小児感染症科医のお勉強ノート

小児感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

腸間膜リンパ節炎のマネージメント

 小児科外来で、虫垂炎らしい右下腹部痛が来た時に、エコーで「虫垂腫大はありません。腸間膜リンパ節の腫大を認めます。」というレポートが返ってきて、少しがっかり(?)することがあります。診断は、「腸間膜リンパ節炎」ということになるのですが、あまり教科書にも記載がなく、マネージメントに悩みます。
 腸間膜リンパ節炎のまとめ記事があったので、まとめてみました。
ポイントは、リンパ節炎の背景になる原因疾患が無いかを十分に吟味することです。特に外科疾患の見落としがないように注意します。
 
Acute Nonspecific Mesenteric Lymphadenitis: More Than “No Need for Surgery”
Biomed Res Int. 2017;2017:9784565
急性非特異的腸間膜リンパ節炎のまとめ
 
要点
・急性非特異的腸間膜リンパ節炎は、腸間膜リンパ節の急性炎症で、自然治癒する。
・臨床症状が、急性虫垂炎や腸重積に類似する。
小児・若年成人に発症する。上気道炎後に発症することもある。
・超音波検査で診断する(短軸径が8mm以上の腸間膜リンパ節が3個以上認められる)。
・炎症の原因となる背景疾患がない
保存的治療のみで、2−4週間で回復する。
 
1. はじめに
 急性非特異的腸間膜リンパ節炎は、腸間膜リンパ節のself-limitedな炎症性疾患である。虫垂炎や腸重積症の重要な鑑別疾患である。腸間膜リンパ節炎の特徴は、画像診断の発達とともに明らかになってきたが、自然経過や適切な管理方法は確立していない。
 
2. 歴史
 過去には、若年者の腸間膜リンパ節腫脹は、結核の割合が高かった。次第に、非結核性の腸間膜リンパ節炎の存在が認識されてきたが、手術前に腸間膜リンパ節炎の確定診断を下すことは困難だったため、虫垂炎と混同されてきた(虫垂の炎症所見のない虫垂炎)。画像技術の発展に伴い、診断が増えている。
 
3. 分類と原因
 腸間膜リンパ節炎は、非特異的(または原発性)と二次性に分類する。
原発性:炎症の原因を特定できない(主に右側)リンパ節腫脹
・二次性:原因が特定できる腹腔内の炎症に伴うリンパ節腫脹
 
4. 臨床症状
 腸間膜リンパ節炎は、小児、若年成人に発症する。男性が女性よりわずかに多い。20歳以降はまれ。上気道疾患に続いて発生することがある。
症状は、
(i)38.0−38.5℃の発熱、嘔吐、下痢
(ii)激しい腹痛があるが、患者は落ち着いている。
 腹痛は、不快感から激しい疝痛まで様々。
臍周囲と右腸骨窩の両方に感じられる。
(iii) 圧痛の部位は右腸骨窩が中心であるが、しばしば心窩部に向かう高い位置に存在する。
 
この論文では、臨床的なtipsの記載があった。
虫垂炎より、痛みの程度は軽く、触診でも耐えることができる
・腸間膜リンパ節炎では圧痛がより深く感じられ、患者を左右に動かすと痛みの部位が移動する傾向がある。
反跳痛は、約4分の1の患者に認められるが、本当の板状硬は認められない
 
5. 検査
 腸間膜リンパ節炎の症状は、急性虫垂炎、腸重積症、便秘、炎症性腸疾患、メッケル憩室、卵巣捻転、肺底部の肺炎、IgA血管炎、尿路感染症などと臨床的に類似する。
 白血球数とCRPは軽度〜中等度に上昇していることが多い(他疾患の鑑別には有用ではない)。超音波検査で、低エコーの腫大した腸間膜リンパ節が多数認められる。原発性腸間膜リンパ節炎の画像的定義は、原因の特定できない「右下腹部および大動脈傍領域にある短軸径が5mm以上のリンパ節が3個以上認められる」ことである。近年は、「8mm以上に腫大したリンパ節を1個以上認める」という定義もある。

