小児感染症科医のお勉強ノート

小児感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

ESBL産生菌の尿路感染症、初期治療を外しても解熱までの時間は同じ

 ESBL産生腸内細菌科細菌による尿路感染症は、治療選択肢が少なく、大きな問題です。初期治療から、抗菌薬を外したくないと思えば、カルバペネムの使用量が増えてしまいます。
 成人では、ESBL産生菌の腎盂腎炎で、初期治療が適切でない(感受性のない)抗菌薬が使用されても、治療失敗率は変わらないというデータが出ています。(Eur J Clin Microbiol Infect Dis. 2019;38:937)
 今回の研究は、同じことが小児でも言えるのかを検討した研究です。
 ESBL産生菌は、なんとなく熱が下がりにくい印象を持っていましたが、ESBL産生菌に効かない抗菌薬で何故かスパッと解熱する症例も経験していました。
 今回の研究の結果は、抗菌薬の感受性に関係なく、解熱までの時間に有意差は見られません。感染症診療の原則に忠実に、初期から無駄に広域抗菌薬を使用するのではなく、基本的な薬剤(3世代や2世代セフェムなど)を使用し、菌名と感受性が判明してからのde-escalationが良さそうです。
 
ESBL産生菌の尿路感染では、初期抗菌薬を外しても解熱までの時間は変わらない
 
Treatment and Outcomes of Children With Febrile Urinary Tract Infection Due to Extended Spectrum Beta-lactamase-producing Bacteria in Europe
Vazouras K, et al. Pediatr Infect Dis J. 2020; 39(12):1081
 
背景:
拡張型スペクトラムβ-ラクタマーゼ産生腸内細菌科細菌(ESBL-PE)は世界的に増加している。ESBL-PEは小児における尿路感染症(UTI)の重要な原因菌である。我々は、欧州におけるESBL-PEによる小児尿路感染症の臨床症状、治療、転帰を明らかにすることを目的とした。
 
方法:
多施設共同後方視的コホート研究。2016 年 1 月から 2017 年 7 月までに参加施設を受診し、発熱、尿検査異常、尿培養からESBL-PE 陽性となった 0−18 歳の小児を対象とした。
 
主要アウトカム指標:
一次アウトカム指標:(1)初期治療で菌に有効な抗菌薬が選択された群(IET)と選択されなかった群(IIT)、(2)初期治療を単剤で行った群と併用療法した群の間で、解熱までの日数を比較した。
二次アウトカム指標:初期治療の臨床的および微生物学的治療失敗の割合。
 
結果:
 8 カ国 14 施設において、142 例の小児が対象となった。61例がIET、77例がIITであった。解熱までの時間は、IET/IIT(P = 0.722)と単剤/併用療法群(P = 0.574)で統計的差はなかった。IETの59人中2人(3.4%)、IITの66人中4人(6.1%)が治療中に臨床的失敗を経験した(P=0.683)。IETの51例中8例(15.7%)、IITの58例中6例(10.3%)にUTIに合致する症状・徴候の再発がみられた(P = 0.568)。尿路感染の再発は治療終了後15.5日後(IQR、9.0−19.0)に発生した。
 
結論:
 解熱までの時間と臨床的失敗の割合はIET/IIT群間で差がなかった。カルバペネム系以外のβ-ラクタム系抗菌薬は、感受性検査の結果が得られるまでの間、ESBL産生菌によるUTIの経験的治療に使用されてもよい。
 

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 実施された国は、UK、ギリシア、フランス、スペイン、イタリア、ポルトガル、スロべニア、リトアニアです。南欧が多く、キノロン、アミノグリコシドなどの非ベータラクタム系抗菌薬に対する耐性率も高いのが気になります。
 
 

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センセー、胃残破棄ですか、戻しますかー?

