小児感染症科医のお勉強ノート

小児感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

期待が持てるデング熱ワクチン

 デング熱は、年間3億9000万人が感染し、50万人が入院する、熱帯地域に多い疾患です。デングウイルスが原因ですが、蚊が媒介して、人に感染します。デングウイルスは4つの血清型(DEN-1〜DENV-4)があり、異なる血清型に複数回感染することがあります。1回目の感染より、2回目に感染した時が、強い免疫反応が生じて重篤することが知られています。予防は、蚊に刺されないことしかありません。
 2015年にCYD-TDVというワクチンが認可されましたが、デング熱罹患歴がない人(デングウイルスの抗体陰性者)に接種をすると、デング熱に罹患した時に重症化しやすい事がわかりました。また、罹患歴がある人(抗体陽性者)に接種すると、そのような現象は見られず、有効性が確認されました。
 そのため、現在は、CYD-TDVは、9−45歳のデング熱流行地域に居住している人のうち、デングウイルス抗体が陽性の人にのみ接種が推奨されます(WHO)。
 
 今回、紹介するのは、新たなデング熱ワクチンです。武田薬品アメリカのCDCが開発した弱毒生ワクチンです。DENV-2をベースとしていますが、4種類のウイルスのバックボーンをすべて有しているウイルスになります。
→つまりこれで2回目に感染した時に、強い免疫反応が起きることを抑制します。
 8カ国(フィリピン、スリランカ、タイ、ブラジル、コロンビア、ドミニカ共和国ニカラグアパナマ)で実施された臨床試験の接種後2年目までの長期的な効果が報告されました。患者数が多い疾患であるだけに、インパクトの大きい研究だと思います。
 
 本日、EUでの承認申請が開始されたようです。
 
要点
デング熱ワクチン(TAK-003)は、初回接種から27ヶ月までで、有効率は72.7%であった。
・2年目になると有効率が低下(56.2%)したが、年齢や血清型による違いがあった。
・更に有効性が持続するかに関しては、フォローが必要である。
 
Efficacy of a dengue vaccine candidate (TAK-003) in healthy children and adolescents two years after vaccination
J Infect Dis. 2020 Dec 15;jiaa761.
 
背景:
 武田薬品デング熱ワクチンは、現在進行中の第3相有効性試験で評価されている。試験開始2年後の最新情報を報告する。
 
方法:
 20,099名の小児(4−16歳)を対象に、TAK-003(デング熱ワクチン)またはプラセボを3ヶ月間隔で2回投与する群に無作為に割り付け、RT-PCR法によりデング熱を検出するために、長期間の発熱サーベイランスを実施している。(NCT02747927)
 
結果:
 初回接種から27カ月までのデング熱に対する累積有効率 (vaccine efficacy)は72.7%(95%CI:67.1-77.3)であった。デング熱未感染者に対する有効率は67.0%(95%CI:53.6~76.5)、入院が必要なデング熱に対する有効率は89.2%(82.4-93.3)であった。接種後2年目には有効性の低下が認められた[56.2%(42.3~66.8)]。4~5歳児での有効性の低下が最も大きく[24.5%(-34.2~57.5)],6~11歳児では60.6%(43.8~72.4),12~16歳児では71.2%(41.0~85.9)であった。TAK-003の有効性は血清型によって異なるため、流行する血清型の変化により、年ごとの解析における有効性の変化に一部寄与していた。なお、2年目には関連する重篤な有害事象は発生しなかった。
 
結論:
 接種前にデング熱に罹患歴があるかに関わらず、TAK-003 はデング熱の予防効果を継続して示したが、2 年目には若干の有効性の低下が見られた。有効性が安定したままか、さらに低下するかは、3年間のデータを確認することが重要である。
 

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下気道症状がない肺炎(occult pneumonia)について

 明らかな下気道症状がない肺炎を、occult pneumoniaと言います。不明熱と紹介されて、肺炎が見つかることもあります。このoccult penumoniaをどのような状況で疑うのか、なかなか難しいですが、遷延する発熱(特に5日以上)、咳嗽(特に10日以上)、WBC高値はヒントになる可能性があります。
 咳嗽が全く無い肺炎(OP)は、まれです。(OPの46例中2例のみ)
 
Clinical predictors of occult pneumonia in the febrile child
Acad Emerg Med. 2007;14:243
 
背景
 小児の下気道症状がない肺炎(潜在性性肺炎, occult pneumonia: OP)を検出するために、胸部レントゲン(CXR)が有用であるという研究はあるが、OPの予測因子として白血球数(WBC)と発熱以外については検討されていない。
 