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6. 原発性と二次性の比較
 二次性腸間膜リンパ節炎の背景疾患は、虫垂炎、炎症性腸疾患、全身性エリテマトーデス、サルコイドーシス、慢性肉芽腫症などの全身性慢性炎症性疾患である。
 
表 二次性腸間膜リンパ節炎の原因疾患
 
急性
亜急性・慢性
感染性(ウイルス性胃腸炎、細菌性腸炎など)
人畜共通感染症(エルシニア、非チフスサルモネラ)
伝染性単核症(EBウイルストキソプラズマ、バルトネラ)
炎症性腸疾患
SLE
サルコイドーシス
悪性腫瘍
 
 
7. 治療方針と予後
 外科的介入が必要な病態を除外すること。
 診断が確定したら、水分管理とアセトアミノフェンや非ステロイド系抗炎症剤による鎮痛剤の投与などの支持療法が推奨される。後遺症なく回復する。急速な改善が得られない場合、本人と家族が不安に感じやすい。回復までの期間は、1~4週間(場合によってはそれ以上)と伝えるのが良い。

細菌性骨髄炎と非感染性骨髄炎

 小児の細菌性骨髄炎(BO)は、黄色ブドウ球菌が多く、四肢の長管骨に多いことが特徴的です。成人では、椎体炎が多いことと対照的です。
 急性の経過で、血液培養などから原因菌がすんなり判明するケースは問題ないのですが、緩徐な経過で発症するケースもあります。そのような場合、非典型的な原因菌(抗酸菌や真菌など)を疑ったりするのですが、非感染性骨髄炎・骨炎(NBO)や慢性再発性多発骨髄炎(CRMO)と呼ばれる感染症が原因ではない骨炎・骨髄炎を鑑別に挙げる必要があります。
 BOとNBOの両方を診たことがあると、なんとなく違いが分かると思うのですが、どちらかしか診たことがないと、見落とす可能性があります。BOとNBOの特徴の違いを調べたドイツからの研究です。
 
 
Bacterial Osteomyelitis or Nonbacterial Osteitis in Children A Study Involving the German Surveillance Unit for Rare Diseases in Childhood
Pediatr Infect Dis J. 2017;36:451
 
背景
 細菌性骨髄炎(BO)は、小児科領域では一般的に認識されている疾患であるが、非感染性骨髄炎・骨炎(NBO)との鑑別が困難な場合が多い。本研究の目的は,この2つの疾患を区別し,非感染性骨髄炎・骨炎(NBO)の特徴を明確にすることである。
 
方法は
 ドイツの小児稀少疾患サーベイランス(Erhebungseinheit für Seltene Paediatrische Erkrankungen in Deutschland)を用いて、5年間の前向き研究を行った。BO(n = 378)または NBO(n = 279)と初診で診断された657人の患者を対象に、疫学的、臨床的、画像データを分析した。
 
結果
 BOは小児10万人あたり1.2人で、年少の男児(58%)に多く、NBOは10万人あたり0.45人であった。BOは、発熱(68%)、炎症反応上昇(82%)、局所の腫脹(62%)を呈する割合が高く、NBOよりも症状の経過が短かった。NBOは、全身状態が良好で(86%)、複数病変を有する症例が多かった(66%)。BOの病原体はStaphylococcus aureusが最も多く(83%)、MRSAは1例のみであった。合併症は、病関節炎、骨過形成、椎体骨折まで様々であった。
 
結論
 BOとNBOは、症状、関連する合併症、炎症反応に基づいて区別できる。NBOは、骨病変と疼痛を呈する小児患者(特に全身状態が良好で、炎症反応低値、椎体・鎖骨・胸骨に複数病変を呈する若い女児)では、考慮すべきである。
 
 
細菌性骨髄炎(BO)
非感染性骨髄炎・骨炎(NBO)
発生頻度
1.2/10万人
0.45/10万人
原因菌
なし
臨床症状
発症から診断まで短時間、発熱、発赤、炎症反応高値
全身状態良好
部位
1ヶ所
複数箇所(左右対称)
椎体、鎖骨、胸骨、下顎骨など
合併症
関節炎、膿瘍、筋炎
椎体病変、骨過形成

 

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pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

小児の肺炎の治療期間は何日間?!