 経鼻胃管(NGチューブ)を挿入している患者さんを診療していると、注入前に異内容の残存(いわゆる胃残)があることがあります。消化しかけの栄養剤などであることが多いのですが、これを棄てるのか、戻すのか、よく聞かれます。
 正直、どっちでも良いかと思っていたのですが、今回紹介する成人の重症者を対象としたメタアナリシスでは、「胃残は、破棄しても戻しても、どちらでも良い」というのが、結論のようです。
 胆汁性胃残、血性遺残は、破棄した方が良いような気はしますが、そうでなけでは、どちらでも大丈夫ではないでしょうか。
 
Is discard better than return gastric residual aspirates: a systematic review and meta-analysis
Wen Z, et al. BMJ Gastroenterol. 2019;19:113
 
背景:
 胃内容の残存量(いわゆる胃残)の評価は、重症治療室では一般的に行われている。しかし、胃残を廃棄または戻した場合の効果と安全性は不明である。そこで、重症患者において胃残の廃棄または戻しの役割を評価することを目的とした。
 
方法:
 重症患者において胃残を破棄するか戻すかで有効性と安全性を検討した無作為化比較試験(RCT)の包括的な系統的メタアナリシスを行った。Pubmedなどのデータベースを検索して対象となる研究を同定した(2018年9月31日まで)。アウトカム評価に固定またはランダム効果モデルを用いて、オッズ比(OR)または平均差(MD)を算出した。
 
結果:
 4つのRCT、計314人の成人患者を解析対象とした。48時間目の胃残の量(MD=8.89、95%CI:11.97~29.74)、平均カリウム値(MD=0.00、95%CI:-0.16~0.16)、胃内容排出遅延(OR=0.98、95%CI:-0.16)、誤嚥性肺炎の発生率(OR=0.93、95%CI:0.14~6.17)、悪心・嘔吐(OR=0.53、95%CI:0.07~4.13)、下痢(OR=0.99、95%CI:0.58~1.70)に有意差は無かった。
 
結論:
 胃残を戻すことは、廃棄するよりも、合併症を増加させることなく、有益であることを確認できなかった。胃残の廃棄または戻しの役割を検証するために、多施設で大規模ランダム化比較試験を検討する必要がある。

 

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pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

COVID-19に対して、出生時のBCGは「やっぱり」効果を示せない

 BCGがCOVID-19に有効かもしれないという報道があり、日本で一時的にBCGが品薄になることが有りました。この根拠は、BCGを定期接種化している国では、COVID-19患者数が少ないという報告です。BCGがCOVID-19を予防するのではという仮説が考えられました。(Escobar LE, et al. Proc Natl Acad Sci U S A. 2020; 117: 17720
 
 すでに、イスラエルからの報告では、BCG定期接種終了した1982年前後で出生した人(それぞれ約30万人)を調べています。対象は、現在の年齢は30代後半から40代前半になりますが、COVID-19の患者数者・重症者数に違いが無いことを示しています。(Hamiel U, et al. JAMA. 2020; 323: 2340
 
 今回は、スウェーデンコホート研究で、1975年に新生児に対する定期接種を終了したので、その前後で出生したそれぞれ約100万人を調べて、COVID-19の患者数・入院者数を検討してます。対象者は、40代中盤になります。
 結論としては、イスラエルからの報告と同じく、
「乳児期のBCG接種は、成人になってからのCOVID-19に対する予防効果は示せない」
ということになりました。
 ただ、直近でBCGを接種した場合、(効果が強く残るので)COVID-19に有効かもしれないという仮説は残りますが、乳児のBCG接種の機会を奪い、成人が接種する合理的な理由は全くありません
 
 
Bacille Calmette-Guérin Vaccination in Infancy Does Not Protect Against Coronavirus Disease 2019 (COVID-19): Evidence From a Natural Experiment in Sweden
Clément de Chaisemartin, et al. Clin Infect Dis. 2020. Aug 23.
 
背景
 BCGワクチンは、呼吸器感染症に対する免疫効果を有している。したがって、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する保護効果があるという仮説が立てられている。最近の研究では、小児でBCGワクチンの定期接種を実施している国は、COVID-19パンデミックの影響を受けにくい傾向があることがわかった。しかし、そのような生態学的研究は、多数の交絡因子による影響を受ける。そこで本論文では、1975年にスウェーデンで実施された全国規模の自然実験を報告する。この年、新生児のBCGワクチン接種中止によりBCG接種率が劇的に低下し、バイアスを除いたBCGの効果を推定することができる。
 
方法
 1975年の直前および直後に生まれた出生した人(それぞれ1,026 304人および1,018 544人)が対象である。COVID-19の患者数および入院数が記録された。COVID-19関連の転帰に対するBCGワクチン接種の効果を評価した。この大規模集団において、無作為化比較試験では達成が困難な精度を可能となった。
 