目的
 結合型肺炎球菌ワクチン導入後の小児のOPの予測因子を明らかにすること。
 
方法  
 本研究は、都市部の大規模な小児科病院(ボストン小児病院)で行われた後方視的横断研究である。発熱(38℃以上)を呈し救急外来を受診し、肺炎を疑いCXRを撮影した10歳以下の患者のカルテ記載を確認した。呼吸窮迫、頻呼吸、下気道症状の有無により、患者を「肺炎症状あり」と「肺炎症状なし」の2群に分類した。OPは、肺炎症状のない患者のCXRで肺炎を認めた症例と定義した。
 
結果
 2,112名の患者が対象となった。「肺炎症状なし」と分類された患者(n=1,084)のうち、5.3%(95%CI; 4.0~6.8%)にOPが認められた。「咳がある」と「咳の持続期間(10日以上)」の陽性尤度比(LR+)は、それぞれ1.24(95%CI; 1.15~1.33)と2.25(95%CI; 1.21~4.20)であった.咳がなかった場合の陰性尤度比は0.19(95%CI; 0.05~0.75)であった。発熱期間が長くなるほど、OPを認める可能性が高かった。(発熱期間が3日以上および5日以上の場合、LR+は1.62 (95%CI=1.13~2.31)および2.24 (95%CI=1.35~3.71))。 患者の56%にWBCを測定していたが、WBCが15,000/mm3以上および20,000/mm3以上の場合、LR+が1.76(95%CI; 1.40~2.22)および2.17(95%CI; 1.58~2.96)となり、OPの予測因子となった。
 
結論
 発熱があり、下気道所見、頻呼吸、呼吸窮迫がない患者の5.3%にOPが認められた。咳のない発熱の小児にCXRを撮ることの有用性は限られている。OPは、咳や発熱の期間が長い場合,白血球増加がある場合に、可能性が高くなる。
 
 
今回の研究では、患者の平均年齢は2-3歳です。
「肺炎症状あり」と「なし」の定義は以下になります。どちらも咳嗽や鼻汁・鼻閉などのいわゆる上気道症状はあっても良いのですが、呼吸窮迫、頻呼吸、低酸素血症、呼吸音の異常の全てがない患者が肺炎症状なしです。結構厳密な定義ですが、後方視的検討なので、カルテに記載がない場合には、無いとされてしまうというバイアスはあります。
肺炎症状なし 
肺炎症状あり
以下の全てを満たす
・呼吸窮迫の徴候(陥没呼吸、鼻翼呼吸、喘ぎ呼吸)がない
・頻呼吸がない
(呼吸数が、2歳以下は60以上、3−5歳は50以上、6−10歳は30以上)
・低酸素血症がない(室内気でSpO2>95%)
・身体所見で下気道感染を示唆しない
(喘鳴、ラ音、呼吸音低下、呼吸音の左右差なし)
左記以外の場合
 

 

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咳嗽が長いこと、発熱が長いこと、WBCが高いことが、OPの可能性を高めます。
また、咳嗽が無いとOPのLR-は0.19となります。咳嗽がなければ、OPの可能性がかなり低くなることが分かります。
 

腸間膜リンパ節炎のマネージメント

 小児科外来で、虫垂炎らしい右下腹部痛が来た時に、エコーで「虫垂腫大はありません。腸間膜リンパ節の腫大を認めます。」というレポートが返ってきて、少しがっかり(?)することがあります。診断は、「腸間膜リンパ節炎」ということになるのですが、あまり教科書にも記載がなく、マネージメントに悩みます。
 腸間膜リンパ節炎のまとめ記事があったので、まとめてみました。
ポイントは、リンパ節炎の背景になる原因疾患が無いかを十分に吟味することです。特に外科疾患の見落としがないように注意します。
 
Acute Nonspecific Mesenteric Lymphadenitis: More Than “No Need for Surgery”
Biomed Res Int. 2017;2017:9784565
急性非特異的腸間膜リンパ節炎のまとめ
 
要点
・急性非特異的腸間膜リンパ節炎は、腸間膜リンパ節の急性炎症で、自然治癒する。
・臨床症状が、急性虫垂炎や腸重積に類似する。
小児・若年成人に発症する。上気道炎後に発症することもある。
・超音波検査で診断する(短軸径が8mm以上の腸間膜リンパ節が3個以上認められる)。
・炎症の原因となる背景疾患がない
保存的治療のみで、2−4週間で回復する。
 