 「小児の市中肺炎を何日間治療するか?」とてもシンプルですが、実は、明確な答えがありませんでした。CRP陰性化ではもちろんありません。
 
 これまでに発表された中では、イスラエルから、市中肺炎を外来治療した小児を対象として、3日間と5日間と10日間の治療期間を比較し、3日間は再発が多いが、5日間と10日間で差が無かったという報告があります。しかし、症例数が少なく、あまりはっきりしたことは言えませんでした。
 
 
 今回、アモキシシリン5日間と10日間の無作為ランダム化比較試験が出ました。結果は、5日間に短縮しても、臨床的治癒率(約85%)は変わらない、という、イスラエルの報告と同じ結果でした。15%くらいの人が治癒しなかったのは、ウイルス性肺炎がかなり含まれていたためと、推測されます。
 
要点
・基礎疾患のない小児患者(6ヶ月から10歳)の市中肺炎の治療は、高用量アモキシシリン5日間で十分
・ウイルス性肺炎が多いので、臨床的治癒率は85%くらい
 
Short-Course Antimicrobial Therapy for Pediatric Community-Acquired Pneumonia: The SAFER Randomized Clinical Trial
JAMA Pediatr. 2021 Mar 8. doi: 10.1001
 
はじめに
 市中肺炎(CAP)は小児に多い疾患であり、エビデンスに基づいた治療の推奨が必要である。本研究では、CAPに対する5日間の高用量アモキシシリン投与が、10日間の高用量アモキシシリン投与と比較して臨床的治癒率が劣らないかを検討することを目的とした。
 
方法
 SAFER(Short-Course Antimicrobial Therapy for Pediatric Respiratory Infections)試験は、2012年12月1日から2014年3月31日までの単施設で先行研究を実施し、2016年8月1日から2019年12月31日までの本試験からなる2施設、並行群、非劣性無作為化試験である。マクマスター小児病院およびイースタンオンタリオ小児病院の救急科で実施された。研究者、参加者、アウトカム評価者は、盲検化された。対象患者は、生後6カ月~10歳で、発熱から48時間以内、呼吸器症状を有し、救急科の医師によって胸部X線検査から肺炎と診断を受けた患者である。入院症例、基礎疾患(重症化しやすい/非典型的な原因菌の可能性)、β-ラクタム系抗菌薬による治療歴がある症例は除外した。介入群には、 5日間の高用量アモキシシリン療法に続いて5日間のプラセボを投与した。対照群は、 5日間の高用量アモキシシリン療法に続いて5日間の別製剤の高用量アモキシシリンを投与した(10日間の高用量アモキシシリン投与)。主要アウトカムは、 14から21 日目の臨床的治癒率とした。
 
結果
 281名が参加した。年齢中央値は2.6歳(四分位範囲、1.6−4.9歳)であった。性別は、男児160名(57.7%)であった。介入群の114人中101人(88.6%)に、対照群109人中99人(90.8%)が臨床的治癒した(リスク差:-0.016、97.5%信頼限界:-0.087)。14から21日目の臨床的治癒は、介入群で126例中108例(85.7%)、対照群で126例中106例(84.1%)であった(リスク差:0.023;97.5%の信頼限界:-0.061)。
 
結論
 基礎疾患の重篤ではない入院を必要としない小児のCAPにおいて、5日間の抗菌薬治療は、標準治療(10日間)と同等の効果がある。ガイドラインでは、抗菌薬適正使用の観点から、アモキシシリンの5日間投与を推奨することを検討すべきである。
 
 
 
今回の対象患者は以下の条件を満たします
・生後6ヶ月から10歳
  1. 発症から48時間以内の発熱(腋窩37.5℃以上、口腔37.7℃以上、直腸38℃以上)。
  2. 以下の1項目以上
    ・頻呼吸(1歳未満 60/分以上、1~2歳 50/分以上、2~4歳 40呼吸/分以上、4歳以上 30/分以上)
    ・咳嗽
    ・努力呼吸(呼吸補助筋の使用または胸骨上・肋間下の陥没呼吸)
    ・CAPと一致する聴診所見(例えば、局所的なクラックル)
  3. CAPと一致する胸部X線撮影所見
  4. EDの医師がCAPと初期診断した
 