結果
 COVID-19症例およびCOVID-19による入院のオッズ比(95%CI)は1.0005(0.8130-1.1881)および1.2046(0.7532-1.6560)であり、BCG定期接種のかなり僅かな効果も否定された。BCGワクチン接種により症例数が19%、入院数が25%減少するという仮設は、95%の信頼度で否定できた。
 
結論
 最近のBCGワクチン接種歴の効果を評価する必要があるが、出生時にBCGワクチンを接種しても、中年者のCOVID-19に対する保護効果は得られないという強い証拠が得られた。
 

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髄液検査の針は、何cmまで刺せば良いのか?

 腰椎穿刺を行う時、なかなか髄液が採取できないことありますよね(私はあります)。そんな時、刺入している向きが間違っているのか、脊柱管がもっと深くて、まだ届いていないだけなのか、分からないので困ってしまいます。
 この論文は、年齢や体重などのデータから、髄液検査の針を何cmまで入れれば良いか、教えてくれる論文です。
 
 まず、定義ですが、論文中に使用されるMSCD=「皮膚から脊柱管の中心までの距離」になります。(図参照)実際には、針が少しでも脊柱管に入ったら、髄液は引けるので、MSCDの深さまで入れなくても、髄液が出てくることがあるはずです。一方、針がMSCDよりも深く入っているのに髄液が出てこない時は、針先の方向が違うのでは無いかと考えたほうが良さそうです。
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腰椎穿刺の針を入れて良い目安の距離は
MSCD (mm)=体重×0.4+20
対象:3歳〜18歳(体重 6〜80kg)
 
 
Weight-based determination of spinal canal depth for paediatric lumbar punctures
Bailie HC, et al. Arch Dis Child. 2013;98:877.
 
目的:
 本研究の目的は、超音波を用いて測定した脊柱管の深さ(SCD)(注:皮膚から脊柱管までの距離)が、簡単な測定値から推定できるかどうかを、小児において評価することであった。
方法:
  0~18歳の225人の小児を対象に、超音波を用いて左側臥位でSCDを測定した。統計解析は、5%有意水準のピアソン相関係数を用いて行った。また、年齢、性別、身長、体重、体表面積の5つの予測因子を含む中線形回帰分析を行った。
結果:
 コホート全体の平均MSCD(注:皮膚から脊柱管の中心までの距離)は33.0mm(18.1-56.4)であった。MSCD(mm)と体重(kg)との間には、MSCD=体重×0.4+20(R2=0.72)に近似した線形相関が認められた。体重はデータの分散の85%を占めていた(調整後R2=0.72)。23/225例(10.2%)で実際に測定されたMSCDが予測の範囲を外れた。MSCDは10kgで24mm、30kgで32mm、50kgで40mmと推定された。
結論:
 大規模な小児の集団において、体重とMSCDの間には良好な相関関係があることを示した。MSCD (mm)=体重×0.4+20という単純な式を使用することで、小児集団における腰椎穿刺の成功率が向上する可能性があるが、まだ検証されていない。
 

 

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(対象は3ヶ月・6kg以上であり、新生児・乳児期早期に関してはデータなし)
 

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 年齢や身長でも相関関係がありますが、体重との相関が一番良さそうです。

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 とても相関関係が良さそうです
 

髄液検査についてひたすら語る

トリビアの宝庫とも言えるすげー論文です。

「小児の髄液検査、一体どうすればいいのか…」小児科医になったら全員が困ったことのあるテーマだと思います。

歴史から解剖学、合併症、適応、禁忌など

髄液検査について語り尽くしている濃厚な論文です。

 

個人的に役に立つと思ったトリビア

・皮膚からくも膜下腔までの深さ(mm)=0.4×体重+20.5

・CSF 20滴は1 mLに相当(点滴の滴下数と流速の関係と同じ)

・髄液中の乳酸値が3.5mmol/L以上であれば、細菌性髄膜炎を示唆

・生後1ヶ月未満の発熱は、尿路感染症があっても、髄膜炎は除外できない

・Traumatic tap(髄液検査で血液が混入した場合)の補正式

 補正細胞数=髄液細胞数−(末梢血WBC数/末梢血RBC数×髄液RBC数)

 

How to use… lumbar puncture in children
Arch Dis Children Educ Pract Ed. 2015;100:264.
 