1. はじめに
 急性非特異的腸間膜リンパ節炎は、腸間膜リンパ節のself-limitedな炎症性疾患である。虫垂炎や腸重積症の重要な鑑別疾患である。腸間膜リンパ節炎の特徴は、画像診断の発達とともに明らかになってきたが、自然経過や適切な管理方法は確立していない。
 
2. 歴史
 過去には、若年者の腸間膜リンパ節腫脹は、結核の割合が高かった。次第に、非結核性の腸間膜リンパ節炎の存在が認識されてきたが、手術前に腸間膜リンパ節炎の確定診断を下すことは困難だったため、虫垂炎と混同されてきた(虫垂の炎症所見のない虫垂炎)。画像技術の発展に伴い、診断が増えている。
 
3. 分類と原因
 腸間膜リンパ節炎は、非特異的(または原発性)と二次性に分類する。
原発性:炎症の原因を特定できない(主に右側)リンパ節腫脹
・二次性:原因が特定できる腹腔内の炎症に伴うリンパ節腫脹
 
4. 臨床症状
 腸間膜リンパ節炎は、小児、若年成人に発症する。男性が女性よりわずかに多い。20歳以降はまれ。上気道疾患に続いて発生することがある。
症状は、
(i)38.0−38.5℃の発熱、嘔吐、下痢
(ii)激しい腹痛があるが、患者は落ち着いている。
 腹痛は、不快感から激しい疝痛まで様々。
臍周囲と右腸骨窩の両方に感じられる。
(iii) 圧痛の部位は右腸骨窩が中心であるが、しばしば心窩部に向かう高い位置に存在する。
 
この論文では、臨床的なtipsの記載があった。
虫垂炎より、痛みの程度は軽く、触診でも耐えることができる
・腸間膜リンパ節炎では圧痛がより深く感じられ、患者を左右に動かすと痛みの部位が移動する傾向がある。
反跳痛は、約4分の1の患者に認められるが、本当の板状硬は認められない
 
5. 検査
 腸間膜リンパ節炎の症状は、急性虫垂炎、腸重積症、便秘、炎症性腸疾患、メッケル憩室、卵巣捻転、肺底部の肺炎、IgA血管炎、尿路感染症などと臨床的に類似する。
 白血球数とCRPは軽度〜中等度に上昇していることが多い(他疾患の鑑別には有用ではない)。超音波検査で、低エコーの腫大した腸間膜リンパ節が多数認められる。原発性腸間膜リンパ節炎の画像的定義は、原因の特定できない「右下腹部および大動脈傍領域にある短軸径が5mm以上のリンパ節が3個以上認められる」ことである。近年は、「8mm以上に腫大したリンパ節を1個以上認める」という定義もある。

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6. 原発性と二次性の比較
 二次性腸間膜リンパ節炎の背景疾患は、虫垂炎、炎症性腸疾患、全身性エリテマトーデス、サルコイドーシス、慢性肉芽腫症などの全身性慢性炎症性疾患である。
 
表 二次性腸間膜リンパ節炎の原因疾患
 
急性
亜急性・慢性
感染性(ウイルス性胃腸炎、細菌性腸炎など)
人畜共通感染症(エルシニア、非チフスサルモネラ)
伝染性単核症(EBウイルストキソプラズマ、バルトネラ)
炎症性腸疾患
SLE
サルコイドーシス
悪性腫瘍
 
 
7. 治療方針と予後
 外科的介入が必要な病態を除外すること。
 診断が確定したら、水分管理とアセトアミノフェンや非ステロイド系抗炎症剤による鎮痛剤の投与などの支持療法が推奨される。後遺症なく回復する。急速な改善が得られない場合、本人と家族が不安に感じやすい。回復までの期間は、1~4週間(場合によってはそれ以上)と伝えるのが良い。

細菌性骨髄炎と非感染性骨髄炎

 小児の細菌性骨髄炎(BO)は、黄色ブドウ球菌が多く、四肢の長管骨に多いことが特徴的です。成人では、椎体炎が多いことと対照的です。
 急性の経過で、血液培養などから原因菌がすんなり判明するケースは問題ないのですが、緩徐な経過で発症するケースもあります。そのような場合、非典型的な原因菌(抗酸菌や真菌など)を疑ったりするのですが、非感染性骨髄炎・骨炎(NBO)や慢性再発性多発骨髄炎(CRMO)と呼ばれる感染症が原因ではない骨炎・骨髄炎を鑑別に挙げる必要があります。
 BOとNBOの両方を診たことがあると、なんとなく違いが分かると思うのですが、どちらかしか診たことがないと、見落とす可能性があります。BOとNBOの特徴の違いを調べたドイツからの研究です。
 