除外基準は以下のとおりです
・重症化したり・非典型的な原因菌である可能性が高い基礎疾患
・膿胸
・壊死性肺炎
・肺の基礎疾患
・先天性心疾患
誤嚥の既往歴
・悪性腫瘍
・免疫不全
・腎障害
 
 大きな基礎疾患や合併症がない6ヶ月−10歳の市中肺炎で
 臨床症状的にも画像的にも肺炎があると言ってよい集団です。
 日本なら、入院させてしまいそうな患者も結構含まれそうです。
 
 治療で用いた抗菌薬の投与量は、アモキシシリン 75-100mg/kg/dayです。カナダの高用量アモキシシリンの投与量で、日本でも90mg/kg/dayまで処方可能です。

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 ウイルス学的な検索として、鼻咽腔のMultiplex-PCR検査が2/3程度の症例で実施されており、PCR陰性は36%程度。RSウイルスが20%、ライノウイルス・エンテロウイルスが18%、メタニューモウイルスが10%、インフルエンザウイルスが7%、パラインフルエンザウイルスが5%、アデノウイルスが5%程度で検出されています。
 症例の中には、それなりの割合でウイルス性肺炎が含まれていると考えられます。
 面白いのは、唾液でCRPを測定しています。16 pg/mLが中央値ですが、1.6mg/dLくらいに当たります。唾液のCRPの中央値は知りませんが、血清と変わらないなら、それほど高値の人はいないことになります。Salimetrics(https://www.funakoshi.co.jp/contents/8613)という会社の製品で、日本でも研究用に購入できるようです。
 
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 7名が入院(6名が最初の5日間に入院)しました。治療失敗例は、治療開始96時間以内で解熱しない、解熱後の再発熱、悪化はしていないが他の抗菌薬を処方したなどであった。研究のプロトコルでは、治療失敗例になるが、実臨床では、ウイルス性肺炎などでは、このような経過になることもあるので、「治療失敗例」というより「ウイルス性肺炎だから、抗菌薬が効かないので、ゆっくり治っている」と判断される症例が多そうです。
 

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 最後まで、読んでいただき、ありがとうございました。

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小児穿孔性虫垂炎で治療10日間・内服へ変更可能

 小児の虫垂炎は、低年齢ほど穿孔するリスクが高い疾患です。今は、急いで手術をするのではなく、まずは抗菌薬で炎症を沈静化させてから、時間をあけて虫垂切除術を行います (interval appendectomy)。
 どうしても、穿孔していると治療が長くなるので、入院も長くなるのですが、抗菌薬を内服に変更できると、早期退院が可能になります。
 今回、紹介するのは、小児の穿孔性虫垂炎で、最初は点滴抗菌薬→経口抗菌薬に変更したら、予後が悪化するのかという研究のメタアナリシスです。
 
要点
・小児(平均10歳前後)の穿孔性虫垂炎では、静注抗菌薬を経口抗菌薬に変更しても、合併症(術後膿瘍、創部感染)や再入院は増えない。
・本研究に含まれた研究の治療期間は、IVとIV/POとも10-15日間程度。
 
Intravenous versus intravenous/oral antibiotics for perforated appendicitis in pediatric patients: a systematic review and meta-analysis
BMC Pediatr. 2019;19:407
背景
 静脈ルートに関連する合併症を回避し、医療費を削減するために、抗菌薬の静脈内投与(IV)に続いて経口抗菌薬(PO)に変更することが提案されている。しかし、IV/PO療法の有効性と安全性は不明であり、今後の検討が必要である。
 
研究方法
 PubMed、EMBASE、Cochraneを含むデータベースを検索した。IV/PO療法およびPO療法で抗菌薬投与を受けた穿孔性虫垂炎患者の転帰を比較した研究をスクリーニングした。コホート試験と無作為化対照部分の質の評価には、Newcastle-Ottawa Scale(NOS)とJadadスコアを使用した。統計的異質性はI2値を用いて評価した。
 
