れる危険性がある。
 
 
蛇足ですが、トキソプラズマ症の治療は、妊婦はアセチルスピラマイシンを使用します。胎児感染が判明したら、ピリメタミン+スルファジアジン+ロイコボリンを使用します。感染した児の出生後の治療も、基本はこの3剤になります。
 

培養陰性の肺炎でde-escalationしても予後は悪化しない(むしろ良い)

 肺炎の患者さんの治療は、経験的治療を行うのですが、多剤耐性菌による肺炎を起こしやすい背景(入院歴、保菌歴、免疫不全など)があると、初期から広域の抗菌薬を使います。しかし、喀痰から有意な菌が検出されない時、患者さんが良くなったら、「広域抗菌薬だから良くなったんだ」という意見と、「そもそも広域抗菌薬でなくても良くなった」という意見が対立します。
 なかなか、根拠のないde-escalationが難しい領域になります。今回、紹介する論文は、成人の肺炎において、初期にMRSA緑膿菌をカバーした症例において、値懲戒し4日目までにde-escalationした場合の予後についてです。
 
要点
・成人の培養陰性肺炎で、治療開始4日目までにMRSA緑膿菌カバーを外しても、死亡率は上昇しない。
・むしろ、ICU入室とコストは減り、入院期間は短くなる。
・ただし、病院によりde-escalation率は大きく異なる。
 
De-escalation of Empiric Antibiotics Following Negative Cultures in Hospitalized Patients With Pneumonia: Rates and Outcomes
Clin Infect Dis. 2021;72:1314.
 
背景
I DSA/ATSのガイドラインでは、多剤耐性菌のリスクがある患者の肺炎に対して、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌MRSA)と緑膿菌に対する経験的治療を推奨している。培養結果が陰性の場合、ガイドラインでは抗菌薬のde-escalationを推奨している。培養が陰性の肺炎入院患者を対象に、病院ごとの抗菌薬のde-escalationの実施状況と、転帰との関連を評価した。
 
方法
 2010-2015年に米国の164病院に肺炎で入院した成人(18歳以上)のうち、血液培養/呼吸器検体の培養が陰性で、キノロン系以外の抗MRSA薬と抗緑膿菌薬の両方を投与された患者を対象とした。De-escalationは、4日目に両方の経験的治療薬を中止し、他の抗菌薬を継続することと定義した。傾向スコアマッチングを用いて、de-escalationによる、院内14日死亡率、治療後悪化(ICUへの入室)、在院日数(LOS)、費用について比較した。また、病院ごとのde-escalation率と、治療結果を比較した。
 
結果
 14,170人の患者のうち、1,924人(13%)は入院4日目までに経験的治療薬を両方とも中止した。病院ごとのde-escalation率は2-35%であり、病院のde-escalation率は、転帰と有意に関連していなかった。De-escalationが多い上位4分の1の病院でも、死亡リスクが最も低い患者のDe-escalation率は50%未満であった。傾向スコア分析では、de-escalationを行った患者は、その後のICUへの転室(aOR 0.38; 95%CI, 0.18-0.79), LOS (adjusted ratio of means, 0.76;0.75-0.78)、費用 (0.74; 0.72-0.76)が低かった。
 
結論
 今回、検討した肺炎患者のうち、培養陰性で4日目までに経験的治療薬を中止したのは少数で、de-escalation率は病院によって大きく異なっていた。ガイドラインを遵守するためには、診療の大幅な変更が必要である。
 
 

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川崎病で腫脹したリンパ節の中では何が起きているのか?

 川崎病(KD)は、発熱や眼球結膜充血などの特徴的な症状を呈する疾患です。頸部リンパ節腫脹を認める頻度が高く、診断基準の1項目になります。リンパ節腫脹と発熱のみしか症状がない川崎病は、化膿性リンパ節炎との鑑別が難しいことがあります。
 KDと診断されれば、リンパ節腫脹があっても、生検などの病理学的な検査はしないことがほとんどなので、あまりKDのリンパ節腫脹の病理学的な検討はありません。今回は、33例の川崎病のリンパ節の病理学的変化のまとめです。
 
要点
・頸部LNの5/23例で、虚血性変化に起因すると考えられる壊死を認めた。
 壊死を認めたLNでは、少血管内のフィブリン血栓や核の破砕を認めたが、膿瘍や肉芽腫は認めなかった。
・壊死を認めないLNでは、傍皮質帯の拡大やリンパ洞の拡張が見られた。リンパ洞には、単球やマクロファージが目立った。
・頸部LN以外のリンパ節では、壊死が認められることはまれで、非特異的な炎症性変化を認めた。
 
Histopathological study of lymph node lesions in the acute phase of Kawasaki disease
Y Yokouchi, et al. Histopathology. 2013;62(3):387-96.
 
目的:急性の川崎病(KD)における頸部LNの病理組織学的特徴を検討し、頸部外LNの変化を明らかにすることを目的とする。
 
方法と結果:
 急性期のKD患者33名の検体を研究の対象とした。LNを頸部(n=23)とそれ以外(n=26)に分け、組織学的に検討した。頸部だけでなく、全身のLNにも組織学的変化が見られた。リンパ節腫脹の多くはリンパ洞拡大や傍皮質帯拡大による非特異的なものであるが、一部のLNでは虚血性変化に起因すると推測される大小の壊死病変も認められた。壊死病巣は被膜の直下から出現し、小血管内のフィブリン血栓や血管周囲の核の破砕を伴っていた。特に頸部LNが壊死した場合、LNの被膜や周囲の結合組織に高度の非化膿性の炎症が生じる。
 
結論:
 壊死を伴うリンパ節腫脹に加えて、LN被膜や⁄周囲の結合組織に単球⁄マクロファージを主体とした非化膿性炎症が認められれば、KDを疑うべきである。
 
追加
 33例中10例が、剖検例です。通常のKDよりも、重篤な冠動脈病変を合併した重症例が多いことが示唆されます。リンパ節の壊死性変化をきたした症例は頸部リンパ節の検体の5/23例でした。5例中2例は剖検例です。膿瘍形成や肉芽腫形成が見られた症例はありませんでした。
 壊死が見られないリンパ節では、傍皮質帯の拡大やリンパ洞の拡張が見られた。リンパ洞には、単球やマクロファージが目立った。小血管の軽度の増殖を認めフィブリン血栓や核の破砕は認めなかった。
 頸部LN以外のLNを検討した26例で、1例のみ壊死(気管分岐部のリンパ節)が見られた。他は、非特異的な変化を来たし、リンパ洞拡張と、傍皮質帯の拡大を認めた。リンパ洞内には、マクロファージが多数見られた。小血管のフィブリン血栓は認めなかった。10例でLNの周囲組織に血管炎の所見を認めた。

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リンパ節に壊死が認められる(矢印)