 
Bacterial Osteomyelitis or Nonbacterial Osteitis in Children A Study Involving the German Surveillance Unit for Rare Diseases in Childhood
Pediatr Infect Dis J. 2017;36:451
 
背景
 細菌性骨髄炎(BO)は、小児科領域では一般的に認識されている疾患であるが、非感染性骨髄炎・骨炎(NBO)との鑑別が困難な場合が多い。本研究の目的は,この2つの疾患を区別し,非感染性骨髄炎・骨炎(NBO)の特徴を明確にすることである。
 
方法は
 ドイツの小児稀少疾患サーベイランス(Erhebungseinheit für Seltene Paediatrische Erkrankungen in Deutschland)を用いて、5年間の前向き研究を行った。BO(n = 378)または NBO(n = 279)と初診で診断された657人の患者を対象に、疫学的、臨床的、画像データを分析した。
 
結果
 BOは小児10万人あたり1.2人で、年少の男児(58%)に多く、NBOは10万人あたり0.45人であった。BOは、発熱(68%)、炎症反応上昇(82%)、局所の腫脹(62%)を呈する割合が高く、NBOよりも症状の経過が短かった。NBOは、全身状態が良好で(86%)、複数病変を有する症例が多かった(66%)。BOの病原体はStaphylococcus aureusが最も多く(83%)、MRSAは1例のみであった。合併症は、病関節炎、骨過形成、椎体骨折まで様々であった。
 
結論
 BOとNBOは、症状、関連する合併症、炎症反応に基づいて区別できる。NBOは、骨病変と疼痛を呈する小児患者(特に全身状態が良好で、炎症反応低値、椎体・鎖骨・胸骨に複数病変を呈する若い女児)では、考慮すべきである。
 
 
細菌性骨髄炎(BO)
非感染性骨髄炎・骨炎(NBO)
発生頻度
1.2/10万人
0.45/10万人
原因菌
なし
臨床症状
発症から診断まで短時間、発熱、発赤、炎症反応高値
全身状態良好
部位
1ヶ所
複数箇所(左右対称)
椎体、鎖骨、胸骨、下顎骨など
合併症
関節炎、膿瘍、筋炎
椎体病変、骨過形成

 

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pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

小児の肺炎の治療期間は何日間?!

 「小児の市中肺炎を何日間治療するか?」とてもシンプルですが、実は、明確な答えがありませんでした。CRP陰性化ではもちろんありません。
 
 これまでに発表された中では、イスラエルから、市中肺炎を外来治療した小児を対象として、3日間と5日間と10日間の治療期間を比較し、3日間は再発が多いが、5日間と10日間で差が無かったという報告があります。しかし、症例数が少なく、あまりはっきりしたことは言えませんでした。
 
 
 今回、アモキシシリン5日間と10日間の無作為ランダム化比較試験が出ました。結果は、5日間に短縮しても、臨床的治癒率(約85%)は変わらない、という、イスラエルの報告と同じ結果でした。15%くらいの人が治癒しなかったのは、ウイルス性肺炎がかなり含まれていたためと、推測されます。
 
要点
・基礎疾患のない小児患者(6ヶ月から10歳)の市中肺炎の治療は、高用量アモキシシリン5日間で十分
・ウイルス性肺炎が多いので、臨床的治癒率は85%くらい
 
Short-Course Antimicrobial Therapy for Pediatric Community-Acquired Pneumonia: The SAFER Randomized Clinical Trial
JAMA Pediatr. 2021 Mar 8. doi: 10.1001
 
はじめに
 市中肺炎(CAP)は小児に多い疾患であり、エビデンスに基づいた治療の推奨が必要である。本研究では、CAPに対する5日間の高用量アモキシシリン投与が、10日間の高用量アモキシシリン投与と比較して臨床的治癒率が劣らないかを検討することを目的とした。
 