結果
 合計 580 例の患者を含む 5 件の対照研究が評価された。IV/PO療法は合併症のリスクを増加させず、術後膿瘍のリスク比(RR)は0.97(95%CI 0.51-1.83、P = 0.93)、創部感染のリスク比(RR)は1.04(95%CI 0.25-4.36、P = 0.96)、再入院のリスク比(RR)は0.62(95%CI 0.33-1.16、P = 0.13)であった。
 
結論
 本研究では、術後膿瘍、創部感染、再入院に関して、IV/PO療法は、IV療法に比べて非劣性であることが示された。
 
術後膿瘍の発症率

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創部感染の発症率

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再入院率

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内服薬は、アモキシシリン・クラブラン酸か、ST合剤+メトロニダゾールが選択されています。IVとPOを合計して治療期間は10−14日程度です。

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安定した細気管支炎はSpO2連続モニター不要

 冬の小児科病棟と言えば、RSウイルスによる細気管支炎の子がたくさん入院しているものでした。しかし、RSウイルスの流行は、いつしか夏に移動し、通年で流行するようになり、「日本も亜熱帯になったなあ」と、小児科医に地球温暖化の影響を強く感じさせるものでした。
 
 しかし、今年は、COVID-19パンデミックの影響で、RSウイルスは(少なくとも関東圏で)流行がほぼ無くなりました。しかし、RSウイルスにより引き起こされる細気管支炎は、重要な病気であることには変わりありません。
 
 こんな感じの苦しそうな咳をします。
 
 この細気管支炎に対しては、治療に関する研究が多数行われましたが、ネガティブスタディの嵐で、結局、エビデンスのある治療法は「鼻水を吸引する」と「酸素を与える」だけという、小児科医にとって「病気の自然経過を辛抱強く待つ」ことの重要性を教える、非常に教育的な疾患とも言えます。
 
 今回、紹介する論文は、「細気管支炎の小児に、SpO2の連続モニターを行ったほうが良いか?」という、とても、臨床的に使えるスタディです。というのは、成人にとってSPO2モニターを着用することはなんともないことなのですが、乳幼児にSpO2モニターを着用させると、
手足をバタバタして正確に測れない→アラーム→テープ巻き直し
モニターを巻いた手を舐める→テープが剥がれる→テープ巻き直し
という、なかなか大変な作業なのです。
 
 今回の研究の要点としては、
・細気管支炎の治療反応が良い場合、早期にSpO2連続モニターをやめることが可能
・間欠的モニターにすると、看護スタッフの満足度がアップする
 ということが言えます。
 
 これまでは、「何か介入を行って、早く良くしよう」という研究が多かったですが、「何かを無くしても、臨床経過変わらないやん」という研究も面白いと感じました。
 
Intermittent vs Continuous Pulse Oximetry in Hospitalized Infants With Stabilized Bronchiolitis A Randomized Clinical Trial
JAMA  March 1, 2021
 
重要性:
 細気管支炎で入院している乳児において、酸素飽和度のモニタリングは、間欠的か連続的かどちらが良いかについては、高いレベルのエビデンスはなく、実臨床でのばらつきが大きい。
 
目的:
 酸素飽和度モニターを間欠的または連続的に実施した時、臨床転帰に対する効果を比較する。
 
方法:
 この研究は、多施設共同無作為化臨床試験である。2016 年 11 月 1 日から 2019 年 5 月 31 日までにカナダのオンタリオ州の市中病院および小児病院に細気管支炎で入院した生後 4 週間から 24 ヵ月の乳児で、酸素の使用に関わらず状態が安定した後の患者を対象とした。4時間毎の間欠的な酸素飽和度測定(n=114)(間欠的モニター群)または連続的な酸素飽和度測定(n=115)(連続モニター群)を実施し、酸素飽和度90%以上を目標値とする。主要評価項目は、無作為化から退院までの入院期間である。副次評価項目は、入院から退院までの期間、および無作為化から測定された転帰(治療介入、安全性(集中治療室への入室と再入室)、親の不安と仕事を休んだ日数、看護師の満足度が含まれた。
 