はじめに
 小児の中枢神経感染症は後遺症率と死亡率が高い。早期診断・治療が転帰を改善するためには最も重要である。腰椎穿刺(LP)は、脳脊髄液(CSF)を採取する一般的な方法で、臨床的に100年以上用いられている。LPは、中枢神経疾患の診断と治療にまで役割を拡大し、小児科医が習得するべきスキルとなっている。
 Thomas Willisは、1664年に「epidemic fever」で死亡した患者で「脳の周りの液体」が濁っていることを発見し、病気におけるCSFの役割を初めて示した。1891年、Heinrich QuinkeはLPの手技を発表した。1912年、CSFの正常組成と異常値はWilliam Mestretazよって記述され、LPが診断に利用される基礎となった。
 
生理・解剖学的知識
 CSFは脳と脊髄に栄養を与え、保護する役割がある。新生児のCSFは約50mLで、この量は年齢とともに増加し、成人期には約150mLに達する。CSFは、脳室・くも膜下腔・血管周囲腔・脊柱管を循環し、上矢状静脈洞にあるくも膜絨毛で血管内に再吸収される。CSFと血清は、タンパク濃度が異なり、正常ではCSFのタンパクはごくわずかである。血液-脳関門(BBB)により、この差が生じる。新生児ではBBBが未熟であるため、CSFタンパクが比較的高くなる 。
 腰部は、LPにとって最も安全な部位である。脊髄はL1-L2のレベルで終わり、くも膜下腔はS2まで広がっているため、神経根のみのCSFで満たされた空間がある(図1)。新生児では、脊髄はL3に達する。したがって、脊髄損傷を避けるため、LPはL3-L4またはL4-L5の間に行われるべきである。
 
Figure 1
 
手技
 LPを実施する前に、保護者と必要に応じて患児への説明重要である。保護者には、適応、合併症、方法について説明しておく必要がある。鎮静、局所麻酔、鎮痛剤の使用を考慮する。ミダゾラムなどのベンゾジアゼピンを使用した鎮静は、保護者や患児の不安を軽減し、疼痛を軽減する上で安全で効果的である。指示にしたがる児には、一酸化窒素(NO)による鎮静でも可能である。局所麻酔薬のエムラクリームやテトラカインゲルなどの局所麻酔薬を使用するべきである。エムラクリームは、新生児の疼痛を軽減するのに有効である。小児では22Gの脊髄穿刺針が一般的に使用される。皮膚からくも膜下腔までの距離は体重とともに増加し、次の式を用いて推定される。深さ(mm)=0.4×体重+20.5。スタイレットのない針は、皮膚の上皮細胞がくも膜下腔に移植され、epidermoid腫瘍を作る可能性があり、避けるべきである。
 不適切な位置決めと不十分な解剖学的知識では、LPの成功率が下がり、手技の時間を要し、後遺症の増加につながる。小児には、股関節を屈曲させた左側臥位が推奨されます。これは腰椎の屈曲を真っ直ぐにし、棘突起の間のスペースを広げる。最近の研究では、新生児のLPでは、棘突起間のスペースを最大限にし、低酸素血症が少なくなるように、股関節を屈曲させた座位を考慮すべきであることが示唆されている。
 図2に示すように、両腸骨稜の最上側を結ぶTuffier線は、L4棘突起に一致する。この先より下では安全にLPを行うことができる(図1参照)。十分に広い清潔野を用意することは必須である。
 
 CSF 20滴は1 mLに相当する。LPでは、1.5~2mLの採取が必要である(表1)。一般的には、清潔容器3つとCSF糖測定のfluoride-containing tube (注:日本では糖も清潔容器の検体で測定)で採取する。特別な検査を実施する時は、十分な準備と検査機関との連絡が必要である。例えば、神経伝達物質のスクリーニングのためのCSFサンプルは、ドライアイス液体窒素で凍結させて、すぐに検体を搬送する必要がある。一般的なLPの技術的な問題とその解決策を表2に示す。
 