方法
 SAFER(Short-Course Antimicrobial Therapy for Pediatric Respiratory Infections)試験は、2012年12月1日から2014年3月31日までの単施設で先行研究を実施し、2016年8月1日から2019年12月31日までの本試験からなる2施設、並行群、非劣性無作為化試験である。マクマスター小児病院およびイースタンオンタリオ小児病院の救急科で実施された。研究者、参加者、アウトカム評価者は、盲検化された。対象患者は、生後6カ月~10歳で、発熱から48時間以内、呼吸器症状を有し、救急科の医師によって胸部X線検査から肺炎と診断を受けた患者である。入院症例、基礎疾患(重症化しやすい/非典型的な原因菌の可能性)、β-ラクタム系抗菌薬による治療歴がある症例は除外した。介入群には、 5日間の高用量アモキシシリン療法に続いて5日間のプラセボを投与した。対照群は、 5日間の高用量アモキシシリン療法に続いて5日間の別製剤の高用量アモキシシリンを投与した(10日間の高用量アモキシシリン投与)。主要アウトカムは、 14から21 日目の臨床的治癒率とした。
 
結果
 281名が参加した。年齢中央値は2.6歳(四分位範囲、1.6−4.9歳)であった。性別は、男児160名(57.7%)であった。介入群の114人中101人(88.6%)に、対照群109人中99人(90.8%)が臨床的治癒した(リスク差:-0.016、97.5%信頼限界:-0.087)。14から21日目の臨床的治癒は、介入群で126例中108例(85.7%)、対照群で126例中106例(84.1%)であった(リスク差:0.023;97.5%の信頼限界:-0.061)。
 
結論
 基礎疾患の重篤ではない入院を必要としない小児のCAPにおいて、5日間の抗菌薬治療は、標準治療(10日間)と同等の効果がある。ガイドラインでは、抗菌薬適正使用の観点から、アモキシシリンの5日間投与を推奨することを検討すべきである。
 
 
 
今回の対象患者は以下の条件を満たします
・生後6ヶ月から10歳
  1. 発症から48時間以内の発熱(腋窩37.5℃以上、口腔37.7℃以上、直腸38℃以上)。
  2. 以下の1項目以上
    ・頻呼吸(1歳未満 60/分以上、1~2歳 50/分以上、2~4歳 40呼吸/分以上、4歳以上 30/分以上)
    ・咳嗽
    ・努力呼吸(呼吸補助筋の使用または胸骨上・肋間下の陥没呼吸)
    ・CAPと一致する聴診所見(例えば、局所的なクラックル)
  3. CAPと一致する胸部X線撮影所見
  4. EDの医師がCAPと初期診断した
 
除外基準は以下のとおりです
・重症化したり・非典型的な原因菌である可能性が高い基礎疾患
・膿胸
・壊死性肺炎
・肺の基礎疾患
・先天性心疾患
誤嚥の既往歴
・悪性腫瘍
・免疫不全
・腎障害
 
 大きな基礎疾患や合併症がない6ヶ月−10歳の市中肺炎で
 臨床症状的にも画像的にも肺炎があると言ってよい集団です。
 日本なら、入院させてしまいそうな患者も結構含まれそうです。
 
 治療で用いた抗菌薬の投与量は、アモキシシリン 75-100mg/kg/dayです。カナダの高用量アモキシシリンの投与量で、日本でも90mg/kg/dayまで処方可能です。

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 ウイルス学的な検索として、鼻咽腔のMultiplex-PCR検査が2/3程度の症例で実施されており、PCR陰性は36%程度。RSウイルスが20%、ライノウイルス・エンテロウイルスが18%、メタニューモウイルスが10%、インフルエンザウイルスが7%、パラインフルエンザウイルスが5%、アデノウイルスが5%程度で検出されています。
 症例の中には、それなりの割合でウイルス性肺炎が含まれていると考えられます。
 面白いのは、唾液でCRPを測定しています。16 pg/mLが中央値ですが、1.6mg/dLくらいに当たります。唾液のCRPの中央値は知りませんが、血清と変わらないなら、それほど高値の人はいないことになります。Salimetrics(https://www.funakoshi.co.jp/contents/8613)という会社の製品で、日本でも研究用に購入できるようです。
 
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 7名が入院(6名が最初の5日間に入院)しました。治療失敗例は、治療開始96時間以内で解熱しない、解熱後の再発熱、悪化はしていないが他の抗菌薬を処方したなどであった。研究のプロトコルでは、治療失敗例になるが、実臨床では、ウイルス性肺炎などでは、このような経過になることもあるので、「治療失敗例」というより「ウイルス性肺炎だから、抗菌薬が効かないので、ゆっくり治っている」と判断される症例が多そうです。
 

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 最後まで、読んでいただき、ありがとうございました。

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