結果:
 登録されたのは229人の乳児(中央値[IQR]年齢4.0[2.2-8.5]ヵ月、男性136人[59.4%]、市中病院 101人[44.1%])であった。無作為化から退院までの入院期間の中央値は、間欠的モニター群で27.6時間(四分位範囲[IQR]、18.8-49.6時間)、連続モニター群で25.4時間(IQR、18.3-47.6時間)であった 。中央値の差は2.2時間(95%CI、-1.9-6.3時間;P = 0.17)であった。入院から退院までの期間の中央値は、間欠モニター群と連続モニター群の間に有意差は認められなかった(49.1 [IQR、37.2~87.0]時間 vs 46.0 [IQR、32.5~73.8]時間(P = 0.13))。また、酸素投与の頻度や期間は、間欠群と継続群で有意差は認められなかった。(酸素投与あり 4/114人(3.5%)対 9/115人(7.8%)(P = 0.16)、酸素投与時間 中央値:20.6(IQR、7.6~46.1)時間 vs. 21.4(IQR、11.6~52.9)時間(P = 0.66)。同様に、集中治療室入室の頻度も有意差は認められなかった(1/114人(0.9%) vs. 2/115人(2.7%)(P = 0.76))。再入院率、親の不安スコア、親が仕事を休んだ日数も、有意差は認めなかった。モニタリングに対する看護満足度の平均(SD)は、間欠モニター群で有意に高かった(8.6(1.7)vs. 7.1(2.8)、平均差 1.5(95%CI、0.9-2.2;P < 0.001))。
 
結論
 本研究では、酸素投与の有無にかかわらず安定化した細気管支炎で入院し、目標SpO2を90%以上で管理した乳児において、間欠的モニターと連続的モニターで、入院期間などの臨床的な結果に有意差はなかった。看護師の満足度は、間欠的モニターの方が高かった。臨床上は、モニタリングの程度は少ないほうが望ましいので、本研究の知見は、細気管支炎で入院した安定した乳児に間欠的モニターを使用することを支持する。
 

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 この研究の患者層をもう少し詳しく見ます。

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 両群ともに、特に患者層の偏りはありません。生後4ヶ月位が中央値で、男児が5割強です。
救急外来〜ランダム化前の時点で、
・3割に抗菌薬
・4割にβ刺激薬吸入
・4割にエピネフリン吸入
・15%にステロイド投与
・4割に酸素投与
・6割に連続的なSpO2モニターリング 
が行われていました。
 
 上述しましたが、一般的には、細気管支炎に、抗菌薬・β刺激薬・ステロイドは無効と、考えられています。しかし、「たいして効かないと分かっちゃいるけど…」、日本ではしばしば上のような治療が行われます。カナダでも似たような事情が垣間見えます。
 入院〜ランダム化までの中央値は16時間です(前の日の夕方に入院して、次の日の日中に試験に参加するパターンが多いのでしょうか)。
 ランダム化の時点で、
・呼吸数(中央値)は40回程度(この月齢ならちょっと速いけど普通)
・SpO2(中央値)は97%
・酸素投与中であったのは、15%程度
 とかなり改善した状態です。
 
 つまり本研究のメインの患者は、「細気管支炎で入院したけど、一晩の治療でかなり良くなった生後4ヶ月位の乳児」です。実際に、ランダム化以降は、21時間ほどで酸素投与が不要となっており、気管支拡張薬、ステロイドなどもあまり使われていません。また、本研究ではSpO2 90%を目標にしていますが、日本の小児科病棟でこの基準は攻めすぎかなという印象を持ちます。
 
 

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 非常に面白いのは、間欠的モニターにすると看護スタッフの満足度が向上することですね。実際に、SpO2モニターをある程度元気な子供につけると、よく外すし、アラームが鳴って見に行っても、モニターのテープを舐めていたり、バタバタ手足を動かして正確に測定できていないだけのことがほとんどです。付添の両親も「夜にモニターが鳴って、眠れなかった」と訴えることも多いです。
 
 この論文を日本の医療現場で活かすとすると、
・細気管支炎で入院しても、治療反応が良い場合には、
 早期にSpO2連続モニターをやめることが可能
・間欠的モニターにすると、看護スタッフの満足度がアップする
 
 毎日、デバイスの必要性を検討し、モニターの必要性を吟味することが重要だと思います。