LPの合併症
・脳ヘルニア:腰椎穿刺(LP)後の脳ヘルニアは、細菌性髄膜炎患者の5%に発生したとのレビューがある
感染症:無菌手技を用いた場合には極めて稀。椎骨骨髄炎、椎間板炎、硬膜外膿瘍、細菌性髄膜炎が報告されている。
・出血:まれ。脊髄の出血の症状は、LP後すぐに激しい腰痛や橈骨神経痛を伴う。肛門括約筋麻痺、運動麻痺や鞍部の感覚障害を伴う。
・一過性の感覚障害:下肢の感覚異常が見られることがある。針が馬尾の神経根に接触した場合、処置中に発生する。
針の位置を変えるとすぐに解決する。永久的な神経損傷はまれ。
・背部痛:まれ。複数回の試行後に報告される可能性が高い。
・LP後の頭痛:後述
 
LPの適応
 髄液検査は、感染症、炎症性疾患、代謝異常症、遺伝性神経疾患など様々な疾患の診断に有用である。ガイドラインでは、髄膜炎の疑いがあるすべての小児は、禁忌事項がなければ、髄液検査を受けるべきであると推奨されている。LPは、特発性頭蓋内圧亢進症の管理にも有効である。抗生物質(例:バンコマイシン)や化学療法(例:メトトレキサート)などの治療薬もLPを介して投与することができるが、特別なトレーニングが必要である。
 
LPの禁忌
 現在のNational Institute for Health and Care Excellenceのガイドラインでは、CTはLPを受ける患者の頭蓋内圧が上昇を判断する信頼性は低いとされている 。CTスキャンは頭蓋内圧(ICP)上昇の徴候がある場合、LPの前に実施することが推奨されているが、ICP上昇を完全に除外することはできない。
 
〜禁忌のまとめ〜
・頭蓋内圧上昇を示唆する徴候。
  意識の低下または変動 GCSスコア<9または3以上の低下
  徐脈、高血圧、不規則な呼吸(Cushing徴候)
  神経学的巣徴候(不同瞳孔、脳神経麻痺または手足の脱力感など)
  姿勢の異常
  乳頭浮腫(眼底)
  人形の目徴候
・ショック
・痙攣の後、状態が安定していない
・凝固異常
  スクリーニングで凝固異常
  血小板数<40×109/L
  抗凝固療法中
・LP部位の感染
・呼吸不全
 
Clinical Questions
Q1. LPを受けた小児で、LP後頭痛の発生を抑えるためにはどのような予防策が最も効果的なのか?
 
 LP後頭痛は、穿刺部位からの持続的なCSF漏出が原因で起こると考えられている。漏出が産生量を上回ると、脳を支えるクッションとしての機能が低下し、髄膜に力が加わり、痛みが生じる。頭痛は立位で悪化し、通常は1週間以内に改善する。発生率は32%と報告されている。
 予防法は以下の通りである。
 ・より細い針を使用;成人の臨床研究で支持されているが、小児の研究では、エビデンスが少ない。
 ・針を 垂直に挿入するのではなく、針のカット面を背骨と平行にすると頭痛の発生率が低下する(7.9% vs 19.3%)。縦方向のコラーゲン硬膜線維を切断せず、分け入るように針が入るためと考えられる。
 ・針を抜く前にスタイレットを再挿入する(発生率 5% vs. 6%)。
 
 いくつかの研究では、鈍い針の使用は、LP後の頭痛を減らすことができることが示されている。これらの針は硬膜線維を分け、硬膜が切断されるのを最小限に抑え、結果としてCSFの漏れを少なくすると考えられている。
 十分な水分補給、鎮痛剤、制吐剤を対症療法的に使用することがあるが、LP後頭痛の大部分は特別な治療を行わなくても改善する。遷延したり、症状が強い頭痛では、硬膜外血栓塞栓療法を行うこともある。
 
 
Q2. 髄膜炎が疑われる小児では、CSFの乳酸値は細菌性とウイルス性髄膜炎を区別できるか?
 
 細菌性髄膜炎では、細菌性嫌気性代謝によって乳酸が産生される。CSFの乳酸値は細菌性髄膜炎とウイルス性髄膜炎の鑑別に有用であるが、初期のLPでは鑑別が困難な場合がある。例えば、エンテロウイルス髄膜炎では、CSFの所見は細菌性髄膜炎と類似していることがある。細菌性髄膜炎およびウイルス性髄膜炎におけるCSF中の乳酸値を検討した25件の研究のメタアナリシスと1件のシステマティックレビューでは、CSF中の乳酸値は、単一のマーカーとしては細菌性とウイルス性髄膜炎の鑑別に最も有用な項目であり、髄液糖や細胞数など従来の指標と比較した場合、優れていると結論づけられている。
 髄液糖を評価するときには、血清サンプルが必要であるが、乳酸値は不要である。髄液中の乳酸値が3.5mmol/L以上であれば、細菌性髄膜炎を示唆します。
 多くの場合、LPより前に抗菌薬が開始される。その結果、しばしばCSFの細菌培養が陰性になる。抗菌薬治療により髄液中の乳酸値の臨床的精度が低下するメタアナリシスで結論づけられている。
 
Q3. 尿路感染症が証明されている生後3ヶ月未満の発熱性乳児では、日常的にLPを行うべきか?
 
 尿路感染症(UTI)は、生後30日未満の発熱児の6人に1人が罹患しています。このような乳児でも、髄膜炎を併発していないか調べるためにLPを行うべきであるというエビデンスがある。後方視的研究で、UTIと髄膜炎の併発のリスクを評価している。735人のUTI患者の内、髄膜炎を併発していたのは2人だけで、いずれも生後1ヶ月未満であった。結論として、発熱している新生児(生後1ヶ月未満)ではUTIの診断がついても、LPを行うべきである。
 
Q4. CRPが上昇している新生児では、全例にLP検査を行うべきか?
 新生児は、無症状であっても、母体に感染症のリスクがあれば、生後24時間未満で血液検査を実施することも多い。CRPはしばしば上昇しており、管理方針は施設や医師によって異なる。
 CRP胎盤をほとんど通過しないため、新生児のCRP上昇は常に新生児側で合成されていることを意味する。CRPの上昇は分娩時のストレスに対する生理的反応である可能性があり、生後2日目に13mg/Lでピークを迎える。ある研究では、母体の危険因子のためにLPを含む敗血症のスクリーニングを受けた児を検討した。3423名の無症状の児を評価したが、髄膜炎は1例もいなかった。CRPが上昇しているが無症状の新生児では、CRPの経過をフォローし、症状のある乳児にのみLPを実施することが妥当であることを示唆している。
 
 
Q5. 特発性頭蓋内圧亢進症(IIH)では、LPで症状は軽減しますか?
 
 ある研究では、小児水頭症の外ドレナージ排液量を測定してCSF産生量を調べている。IIHの患者に対して、LPで一時的に頭蓋内圧を下げることで症状緩和が得られるかもしれないが、通常は効果は短期間である。どのくらいの量を除去すべきか等のエビデンスは無い。CSFが継続的に産生されているので、頭蓋内圧は1-2時間以内にLP前の状態に戻る。したがって、IIHに対しては他の治療法が好まれる。
 
Q6. LPで血液が混入した場合、どのようにして細胞数上昇を診断するのか?
 正常なCSFでは、赤血球は5/μL、白血球は5/μLまで存在する。LPで血液が混入した場合、髄液中白血球数の解釈は困難になる。この問題を扱った研究は非常に少なく、現在推奨されている計算式の妥当性については議論の余地がある。実際には、末梢血の赤血球数に対する全白血球数の比率が目安となる。CSF中の比率の方が高い場合、髄液細胞数が上昇している可能性が高いと考えられる。
 
 <よく用いられる補正式>
補正細胞数=髄液細胞数−(末梢血WBC数/末梢血RBC数×髄液RBC数)
末梢血のデータが無いときには、末梢血WBC数/末梢血RBC数=1/800で代用する
 
さらなる研究のトピックス
 現代では、診断手技の大部分は、安全性と有効性を高めるために放射線ガイド下の手技が使用されている。LPの大部分は、穿刺部位を特定するために解剖学的なランドマークを使用して「盲目的に」行われている。成人では、超音波ガイドがLPに有益であることを示唆するいくつかの文献がある。小児のエビデンスは限られており、大部分の研究では、超音波を使って脊髄の解剖学的構造を評価することを目的としている。いくつかの小規模な研究では実現可能であることが示唆されているが、より大規模な無作為化試験が必要とされている。